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キャンディスが体を起こそうとするのを、セオドアが力づくで押さえつけてくる。
そのせいでキャンディスのドレスは無茶苦茶に引っ張られ、悲鳴をあげていた。
ドミニクにプレゼントしてもらった大切なドレスが、いまやシワだらけになり、音を立てて裂けていく。
その音を聞きながらも、どうすることもできず、キャンディスはただ闇雲に手を振り回した。
何か固いものが砕ける音がして目を向けると、キャンディスの髪飾りが床の上で粉々に砕けていた。
暴れすぎたせいで、いつの間にか髪から滑り落ちていたらしい。
これもドミニクから貰った大切な物だったのにと思うと、悲しいやら、悔しいやら。
疲れと絶望に襲われて、ますます表情が乏しくなるキャンディスとは対照的に、セオドアの目は輝きを増していた。
「さあさあ、もう良いだろう?
諦めて力を抜いて」
「そんなの、絶対にイヤよ!」
キャンディスが睨みつけるのにも怯まずに、セオドアは薄笑いを浮かべると、破れたドレスの隙間から指を潜り込ませてくる。
キャンディスは恐怖のあまり、思わずきつく目を閉じた。
が、その時である。
乱暴に扉を叩く音がして、セオドアの手が止まった。
と同時に聞こえて来たのは、ドミニクの怒鳴り声だった。
「キャンディス!いるのか!」
「ドミニク!」
キャンディスは必死に叫び返す。
「ここにいるわ!助けて!」
それに応えるように、ノブが回る。
しかしセオドアは余裕たっぷりな笑い声を上げた。
「そんなことをしても無駄だ。
開かないよ。
大人しく待っているんだな」
それからキャンディスの耳元で囁いた。
「キミが僕のものになったと知った時、ドミニクはどんな顔をするんだろうね。
楽しみだな……」
セオドアがスカートを捲り上げると、キャンディスの白い太ももが露わになる。
セオドアが舌なめずりしながら、ゆっくりと撫で始めた時、物凄い音と共に扉が開いた。
と同時に、砕けた扉の破片が飛び散る。
ドアノブが外れて床に転がるのを、キャンディスは信じられない思いで見つめていた。
次の瞬間には、キャンディスに覆い被さっていたはずのセオドアが、ドミニクに殴り倒されて床に転がり落ちていた。
「大丈夫か、キャンディス」
「あ……」
キャンディスは言葉にならない呻き声を漏らして、ドミニクにしがみつく。
彼は力強く抱きしめてくれた。
セオドアは呆れたような顔をしながら、ゆっくりと体を起こし、ため息をついた。
「邪魔な奴が来たなあ。
良いところだったのに」
「セオドア、お前……自分が何をしたのか、分かっているんだろうな」
「分かっているさ。
確かにちょっと手荒だったかな、とは思ってるよ。
でもキャンディスだって、抵抗するのは最初だけ。
すぐにお互い良い気持ちになれるはずだったんだから、問題ないだろ?
むしろそれを邪魔したのは、お前の方だ」
この状況で、笑っていられるセオドアに、キャンディスは恐怖のあまり震えが止まらなかった。
彼女の背中に回されたドミニクの手も、ブルブルと震えている。
しかしそれは悲しみではなく、怒りの為なのだと、彼の歪められた顔を見ればすぐに分かった。
「お前……」
ドミニクが再び殴り掛かろうと、右手を握りしめる。
しかし彼が動く前に、新たな声が飛び込んできたのである。
「何言ってるの!
問題に決まってるでしょ。
大問題よ!」
その声に、セオドアが青ざめた。
皆が振り返ると、そこには、腰に手を当て仁王立ちでセオドアを睨みつけるグレースの姿があった。
そのせいでキャンディスのドレスは無茶苦茶に引っ張られ、悲鳴をあげていた。
ドミニクにプレゼントしてもらった大切なドレスが、いまやシワだらけになり、音を立てて裂けていく。
その音を聞きながらも、どうすることもできず、キャンディスはただ闇雲に手を振り回した。
何か固いものが砕ける音がして目を向けると、キャンディスの髪飾りが床の上で粉々に砕けていた。
暴れすぎたせいで、いつの間にか髪から滑り落ちていたらしい。
これもドミニクから貰った大切な物だったのにと思うと、悲しいやら、悔しいやら。
疲れと絶望に襲われて、ますます表情が乏しくなるキャンディスとは対照的に、セオドアの目は輝きを増していた。
「さあさあ、もう良いだろう?
諦めて力を抜いて」
「そんなの、絶対にイヤよ!」
キャンディスが睨みつけるのにも怯まずに、セオドアは薄笑いを浮かべると、破れたドレスの隙間から指を潜り込ませてくる。
キャンディスは恐怖のあまり、思わずきつく目を閉じた。
が、その時である。
乱暴に扉を叩く音がして、セオドアの手が止まった。
と同時に聞こえて来たのは、ドミニクの怒鳴り声だった。
「キャンディス!いるのか!」
「ドミニク!」
キャンディスは必死に叫び返す。
「ここにいるわ!助けて!」
それに応えるように、ノブが回る。
しかしセオドアは余裕たっぷりな笑い声を上げた。
「そんなことをしても無駄だ。
開かないよ。
大人しく待っているんだな」
それからキャンディスの耳元で囁いた。
「キミが僕のものになったと知った時、ドミニクはどんな顔をするんだろうね。
楽しみだな……」
セオドアがスカートを捲り上げると、キャンディスの白い太ももが露わになる。
セオドアが舌なめずりしながら、ゆっくりと撫で始めた時、物凄い音と共に扉が開いた。
と同時に、砕けた扉の破片が飛び散る。
ドアノブが外れて床に転がるのを、キャンディスは信じられない思いで見つめていた。
次の瞬間には、キャンディスに覆い被さっていたはずのセオドアが、ドミニクに殴り倒されて床に転がり落ちていた。
「大丈夫か、キャンディス」
「あ……」
キャンディスは言葉にならない呻き声を漏らして、ドミニクにしがみつく。
彼は力強く抱きしめてくれた。
セオドアは呆れたような顔をしながら、ゆっくりと体を起こし、ため息をついた。
「邪魔な奴が来たなあ。
良いところだったのに」
「セオドア、お前……自分が何をしたのか、分かっているんだろうな」
「分かっているさ。
確かにちょっと手荒だったかな、とは思ってるよ。
でもキャンディスだって、抵抗するのは最初だけ。
すぐにお互い良い気持ちになれるはずだったんだから、問題ないだろ?
むしろそれを邪魔したのは、お前の方だ」
この状況で、笑っていられるセオドアに、キャンディスは恐怖のあまり震えが止まらなかった。
彼女の背中に回されたドミニクの手も、ブルブルと震えている。
しかしそれは悲しみではなく、怒りの為なのだと、彼の歪められた顔を見ればすぐに分かった。
「お前……」
ドミニクが再び殴り掛かろうと、右手を握りしめる。
しかし彼が動く前に、新たな声が飛び込んできたのである。
「何言ってるの!
問題に決まってるでしょ。
大問題よ!」
その声に、セオドアが青ざめた。
皆が振り返ると、そこには、腰に手を当て仁王立ちでセオドアを睨みつけるグレースの姿があった。
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