自分こそは妹だと言い張る、私の姉

神楽ゆきな

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「ええっ?」

フランクが素っ頓狂な声を上げたものだから、驚いた使用人の男が素早くこちらを見る。
レイラは慌てて彼に見えないように体をひねりながら、フランクの腕に自分の腕を絡ませた。

「しー!静かにしてよ。
聞こえちゃうじゃない!」
「ご、ごめん」

フランクは素直に謝ってから、目を大きく見開いて囁いた。

「でもさ、きみがビックリするようなことを言うからさ!
どうしたんだよ、突然」
「だって……」

フランクが驚くのは想定内だ。
なにしろ結婚前の男女ならば、いくら婚約者とは言っても、2人きりにならぬよう気を配るのが当然なのである。

それなのに『2人きりになりたい』などと言われれば、フランクが動揺しないはずがない。

しかしレイラは引き下がらなかった。
使用人には見えぬよう気をつけながら、そっとフランクの手を握ると、

「もう結婚式は来月なのよ?
少しくらい大丈夫じゃない?」

と甘い声で囁く。
上目で彼を見つめれば、瞬きひとつせずに、フランクがゴクリと喉を鳴らした。

「そ、そりゃあ……僕だって、今すぐレイラと2人きりになりたいさ。
でも一応さ、ほら……分かるだろ?」

と、いまいち煮え切らない様子の婚約者に、レイラはほとほと呆れてしまった。
そしてついに

「そうね、フランク。
あなたの言う通りだわ」

と唇を尖らせながら言った。
これにホッと胸を撫で下ろしたフランクが、笑顔を浮かべた。

しかしレイラは見逃さなかった。
使用人の男がグラスを片付ける為に、こちらに背を向けているのを。

すかさずレイラは胸元のリボンに手をかけると、スルリとほどいた。
酒に酔ったフランクの赤い目が、深く開いた彼女の胸元に釘付けになる。

「きゃっ……」

わざとらしくレイラが、はだけた胸を隠そうと手を当てたのと、フランクが使用人に声をかけたのは、同時だった。

「きみ、今日はもう下がって良いよ。
あとは自分たちで適当にやるから」

フランクは使用人からレイラが見えぬように体で庇ってくれている。
レイラは彼の胸に、そっと身を寄せた。

「しかし、フランク様……」

使用人の男は、何か言いたそうに眉を潜める。
しかしフランクが何も言わないでいると、観念したように、軽く頭を下げて出て行った。

扉が閉まるまでの、ほんの数秒。
フランクが食い入るように自分を見つめているのを感じながら、レイラは心の内でほくそ笑んだ。


そして扉が閉まってから、5分が経った頃のこと。


レイラは屋敷の隅々まで響き渡るほどの悲鳴を上げて、1人残らず使用人達を駆けつけさせると、はらはらと涙を流してみせたのである。

「フランク様に、いきなり押し倒されそうになったのです!
助けて下さい!」

レイラに覆い被さるようにしていたフランクが、それを聞いて真っ青になったのは言うまでもない。
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