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「それでね、あなたにお願いがあるのよ」
れの言葉に、やっぱりそうきたか、とカトリーヌは思わず眉をひそめた。
本当ならば話を聞くことすらせずに、突っぱねてしまいたいところである。
しかし何を言っても、レイラが素直に引き下がるとは思えず、カトリーヌは溜め息をついてからボソリと言った。
「……なに?お願いって」
「私が婚約破棄したいって言ってるのに、フランクはどうしても嫌だって言うのよ。
何度も家に押しかけてきたりしていて……。
もう怖くて、とても家にいられなくて!」
「……そうなの」
「ええ。だからね」
レイラはグイッと身を乗り出した。
「しばらく、ここに隠れさせてちょうだい」
今の今まで流していた涙は、どこへ行ったのやら。
レイラは満面の笑みで見上げてくる。
カトリーヌは目をパチパチッとしながら、しばらくぼんやりとレイラの言葉の意味を考えていた。
あまりに突飛な考えに、そうでもしないと頭が追いつかなかったのである。
それでもようやく彼女の言わんとすることを理解した時、カトリーヌはまず、ぽっかりと口を開けたまま固まってしまった。
それから
「良いでしょ、カトリーヌ!」
と、レイラのはしゃいだ声を聞いて我にかえると、急いで強く頭を左右に振った。
「そ、そんなの無理よ!」
「どうして?
だって私、とっても困っているのよ!
こんなに苦しんでいるのよ!?」
「それはそうかもしれないけど……。
そもそも、ここは私の家じゃないもの」
「カトリーヌはスチュアート様の婚約者なんだから、もうほとんど、あなたの家みたいなものじゃないの!
ね?お願いよ!」
「そんな無茶苦茶な……」
「だったらスチュアート様に相談してよ!
スチュアート様だったら、私がどんなに困っているかを知れば、しばらく滞在するのを許可して下さるわ!」
カトリーヌは、ほとほと困ってしまった。
レイラに言った通り、自分の一存でレイラを住まわせるわけにはいかない。
かと言ってスチュアートに相談するのも、ためらわれた。
もし彼が本当に許可を出してしまったら……。
レイラには悪いが、カトリーヌとしては、彼女をここにおいておきたくはなかったのである。
元々は、もうレイラとは関わりたくないと思えばこそ、カトリーヌはここに来たのだ。
それを今さら……。
どうするべきかと悩みながら、隣でギャンギャン吠えたてるレイラを無視して、目を閉じて考えていたのだったが。
不意に扉が開く音がして、カトリーヌは振り返った。
そして、そこに立っている人物を見て、息を呑んだ。
と同時に隣では、レイラが目の色を変えて、とびきりの笑顔を浮かべながら立ち上がった。
「ご無沙汰しております、スチュアート様!」
そう、それはカトリーヌが今一番会いたくなかった人物。
スチュアートだったのである。
れの言葉に、やっぱりそうきたか、とカトリーヌは思わず眉をひそめた。
本当ならば話を聞くことすらせずに、突っぱねてしまいたいところである。
しかし何を言っても、レイラが素直に引き下がるとは思えず、カトリーヌは溜め息をついてからボソリと言った。
「……なに?お願いって」
「私が婚約破棄したいって言ってるのに、フランクはどうしても嫌だって言うのよ。
何度も家に押しかけてきたりしていて……。
もう怖くて、とても家にいられなくて!」
「……そうなの」
「ええ。だからね」
レイラはグイッと身を乗り出した。
「しばらく、ここに隠れさせてちょうだい」
今の今まで流していた涙は、どこへ行ったのやら。
レイラは満面の笑みで見上げてくる。
カトリーヌは目をパチパチッとしながら、しばらくぼんやりとレイラの言葉の意味を考えていた。
あまりに突飛な考えに、そうでもしないと頭が追いつかなかったのである。
それでもようやく彼女の言わんとすることを理解した時、カトリーヌはまず、ぽっかりと口を開けたまま固まってしまった。
それから
「良いでしょ、カトリーヌ!」
と、レイラのはしゃいだ声を聞いて我にかえると、急いで強く頭を左右に振った。
「そ、そんなの無理よ!」
「どうして?
だって私、とっても困っているのよ!
こんなに苦しんでいるのよ!?」
「それはそうかもしれないけど……。
そもそも、ここは私の家じゃないもの」
「カトリーヌはスチュアート様の婚約者なんだから、もうほとんど、あなたの家みたいなものじゃないの!
ね?お願いよ!」
「そんな無茶苦茶な……」
「だったらスチュアート様に相談してよ!
スチュアート様だったら、私がどんなに困っているかを知れば、しばらく滞在するのを許可して下さるわ!」
カトリーヌは、ほとほと困ってしまった。
レイラに言った通り、自分の一存でレイラを住まわせるわけにはいかない。
かと言ってスチュアートに相談するのも、ためらわれた。
もし彼が本当に許可を出してしまったら……。
レイラには悪いが、カトリーヌとしては、彼女をここにおいておきたくはなかったのである。
元々は、もうレイラとは関わりたくないと思えばこそ、カトリーヌはここに来たのだ。
それを今さら……。
どうするべきかと悩みながら、隣でギャンギャン吠えたてるレイラを無視して、目を閉じて考えていたのだったが。
不意に扉が開く音がして、カトリーヌは振り返った。
そして、そこに立っている人物を見て、息を呑んだ。
と同時に隣では、レイラが目の色を変えて、とびきりの笑顔を浮かべながら立ち上がった。
「ご無沙汰しております、スチュアート様!」
そう、それはカトリーヌが今一番会いたくなかった人物。
スチュアートだったのである。
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