21 / 41
21
しおりを挟む
「キャンディス様に何か届いたようですよ」
「あら、ありがとう。
そこへ置いておいてくれる?」
キャンディスは本のページから目を離さぬまま、上の空でメイドに返事をした。
が、メイドが箱をテーブルに置きながら
「開けてみなくてよろしいのですか?
ドミニク様からのプレゼントのようですよ」
と言うのを聞くと、音を立てて本を閉じた。
「そ、そう。じゃあ開けてみましょうか」
なんでもないふうを装ってはみたものの、手が震えているせいで、テーブルの端に置こうとした本が転がり落ちてしまった。
しかも慌ててそれを拾い上げ、頭を上げようとしたところで、嫌というほど頭をテーブルにぶつけてしまう。
「うー……痛い……」
後頭部をさすりさすり立ち上がるキャンディスに、メイドは堪えきれない笑いを漏らしながら言った。
「お嬢様!そんなに慌てなくても、プレゼントは逃げたり致しませんよ」
「わ、分かってるわよ」
キャンディスはようやく箱の前に立つと、気を取り直してリボンをほどき始めた。
そしてゆっくりと蓋を持ち上げたところで、手を止めた。
揃って中を覗き込んだキャンディスとメイドの目がキラリと輝いた。
「まあ、素敵なドレスですこと!
早速お召しになりますか?」
「ええ、お願い」
そうして新しいドレスに身を包んだキャンディスは、鏡を見つめて、ほうっと息をついた。
想像通り、いや想像以上に美しいドレスだ。
生地ももちろん素敵だが、袖口にあしらわれたレースも、胸元を飾るリボンも、全てがキャンディスの注文通り。
細い腰や華奢な肩にも、ピッタリ合うよう仕立てられている。
メイドが手を叩いて
「よくお似合いですわ!」
と大袈裟に喜んでくれるものだから、キャンディスは照れ臭いあまり目を伏せた。
そこで、ある物に目をとめた。
気がつかなかったが、箱の中にもう一つ、リボンのかけられた小箱が入っているではないか。
「これは何かしら」
するすると金のリボンをほどき、蓋を開けたところで、目を見張った。
そこにあったのは、繊細な金細工の髪飾りだったのである。
触れたら壊れてしまうのではないかと思うほど、細かく花や葉が刻み込まれ、あちらこちらに宝石が散りばめられていて、いかにも高価そうだ。
キャンディスはそれを、そっと指で撫でた。
「これもドミニク様からのプレゼントですわね、きっと!
こんな贈り物をして下さるなんて、素敵な婚約者様ですこと」
髪に当ててみようと、落とさぬように気をつけながら、ゆっくりとそれを持ち上げたところで、キャンディスはあることに気がついた。
髪飾りの裏面に、何か模様が刻印されていたのである。
そしてすぐに思い当たった。
間違いない。
それはドミニクの家の紋章だった。
メイドがキャンディスの目線に気がついて、我慢出来ないというように覗き込んでくると、感慨深げに頷いた。
「まあ、紋章まで!
そうですよね。
お嬢様も、もうすぐドミニク様の家へお嫁に行くのですもの。
寂しくはなりますが、おめでたいことですわ」
キャンディスはその言葉に赤面した。
頭では分かっていたはずなのに、急に結婚の時が迫ってきていることを実感したのである。
「ドミニクと、結婚……」
キャンディスは何度も瞬きを繰り返しながら、鏡の中の自分を見つめた。
そこにうつる、美しいドレスを着た少女は、ほんのりと頬を染め、恥ずかしそうに、しかし幸せそうに微笑んでいる。
それが今の自分の姿なのか、と、キャンディスはまるで他人を見ているかのような不思議な気持ちだった。
「結婚……そうよね、婚約者ですもの」
キャンディスが鏡に触れると、そこにうつる少女も静かに手を重ねてくる。
キャンディスは黙ったまま、しばらくの間、鏡の中を眺めていた。
「あら、ありがとう。
そこへ置いておいてくれる?」
キャンディスは本のページから目を離さぬまま、上の空でメイドに返事をした。
が、メイドが箱をテーブルに置きながら
「開けてみなくてよろしいのですか?
ドミニク様からのプレゼントのようですよ」
と言うのを聞くと、音を立てて本を閉じた。
「そ、そう。じゃあ開けてみましょうか」
なんでもないふうを装ってはみたものの、手が震えているせいで、テーブルの端に置こうとした本が転がり落ちてしまった。
しかも慌ててそれを拾い上げ、頭を上げようとしたところで、嫌というほど頭をテーブルにぶつけてしまう。
「うー……痛い……」
後頭部をさすりさすり立ち上がるキャンディスに、メイドは堪えきれない笑いを漏らしながら言った。
「お嬢様!そんなに慌てなくても、プレゼントは逃げたり致しませんよ」
「わ、分かってるわよ」
キャンディスはようやく箱の前に立つと、気を取り直してリボンをほどき始めた。
そしてゆっくりと蓋を持ち上げたところで、手を止めた。
揃って中を覗き込んだキャンディスとメイドの目がキラリと輝いた。
「まあ、素敵なドレスですこと!
早速お召しになりますか?」
「ええ、お願い」
そうして新しいドレスに身を包んだキャンディスは、鏡を見つめて、ほうっと息をついた。
想像通り、いや想像以上に美しいドレスだ。
生地ももちろん素敵だが、袖口にあしらわれたレースも、胸元を飾るリボンも、全てがキャンディスの注文通り。
細い腰や華奢な肩にも、ピッタリ合うよう仕立てられている。
メイドが手を叩いて
「よくお似合いですわ!」
と大袈裟に喜んでくれるものだから、キャンディスは照れ臭いあまり目を伏せた。
そこで、ある物に目をとめた。
気がつかなかったが、箱の中にもう一つ、リボンのかけられた小箱が入っているではないか。
「これは何かしら」
するすると金のリボンをほどき、蓋を開けたところで、目を見張った。
そこにあったのは、繊細な金細工の髪飾りだったのである。
触れたら壊れてしまうのではないかと思うほど、細かく花や葉が刻み込まれ、あちらこちらに宝石が散りばめられていて、いかにも高価そうだ。
キャンディスはそれを、そっと指で撫でた。
「これもドミニク様からのプレゼントですわね、きっと!
こんな贈り物をして下さるなんて、素敵な婚約者様ですこと」
髪に当ててみようと、落とさぬように気をつけながら、ゆっくりとそれを持ち上げたところで、キャンディスはあることに気がついた。
髪飾りの裏面に、何か模様が刻印されていたのである。
そしてすぐに思い当たった。
間違いない。
それはドミニクの家の紋章だった。
メイドがキャンディスの目線に気がついて、我慢出来ないというように覗き込んでくると、感慨深げに頷いた。
「まあ、紋章まで!
そうですよね。
お嬢様も、もうすぐドミニク様の家へお嫁に行くのですもの。
寂しくはなりますが、おめでたいことですわ」
キャンディスはその言葉に赤面した。
頭では分かっていたはずなのに、急に結婚の時が迫ってきていることを実感したのである。
「ドミニクと、結婚……」
キャンディスは何度も瞬きを繰り返しながら、鏡の中の自分を見つめた。
そこにうつる、美しいドレスを着た少女は、ほんのりと頬を染め、恥ずかしそうに、しかし幸せそうに微笑んでいる。
それが今の自分の姿なのか、と、キャンディスはまるで他人を見ているかのような不思議な気持ちだった。
「結婚……そうよね、婚約者ですもの」
キャンディスが鏡に触れると、そこにうつる少女も静かに手を重ねてくる。
キャンディスは黙ったまま、しばらくの間、鏡の中を眺めていた。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。
りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。
やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか
勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。
ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。
蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。
そんな生活もううんざりです
今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。
これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる