自分こそは妹だと言い張る、私の姉

神楽ゆきな

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そうと決まってしまってからは早かった。

一応、両親からは心配の言葉をかけてもらったし、レイラからは心のこもっていないお礼と謝罪の言葉を放り投げられたけれど。
カトリーヌが何も言わずに、何度か頷いてみせたら、やがて3人とも何も言わなくなってしまった。

感傷に浸る間もなく、慌ただしく花嫁支度がなされていった。

普段ならば絶対選ばないような煌びやかなドレスが、ここぞとばかりに仕立てられては詰め込まれていく。
靴やアクセサリー、手袋に化粧品まで、カトリーヌが何も言わなくとも、使用人達がテキパキと荷造りをしてくれて、1つ残らず馬車に押し込んでくれた。

そして最後のおまけとばかりに、ちょこんとカトリーヌも乗せられたら、準備は完了だ。

「じゃあ……気をつけて。元気でな」

と窓越しに父親のキスを頬へ受けると、馬車はゆっくりと動き出した。 

一応手を振りながら窓から身を乗り出すと、母親はわずかに瞳を濡らして、弱々しい笑みを浮かべていた。
その後ろで、口を手で覆いながら、じっとこちらを見ていたレイラと目があった。

白い指に隠れていたから、カトリーヌからは見えなかったけれど。
絶対にレイラは満足そうに笑っているに違いない、と思いながら、息を吐き出して窓を閉めた。

座席にもたれながら、窓の外に目をやれば、ぐんぐんと見慣れた景色が後ろへ飛んでいく。
そしてすぐに薄暗い山の風景に変わっていった。

「これで、生まれ育ったこの町ともお別れね……」

まるで自分の心を映し出しているかのように、重苦しい暗闇が窓の向こうに広がっている。
見ているだけで、冷たい空気が足元からジワジワと登ってくるような気がして、カトリーヌは慌てて肩掛けを掻き合わせた。

そして

「こう寒くては、とても眠れそうにないわね。
まだまだかかるのだから、少しでも寝ておきたいのだけれど……」

などと呟いていたのだったが。
ひどい揺れに身を任せ、そっと目を閉じている内に、いつの間にか眠りに落ちていったのだった。

結婚が決まってから、よく眠れていなかったせいだろう。
この悪条件の中だというのに、随分と深く眠ってしまっていたらしい。

大きな振動で頭をぶつけて目を覚ましたカトリーヌは、一瞬、どこにいるのか分からなくなってしまったほどだった。

しかしすぐに思い出した。
なにしろ窓の外にそびえ立つ巨大な屋敷が、目に飛び込んできたのだから。

「着いたのね……」

スチュアート侯爵の悪い噂ばかりを聞いていたせいだろうか。
屋敷は確かに立派そうだったが、やけに薄暗く、陰気そうな雰囲気を纏って見える。

まるで他者を拒んでいるかのような佇まいに、カトリーヌは幸先の悪さを感じずにはいられなかった。


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