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「キャンディス様に何か届いたようですよ」
「あら、ありがとう。
そこへ置いておいてくれる?」
キャンディスは本のページから目を離さぬまま、上の空でメイドに返事をした。
が、メイドが箱をテーブルに置きながら
「開けてみなくてよろしいのですか?
ドミニク様からのプレゼントのようですよ」
と言うのを聞くと、音を立てて本を閉じた。
「そ、そう。じゃあ開けてみましょうか」
なんでもないふうを装ってはみたものの、手が震えているせいで、テーブルの端に置こうとした本が転がり落ちてしまった。
しかも慌ててそれを拾い上げ、頭を上げようとしたところで、嫌というほど頭をテーブルにぶつけてしまう。
「うー……痛い……」
後頭部をさすりさすり立ち上がるキャンディスに、メイドは堪えきれない笑いを漏らしながら言った。
「お嬢様!そんなに慌てなくても、プレゼントは逃げたり致しませんよ」
「わ、分かってるわよ」
キャンディスはようやく箱の前に立つと、気を取り直してリボンをほどき始めた。
そしてゆっくりと蓋を持ち上げたところで、手を止めた。
揃って中を覗き込んだキャンディスとメイドの目がキラリと輝いた。
「まあ、素敵なドレスですこと!
早速お召しになりますか?」
「ええ、お願い」
そうして新しいドレスに身を包んだキャンディスは、鏡を見つめて、ほうっと息をついた。
想像通り、いや想像以上に美しいドレスだ。
生地ももちろん素敵だが、袖口にあしらわれたレースも、胸元を飾るリボンも、全てがキャンディスの注文通り。
細い腰や華奢な肩にも、ピッタリ合うよう仕立てられている。
メイドが手を叩いて
「よくお似合いですわ!」
と大袈裟に喜んでくれるものだから、キャンディスは照れ臭いあまり目を伏せた。
そこで、ある物に目をとめた。
気がつかなかったが、箱の中にもう一つ、リボンのかけられた小箱が入っているではないか。
「これは何かしら」
するすると金のリボンをほどき、蓋を開けたところで、目を見張った。
そこにあったのは、繊細な金細工の髪飾りだったのである。
触れたら壊れてしまうのではないかと思うほど、細かく花や葉が刻み込まれ、あちらこちらに宝石が散りばめられていて、いかにも高価そうだ。
キャンディスはそれを、そっと指で撫でた。
「これもドミニク様からのプレゼントですわね、きっと!
こんな贈り物をして下さるなんて、素敵な婚約者様ですこと」
髪に当ててみようと、落とさぬように気をつけながら、ゆっくりとそれを持ち上げたところで、キャンディスはあることに気がついた。
髪飾りの裏面に、何か模様が刻印されていたのである。
そしてすぐに思い当たった。
間違いない。
それはドミニクの家の紋章だった。
メイドがキャンディスの目線に気がついて、我慢出来ないというように覗き込んでくると、感慨深げに頷いた。
「まあ、紋章まで!
そうですよね。
お嬢様も、もうすぐドミニク様の家へお嫁に行くのですもの。
寂しくはなりますが、おめでたいことですわ」
キャンディスはその言葉に赤面した。
頭では分かっていたはずなのに、急に結婚の時が迫ってきていることを実感したのである。
「ドミニクと、結婚……」
キャンディスは何度も瞬きを繰り返しながら、鏡の中の自分を見つめた。
そこにうつる、美しいドレスを着た少女は、ほんのりと頬を染め、恥ずかしそうに、しかし幸せそうに微笑んでいる。
それが今の自分の姿なのか、と、キャンディスはまるで他人を見ているかのような不思議な気持ちだった。
「結婚……そうよね、婚約者ですもの」
キャンディスが鏡に触れると、そこにうつる少女も静かに手を重ねてくる。
キャンディスは黙ったまま、しばらくの間、鏡の中を眺めていた。
「あら、ありがとう。
そこへ置いておいてくれる?」
キャンディスは本のページから目を離さぬまま、上の空でメイドに返事をした。
が、メイドが箱をテーブルに置きながら
「開けてみなくてよろしいのですか?
ドミニク様からのプレゼントのようですよ」
と言うのを聞くと、音を立てて本を閉じた。
「そ、そう。じゃあ開けてみましょうか」
なんでもないふうを装ってはみたものの、手が震えているせいで、テーブルの端に置こうとした本が転がり落ちてしまった。
しかも慌ててそれを拾い上げ、頭を上げようとしたところで、嫌というほど頭をテーブルにぶつけてしまう。
「うー……痛い……」
後頭部をさすりさすり立ち上がるキャンディスに、メイドは堪えきれない笑いを漏らしながら言った。
「お嬢様!そんなに慌てなくても、プレゼントは逃げたり致しませんよ」
「わ、分かってるわよ」
キャンディスはようやく箱の前に立つと、気を取り直してリボンをほどき始めた。
そしてゆっくりと蓋を持ち上げたところで、手を止めた。
揃って中を覗き込んだキャンディスとメイドの目がキラリと輝いた。
「まあ、素敵なドレスですこと!
早速お召しになりますか?」
「ええ、お願い」
そうして新しいドレスに身を包んだキャンディスは、鏡を見つめて、ほうっと息をついた。
想像通り、いや想像以上に美しいドレスだ。
生地ももちろん素敵だが、袖口にあしらわれたレースも、胸元を飾るリボンも、全てがキャンディスの注文通り。
細い腰や華奢な肩にも、ピッタリ合うよう仕立てられている。
メイドが手を叩いて
「よくお似合いですわ!」
と大袈裟に喜んでくれるものだから、キャンディスは照れ臭いあまり目を伏せた。
そこで、ある物に目をとめた。
気がつかなかったが、箱の中にもう一つ、リボンのかけられた小箱が入っているではないか。
「これは何かしら」
するすると金のリボンをほどき、蓋を開けたところで、目を見張った。
そこにあったのは、繊細な金細工の髪飾りだったのである。
触れたら壊れてしまうのではないかと思うほど、細かく花や葉が刻み込まれ、あちらこちらに宝石が散りばめられていて、いかにも高価そうだ。
キャンディスはそれを、そっと指で撫でた。
「これもドミニク様からのプレゼントですわね、きっと!
こんな贈り物をして下さるなんて、素敵な婚約者様ですこと」
髪に当ててみようと、落とさぬように気をつけながら、ゆっくりとそれを持ち上げたところで、キャンディスはあることに気がついた。
髪飾りの裏面に、何か模様が刻印されていたのである。
そしてすぐに思い当たった。
間違いない。
それはドミニクの家の紋章だった。
メイドがキャンディスの目線に気がついて、我慢出来ないというように覗き込んでくると、感慨深げに頷いた。
「まあ、紋章まで!
そうですよね。
お嬢様も、もうすぐドミニク様の家へお嫁に行くのですもの。
寂しくはなりますが、おめでたいことですわ」
キャンディスはその言葉に赤面した。
頭では分かっていたはずなのに、急に結婚の時が迫ってきていることを実感したのである。
「ドミニクと、結婚……」
キャンディスは何度も瞬きを繰り返しながら、鏡の中の自分を見つめた。
そこにうつる、美しいドレスを着た少女は、ほんのりと頬を染め、恥ずかしそうに、しかし幸せそうに微笑んでいる。
それが今の自分の姿なのか、と、キャンディスはまるで他人を見ているかのような不思議な気持ちだった。
「結婚……そうよね、婚約者ですもの」
キャンディスが鏡に触れると、そこにうつる少女も静かに手を重ねてくる。
キャンディスは黙ったまま、しばらくの間、鏡の中を眺めていた。
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