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やはり、ここに来たのがレイラではないことに、スチュアートは腹を立てているのだろう。
そう思ったカトリーヌは、急いで腰を屈めた。

「お初にお目にかかります。
カトリーヌ・オルディスでございます」

ほんの少し顔を上げ、スチュアートを見たものの、もじゃもじゃの髪が邪魔をして、その表情を窺い知ることはできなかった。

しかし、何も返事がないことを考えても、彼が怒っているらしいことは明らかで。
これからどうなるのだろうかと思うと、握りしめた両手が震えてくる。

それでもなんとか精一杯の笑顔を浮かべ直して、カトリーヌは続けた。

「参りましたのが妹のレイラではなく、本当に申し訳ございません。
しかし私は……」

そこまで言ったところで、何を言おうとしたのか分からなくなってしまって、つい言葉が途切れた。

なにしろスチュアートが鋭い目つきで、いつまでもこちらを睨んでくるのである。
そんな状態では頭が真っ白になってしまっても、仕方がなかっただろう。

恐怖のあまりカトリーヌが顔を引きつらせたまま、口をパクパクしていると、見かねたらしいマリアンナが慌てたように口を開いた。

「スチュアート様!
そんなにジッと女性を見るものではございませんよ。
カトリーヌ様が怖がっていらっしゃいます。
せっかく……」

その明るい声に、カトリーヌの緊張も少しほぐれかけたというのに。
突然

「マリアンナ!
余計な口を挟むな!」

と、スチュアートの怒声が響いたものだから、思わず体を震わせた。

やはり無愛想で、使用人を手荒に扱うという噂通りの男のようだ。
こんな男の妻になるなんて……。

カトリーヌは今にも尻尾を巻いて逃げ出したい気分だったが、まさかそんなことが出来るはずもない。

とにかく笑顔だけでも浮かべたいところだが、とてもそんな余裕はなくて。
ガクガクと震える足に力を入れて、なんとかしゃがみ込まずにいるのが精一杯。

せっかくかばってくれたマリアンナも、うつむいて黙ってしまった。

重い沈黙が、流れる。

スチュアートはしばらく何も言わずに立っていたが、やがて、無言のまま部屋を出ていってしまった。

バタンと扉が閉まる音がすると、どっと疲れが襲ってくる。
カトリーヌは思わずマリアンナと顔を見合わせると、どちらからともなく深く息を吐き出したのだった。


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