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キャンディスはワナワナと震えながら口を開いた。
「な、なんなのよ、もう!
やっぱりどう考えても、今日のドミニクは変よ。
いったい何を考えているの!?」
早口に言って、ハアハアと肩で息をする。
ドミニクは、それでもなお嘘くさい笑顔を浮かべていたが、やがて頬杖をつくとキャンディスを見上げて言った。
「なにって……セオドアの真似?」
「ええ?」
「お前があまりにもセオドア、セオドアって言うからさ。
あいつみたいに振る舞ってやれば、文句もないだろうと思ったんだよ。
なかなか上手くやれてるだろ?」
思いがけない言葉に、キャンディスは一瞬、呆気に取られて固まってしまった。
が、それもほんの数秒のこと。
次の瞬間には、大きな声で笑い出していた。
「なによそれ!
セオドア様の真似って……ああ、おかしい!」
「なにがおかしいんだよ。
ほら見ろ、この嘘くさい笑顔なんて、そっくりじゃないか?」
ドミニクは目を細めて、唇の端を引き上げてみせる。
しかしそれは明らかに笑顔とは呼べない代物で。
セオドアの眩しいほどの笑顔とは、似ても似つかなかったものだから、キャンディスは再び笑い声を上げた。
「やめてよ!全然似てないわ」
「そうか?キャンディスが、こういうのが好きかな、と思ってやったのに。
ひどい言いようだな」
ドミニクは不貞腐れたように唇を尖らせる。
キャンディスは目尻に浮かんだ涙を拭いながら、クスクス笑った。
「そんなことしなくていいわよ。
さっきみたいな変な笑顔よりも、いつも通りの笑った顔の方が良いもの」
「……なんだよ、それ」
つまらなそうな声で呟いてはいるが、耳の先がほんのりと赤く染まっている。
それに気がついたキャンディスは自然と顔を綻ばせたが、ドミニクはまだ拗ねた顔をしたままだ。
「そんなこと言ってさ。
結局は、素の俺よりセオドアの方が良いって言うくせに」
「え?またそんなこと……」
「じゃあ、セオドアより俺の方が良い?」
キャンディスは唇を開いたまま、固まった。
それから、ドミニクが不思議そうな顔でこちらを見ているのに気がつくと、急いで言葉を繋げた。
「ま、まあ……セオドア様には敵わないでしょうけどね」
「否定しないのかよ」
がしがし頭をかくドミニクを、キャンディスはぼんやりした気分で眺めた。
自分が何を言おうとしたのか、一瞬、分からなくなってしまったのだ。
今までだったら、彼女の中ではいつだってセオドアが一番だったのに。
それを口にすることを躊躇ったことなど、無かったはずなのに。
どうして今は、言葉に詰まってしまったのだろう、と我ながら疑問だった。
今までは、はっきりしていた心の内が、形を変え始めているのかもしれない。
なにか自分でも分からないような感情が、体の奥底から湧き上がってきているのだろうか。
キャンディスは、やけに熱くなってしまった頬に手を当てながら、ドミニクに目をやった。
彼も黙ったまま、こちらを見返してくる。
深い緑色の瞳は、いつまでも見つめていると、まるで吸い込まれてしまいそうな気持ちになってしまって。
キャンディスは、はっと我にかえると、慌てて目を逸らした。
ドミニクよりも自分の耳の方が赤くなっていることなど気づかぬまま、彼女はしばらく、バラ園に見惚れているふりを続けていた。
「な、なんなのよ、もう!
やっぱりどう考えても、今日のドミニクは変よ。
いったい何を考えているの!?」
早口に言って、ハアハアと肩で息をする。
ドミニクは、それでもなお嘘くさい笑顔を浮かべていたが、やがて頬杖をつくとキャンディスを見上げて言った。
「なにって……セオドアの真似?」
「ええ?」
「お前があまりにもセオドア、セオドアって言うからさ。
あいつみたいに振る舞ってやれば、文句もないだろうと思ったんだよ。
なかなか上手くやれてるだろ?」
思いがけない言葉に、キャンディスは一瞬、呆気に取られて固まってしまった。
が、それもほんの数秒のこと。
次の瞬間には、大きな声で笑い出していた。
「なによそれ!
セオドア様の真似って……ああ、おかしい!」
「なにがおかしいんだよ。
ほら見ろ、この嘘くさい笑顔なんて、そっくりじゃないか?」
ドミニクは目を細めて、唇の端を引き上げてみせる。
しかしそれは明らかに笑顔とは呼べない代物で。
セオドアの眩しいほどの笑顔とは、似ても似つかなかったものだから、キャンディスは再び笑い声を上げた。
「やめてよ!全然似てないわ」
「そうか?キャンディスが、こういうのが好きかな、と思ってやったのに。
ひどい言いようだな」
ドミニクは不貞腐れたように唇を尖らせる。
キャンディスは目尻に浮かんだ涙を拭いながら、クスクス笑った。
「そんなことしなくていいわよ。
さっきみたいな変な笑顔よりも、いつも通りの笑った顔の方が良いもの」
「……なんだよ、それ」
つまらなそうな声で呟いてはいるが、耳の先がほんのりと赤く染まっている。
それに気がついたキャンディスは自然と顔を綻ばせたが、ドミニクはまだ拗ねた顔をしたままだ。
「そんなこと言ってさ。
結局は、素の俺よりセオドアの方が良いって言うくせに」
「え?またそんなこと……」
「じゃあ、セオドアより俺の方が良い?」
キャンディスは唇を開いたまま、固まった。
それから、ドミニクが不思議そうな顔でこちらを見ているのに気がつくと、急いで言葉を繋げた。
「ま、まあ……セオドア様には敵わないでしょうけどね」
「否定しないのかよ」
がしがし頭をかくドミニクを、キャンディスはぼんやりした気分で眺めた。
自分が何を言おうとしたのか、一瞬、分からなくなってしまったのだ。
今までだったら、彼女の中ではいつだってセオドアが一番だったのに。
それを口にすることを躊躇ったことなど、無かったはずなのに。
どうして今は、言葉に詰まってしまったのだろう、と我ながら疑問だった。
今までは、はっきりしていた心の内が、形を変え始めているのかもしれない。
なにか自分でも分からないような感情が、体の奥底から湧き上がってきているのだろうか。
キャンディスは、やけに熱くなってしまった頬に手を当てながら、ドミニクに目をやった。
彼も黙ったまま、こちらを見返してくる。
深い緑色の瞳は、いつまでも見つめていると、まるで吸い込まれてしまいそうな気持ちになってしまって。
キャンディスは、はっと我にかえると、慌てて目を逸らした。
ドミニクよりも自分の耳の方が赤くなっていることなど気づかぬまま、彼女はしばらく、バラ園に見惚れているふりを続けていた。
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