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しおりを挟むカトリーヌは呆然としてしまって、薄く開いた唇を閉じることさえ忘れてしまった。
「だってそうでしょう?
あなたが妹ですもの。
ね、カトリーヌ?」
何でもないことのように言うレイラに、返す言葉も思いつかなかった。
なぜか得意気な顔のレイラを見つめながら、考えていたのは
そうだ。私……妹だったんだ。
という事ばかりだった。
もう何年、レイラに『カトリーヌお姉様』と呼ばれてきたのだろう。
はっきりとは思い出せないが、子どもの頃から彼女は『自分が妹だ』と主張していた。
それが今の今までずっと続いていたから、カトリーヌや両親でさえも、すっかりそのことを忘れていたのである。
そんな事を言い始めたのは、いったいいつからだったかしら。
カトリーヌはぼんやりと考えを巡らせていった。
レイラもカトリーヌも、まだ幼かった頃のことへ。
そうだ。
あれは確か、親戚の誰かの結婚式か何かの日のことだった。
挙式が終わっても、大人達はお酒を片手に、いつまでも飽きる事なく話しを続けていた。
そこで、つまらなくなった子ども達は誘い合って庭に出ると、追いかけっこを楽しんだ。
そしてクタクタになるまで遊んだところへ、使用人がクッキーを持ってきてくれて、皆で奪い合うように食べたのである。
皿に残った最後の1枚に、手を伸ばしたカトリーヌ。
しかしその手を叩き、素早く横取りしたのはレイラだった。
「私のよ。だって私がお姉さんですもの」
と言われて、カトリーヌは思わず泣き出してしまったのだが、そこへ誰かが言ったのである。
「カトリーヌにあげなよ。
お姉さんなら妹にあげなきゃいけないんだよ」
親戚ではない子どもも沢山いたはずだから、それが誰だったのかは覚えていない。
しかし、そう言われたレイラに凄い目で睨まれたことだけは、はっきり覚えている。
そして、その後の彼女の呟きも。
「なによ……だったら、お姉さんなんかより、妹の方がずっと得じゃないの。
お姉さんなんか、なんにも良い事なんかないわ」
確かにレイラはそう言った。
そしてその日から急に、カトリーヌの事を『お姉様』と呼び始めたのである。
始めは、また何かの遊びなのだと、両親もカトリーヌも思っていた。
ところが、いつまで経ってもレイラはそう呼び続けたのだった。
両親にやめるよう叱られても、使用人に説得されても、友人に変な目で見られても、効果はなくて。
とうとう諦めたのは、レイラではなく周囲の者の方だった。
あまりに自然に言い続けるものだから、しまいにはカトリーヌ自身でさえ、自分が妹だったと忘れていたほどである。
そう。たった今までは、だ。
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