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しおりを挟むセオドアの瞳にうつる自分の姿が見えるのではないか。
そんなことを考えてしまいそうなほどに、顔が近づけられて、キャンディスは思わず後ずさった。
しかしほんの数センチ身を引いただけで、背中が壁に当たってしまい、それ以上身動きすることはできなかった。
心臓が大きな音を立てていたが、それは甘いときめきなどとはとても言えないほど、激しいリズムを刻んでいる。
セオドアは細めた目を少しも逸らそうとせぬまま、こちらをじっと見つめていた。
何かを待っているのだろうか。
彼はいつまで経っても口を開こうとはしなかった。
代わりに、ほんの少し唇の端を引き上げて微笑んでいる。
とうとう耐えきれなくなったキャンディスは、自ら口を開くしかなかった。
「あ、あの……お話って……」
すると意に反して沈黙を破られたらしいセオドアは、驚いたように目を見開いた。
それから小さく笑った後、ようやく静かに話し始めた。
「キャンディスは、ドミニクの気持ちが分からなくて不安なんだろう?」
「えっ……」
的確に言い当てられたキャンディスは、思わず目をぱちぱちっとした。
それを肯定の印だと認めたのだろう。
セオドアは一つ頷いて
「僕もドミニクの気持ちが分からないから……知りたいんだ。
あいつがグレースのことを、本当はどう思っているのか」
「グレース様のこと、ですか?」
「うん。
ドミニクが僕を避け始めたのは、グレースのことが原因じゃないかと、僕は思ってるんだ。
あいつが本当は、グレースが好きだったとしたら……」
セオドアはつらつらと言葉を連ねていたが、キャンディスと目が合うと、はっとして口を閉ざした。
それから困ったように眉を下げると、ぽんぽんと彼女の頭を撫でた。
「……ごめんね、傷つけるようなことを言って」
「いえ……」
キャンディスは俯きながら、呟いた。
「私も心のどこかで、もしかしたらそうかもしれない、と思ってたんです」
「そう……。
辛かっただろうね、可哀想に」
セオドアは優しく手を動かしながら、続けた。
「はっきりさせようと思うんだ。
このままじゃ、皆が不安なままだからね。
この後……うまくドミニクと2人きりになったところで、グレースのことをどう思っているか聞いてみるよ」
キャンディスは思わず顔を上げた。
セオドアの美しい瞳が、静かにこちらを見返してくる。
本当のことを言えば、キャンディスはドミニクの気持ちなど知りたくなかった。
いや、知りたいけれども、知るのが怖かったのである。
彼が本当はずっとグレースのことを好きで、今でもその気持ちが変わっていないとしたら?
そんなことを知ってしまえば、キャンディスはもう自分がどうなってしまうのか、想像することもできなかった。
だから何とかしてセオドアを引き止めようと口を開いたのだったが。
「あ……いえ……なんでもないです」
結局、何も言えなかった。
全てをはっきりさせたいという思いは、確かに彼女の中にもあったから。
怖くても、それをしないと前には進めないと分かっていたから。
セオドアの優しい眼差しを受け止める元気もなく、再び俯きながら、キャンディスはそっと息を吐いた。
今もすぐそばのテラスで談笑しているであろうドミニクのことを思うと、ズキズキと胸が痛んだ。
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