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お茶を飲み終わる頃、キャンディスはさらにドミニクに驚かされる事になった。
なんと彼はキャンディスの為に、仕立て屋を屋敷に呼んでくれていたのである。
次々に広げられていく美しい布地を唖然として見つめていると、ドミニクは少し照れくさそうに言った。
「約束だからな。
次は食べ物じゃないものをプレゼントしてやるって。
俺の婚約者なんだから、良いドレスを着て貰わなきゃ困るしな」
「ありがとう……」
突然のサプライズに、まだ頭がついていかないキャンディスだったが、早くも仕立て屋の女性が布地を体に押し当ててくる。
その勢いの良さに、目を白黒させてしまった。
「こちらはいかがですか?
最近とても人気がある柄ですのよ」
「あ……可愛い……」
姿見にうつる自分と布地を交互に眺めながら、キャンディスは目を輝かせる。
するとすかさず次の布地が広げられた。
「こちらもとてもお似合いですよ。
色や柄などご希望があれば、なんでもおっしゃって下さいね」
「え、ええ」
次から次へと、数えきれないほど取り出される布地に、目移りしてしまう。
そしてたくさん見過ぎたせいが、段々と頭がクラクラし始めてしまったのだったが。
「次は、昨日入荷したばかりのものですわ。
こちらも可愛らしいお嬢様にはピッタリだと思います」
と、胸の前に広げられた淡い水色の布地を一目見るや、思わず目を奪われてしまった。
一面に、銀の糸で細かく刺繍された花や葉が広がるそれは、光を浴びてキラキラと細やかな光を放っている。
キャンディスの肩越しに姿見を覗き込みながら、仕立て屋が微笑んだ。
「素敵ですわ!
こちらはお嬢様のように上品な方によくお似合いです。
とても良い品ですので、その分、少しばかり値が張りますが……」
「そ、そうなんですね。
でしたらこれではなく……他のものも見せて下さい」
仕立て屋の言葉に、キャンディスはハッとして、慌てて口を開いたが、その言葉をドミニクが遮った。
「いや、それにしよう」
「でも、ドミニク。ちょっと待って」
「なんだ?気に入らなかったのか?」
「そういうわけじゃないわ。ただ……」
キャンディスは口ごもった。
代金を支払って貰う以上、ドミニクに過度な負担はかけたくなかったのである。
しかし彼は
「せっかく俺が良いと言っているんだから、素直に頷いとけ」
と、ぶっきらぼうに言うと、ポンとキャンディスの頭に手をのせてから、さっさと仕立て屋の方へ歩いて行ってしまった。
そして支払いや納期の話を始めると、仕立て屋がいそいそとカバンの中を引っ掻き回し、書類を並べ始める。
キャンディスは意外と大きなドミニクの背中を眺めながら、1人で頬を赤らめていた。
彼が頭に触れた時、独り言のようにボソリと呟いたのを、彼女は聞いてしまったのである。
「……それに、それが一番似合ってたしな」
確かに彼はそう言った。
思い出すだけで、胸がきゅうっと締め付けられる。
出来上がったドレスを着て見せたら、また同じことを言ってくれるかしら。
キャンディスはそんなことを無意識に考えている自分に気がつくと、強く頭を左右に振った。
しかし頭の中から彼のことを追い出すことは出来なくて。
知らず知らずのうちに、目はドミニクの背中を追いかけてしまっていたのだった。
なんと彼はキャンディスの為に、仕立て屋を屋敷に呼んでくれていたのである。
次々に広げられていく美しい布地を唖然として見つめていると、ドミニクは少し照れくさそうに言った。
「約束だからな。
次は食べ物じゃないものをプレゼントしてやるって。
俺の婚約者なんだから、良いドレスを着て貰わなきゃ困るしな」
「ありがとう……」
突然のサプライズに、まだ頭がついていかないキャンディスだったが、早くも仕立て屋の女性が布地を体に押し当ててくる。
その勢いの良さに、目を白黒させてしまった。
「こちらはいかがですか?
最近とても人気がある柄ですのよ」
「あ……可愛い……」
姿見にうつる自分と布地を交互に眺めながら、キャンディスは目を輝かせる。
するとすかさず次の布地が広げられた。
「こちらもとてもお似合いですよ。
色や柄などご希望があれば、なんでもおっしゃって下さいね」
「え、ええ」
次から次へと、数えきれないほど取り出される布地に、目移りしてしまう。
そしてたくさん見過ぎたせいが、段々と頭がクラクラし始めてしまったのだったが。
「次は、昨日入荷したばかりのものですわ。
こちらも可愛らしいお嬢様にはピッタリだと思います」
と、胸の前に広げられた淡い水色の布地を一目見るや、思わず目を奪われてしまった。
一面に、銀の糸で細かく刺繍された花や葉が広がるそれは、光を浴びてキラキラと細やかな光を放っている。
キャンディスの肩越しに姿見を覗き込みながら、仕立て屋が微笑んだ。
「素敵ですわ!
こちらはお嬢様のように上品な方によくお似合いです。
とても良い品ですので、その分、少しばかり値が張りますが……」
「そ、そうなんですね。
でしたらこれではなく……他のものも見せて下さい」
仕立て屋の言葉に、キャンディスはハッとして、慌てて口を開いたが、その言葉をドミニクが遮った。
「いや、それにしよう」
「でも、ドミニク。ちょっと待って」
「なんだ?気に入らなかったのか?」
「そういうわけじゃないわ。ただ……」
キャンディスは口ごもった。
代金を支払って貰う以上、ドミニクに過度な負担はかけたくなかったのである。
しかし彼は
「せっかく俺が良いと言っているんだから、素直に頷いとけ」
と、ぶっきらぼうに言うと、ポンとキャンディスの頭に手をのせてから、さっさと仕立て屋の方へ歩いて行ってしまった。
そして支払いや納期の話を始めると、仕立て屋がいそいそとカバンの中を引っ掻き回し、書類を並べ始める。
キャンディスは意外と大きなドミニクの背中を眺めながら、1人で頬を赤らめていた。
彼が頭に触れた時、独り言のようにボソリと呟いたのを、彼女は聞いてしまったのである。
「……それに、それが一番似合ってたしな」
確かに彼はそう言った。
思い出すだけで、胸がきゅうっと締め付けられる。
出来上がったドレスを着て見せたら、また同じことを言ってくれるかしら。
キャンディスはそんなことを無意識に考えている自分に気がつくと、強く頭を左右に振った。
しかし頭の中から彼のことを追い出すことは出来なくて。
知らず知らずのうちに、目はドミニクの背中を追いかけてしまっていたのだった。
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