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「僕はさ、ドミニクに邪険にされて心底落ち込んでるんだ。
だから慰めて欲しいんだよ。
キミみたいな可愛らしい女の子に、さ」
手を伸ばしてくるセオドアから逃れるように、キャンディスはかけ出すと、扉に飛びついた。
そして必死にノブを回したが、鍵をかけられたらしく開くことはなかった。
どうりでセオドアが余裕たっぷりの笑顔で眺めてくるわけだ。
キャンディスは小さく舌打ちして辺りを見回すと、今度は窓へと駆け寄った。
しかし階下を見下ろして動けなくなってしまった。
ここが三階であることを、すっかり忘れていたのである。
この高さでは、まさか飛び降りるわけにもいかない。
キャンディスは頭が真っ白になり、動けなくなってしまった。
背後に気配を感じて振り向いた。
いつの間にやって来たのか、セオドアがすぐ後ろから彼女を見下ろしていた。
「本当は、ずっと前から分かっていたんだよ。
キャンディスは僕のことが好きだろう?」
キャンディスは黙って後ずさった。
しかしすぐに背中が窓に当たり、それ以上セオドアから距離をとることは出来なかった。
キャンディスは彼を強く睨みつけながら口を開いた。
「確かに好き……でした」
「やっぱり!嬉しいな。
僕もキャンディスが好きだよ。
心も体も全部僕のものにしたいくらいにね」
クスクス笑いと共に伸びてくるセオドアの手から逃れるようと、横へ横へと体をずらしながら、キャンディスは噛み付くように言った。
「でも好きだったのは、もう随分前の事です!
今、私はドミニク婚約者ですし、彼のことしか頭にはありません。
私が触れて欲しいと思うのも、ドミニクだけです」
「……僕じゃイヤってこと?」
「当たり前です!」
キャンディスが叫ぶのと、セオドアの手がキャンディスの腕を掴んだのは、ほとんど同時だった。
乱暴に体を引かれたせいで、足がぐらつき、手をつく余裕もなく倒れ込んでしまう。
しかし床へと叩きつけられることはなかった。
ちょうどベッドの上に倒れたおかげで体を打ち付けずに済んだのである。
しかしそれに安堵している暇はなかった。
目の前にセオドアの顔が現れたと思った時には、もう体を動かすことが出来なくなっていたのだ。
「どいてください!離して!」
力一杯暴れても、彼は器用にキャンディスの上にのしかかり、組み敷いてしまう。
そして余裕たっぷりの笑顔で見下ろしていた。
彼の整った顔が、見る間にぼやけていく。
キャンディスの目は、自分でも気づかないうちに涙でいっぱいになっていた。
「セオドア様には、グレース様がいるじゃないですか!
こんなことをしたと知れば、悲しみますよ!」
「イヤだなあ……こんな時に他の人の事なんて考えないでよ。
今は、僕のことだけを考えて」
セオドアの顔がゆっくりと近づいてくる。
キャンディスは慌ててそっぽを向いた。
「止めてください!お願いです!
私はドミニクが……!」
「キャンディスは、ドミニク、ドミニクばかりだね。
もうその名前を聞くだけでも、うんざりだよ」
セオドアのため息が耳にかかる。
彼の声は聞いたこともないほど低く、暗い調子で、なんだか恐ろしかった。
「本当はね、子どもの頃からドミニクのことなんか嫌いだったんだ。
なにしろ、あいつは好き勝手やったって許されるのに、僕はいつだって良い子でいなきゃいけない。
随分と窮屈な子ども時代をおくらされたのは、ドミニクのせいなんだよ。
だったら少しくらい、憂さ晴らししたいって思っても、許されると思わない?
あいつの大切なものを奪って……さ」
「まさか、グレース様もそういうつもりだったんですか?」
「もちろん!
でも彼女は全然手応えなかったな。
誘ったら、ほいほい寝室までついてきてさ。
あの時ばかりは、ドミニクが可哀想になったね」
言いながら、セオドアの指が彼女の肩から薄布を引き下ろしていく。
剥き出しの肌に彼の指が触れるのを感じて、キャンディスは悲鳴を上げた。
「いや!やめてくださいっ!
ドミニク……!」
「あれ、こう言う時に僕の名前を呼んでくれない子なんて珍しいね。
みんな喜びながら、僕の名前を呼んでくれるんだけど。
でもまあ、こういうのもたまには良いかな」
セオドアがキャンディスの白い首すじに顔を埋めてくる。
生暖かい舌の感触に、震えがとまらなかった。
だから慰めて欲しいんだよ。
キミみたいな可愛らしい女の子に、さ」
手を伸ばしてくるセオドアから逃れるように、キャンディスはかけ出すと、扉に飛びついた。
そして必死にノブを回したが、鍵をかけられたらしく開くことはなかった。
どうりでセオドアが余裕たっぷりの笑顔で眺めてくるわけだ。
キャンディスは小さく舌打ちして辺りを見回すと、今度は窓へと駆け寄った。
しかし階下を見下ろして動けなくなってしまった。
ここが三階であることを、すっかり忘れていたのである。
この高さでは、まさか飛び降りるわけにもいかない。
キャンディスは頭が真っ白になり、動けなくなってしまった。
背後に気配を感じて振り向いた。
いつの間にやって来たのか、セオドアがすぐ後ろから彼女を見下ろしていた。
「本当は、ずっと前から分かっていたんだよ。
キャンディスは僕のことが好きだろう?」
キャンディスは黙って後ずさった。
しかしすぐに背中が窓に当たり、それ以上セオドアから距離をとることは出来なかった。
キャンディスは彼を強く睨みつけながら口を開いた。
「確かに好き……でした」
「やっぱり!嬉しいな。
僕もキャンディスが好きだよ。
心も体も全部僕のものにしたいくらいにね」
クスクス笑いと共に伸びてくるセオドアの手から逃れるようと、横へ横へと体をずらしながら、キャンディスは噛み付くように言った。
「でも好きだったのは、もう随分前の事です!
今、私はドミニク婚約者ですし、彼のことしか頭にはありません。
私が触れて欲しいと思うのも、ドミニクだけです」
「……僕じゃイヤってこと?」
「当たり前です!」
キャンディスが叫ぶのと、セオドアの手がキャンディスの腕を掴んだのは、ほとんど同時だった。
乱暴に体を引かれたせいで、足がぐらつき、手をつく余裕もなく倒れ込んでしまう。
しかし床へと叩きつけられることはなかった。
ちょうどベッドの上に倒れたおかげで体を打ち付けずに済んだのである。
しかしそれに安堵している暇はなかった。
目の前にセオドアの顔が現れたと思った時には、もう体を動かすことが出来なくなっていたのだ。
「どいてください!離して!」
力一杯暴れても、彼は器用にキャンディスの上にのしかかり、組み敷いてしまう。
そして余裕たっぷりの笑顔で見下ろしていた。
彼の整った顔が、見る間にぼやけていく。
キャンディスの目は、自分でも気づかないうちに涙でいっぱいになっていた。
「セオドア様には、グレース様がいるじゃないですか!
こんなことをしたと知れば、悲しみますよ!」
「イヤだなあ……こんな時に他の人の事なんて考えないでよ。
今は、僕のことだけを考えて」
セオドアの顔がゆっくりと近づいてくる。
キャンディスは慌ててそっぽを向いた。
「止めてください!お願いです!
私はドミニクが……!」
「キャンディスは、ドミニク、ドミニクばかりだね。
もうその名前を聞くだけでも、うんざりだよ」
セオドアのため息が耳にかかる。
彼の声は聞いたこともないほど低く、暗い調子で、なんだか恐ろしかった。
「本当はね、子どもの頃からドミニクのことなんか嫌いだったんだ。
なにしろ、あいつは好き勝手やったって許されるのに、僕はいつだって良い子でいなきゃいけない。
随分と窮屈な子ども時代をおくらされたのは、ドミニクのせいなんだよ。
だったら少しくらい、憂さ晴らししたいって思っても、許されると思わない?
あいつの大切なものを奪って……さ」
「まさか、グレース様もそういうつもりだったんですか?」
「もちろん!
でも彼女は全然手応えなかったな。
誘ったら、ほいほい寝室までついてきてさ。
あの時ばかりは、ドミニクが可哀想になったね」
言いながら、セオドアの指が彼女の肩から薄布を引き下ろしていく。
剥き出しの肌に彼の指が触れるのを感じて、キャンディスは悲鳴を上げた。
「いや!やめてくださいっ!
ドミニク……!」
「あれ、こう言う時に僕の名前を呼んでくれない子なんて珍しいね。
みんな喜びながら、僕の名前を呼んでくれるんだけど。
でもまあ、こういうのもたまには良いかな」
セオドアがキャンディスの白い首すじに顔を埋めてくる。
生暖かい舌の感触に、震えがとまらなかった。
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