14 / 41
14
しおりを挟む
「え……なんでよ」
キャンディスは頬を引きつらせながら言った。
しかしドミニクは少しも動じることなく
「そんな野暮な質問するか?
この状況で」
と笑いながら、手を伸ばして頬に触れてきた。
キャンディスは反射的に目を閉じつつも、なんとか抵抗しようと、がむしゃらに腕を前に突き出した。
が、そんな抵抗も虚しく、唇に何かが触れたのを感じて思わず体を震わせた。
それから……
「ふ、ふがっ!?」
次の瞬間、彼女の口から飛び出したのは、可愛らしい悲鳴などというものではなかった。
驚きのあまり、レディーらしからぬ声が飛び出してしまったのである。
何しろ口の中に、とろけるような甘みを感じたものだから、すっかり驚いてしまったのだ。
「こ、これは……」
キャンディスは恐る恐る目を開いた。
身動きすれば鼻がぶつかりそうなほど近くにドミニクの顔がある。
そして彼の足元に目をやれば、可愛らしい箱の中にチョコレート菓子が行儀よく並んでいた。
「……チョコレート?」
「これ、美味いだろう?
食いしん坊なキャンディスはきっと気にいると思ったんだ。
わざわざ用意してやったんだから、ありがたく食べろ」
「あ、ありがとう……」
ホッと胸を撫で下ろしながら、チョコレートを一粒取り上げて、まじまじと見つめる。
これをドミニクは、キャンディスの口に入れただけだったのだ。
「……それなのに、私ったら」
キャンディスは、今度は自分でチョコレートを口に押し込みながら、呟いた。
みるみる頬が熱くなっていくのが、鏡を見なくても分かる。
「なに赤くなってんだ。
もしかして、なにかされるのを期待してたのか?」
「期待なんかしてないわよ!
ちょ、ちょっと日に当たりすぎて赤くなっちゃっただけ」
「へえ?
ここはちょうど良い木陰なのに『日に当たりすぎて』ねえ……」
ドミニクはニヤニヤ笑いを浮かべながら、ゴロンと敷布の上に寝転がった。
慌ててキャンディスは、並んだ食器をどかしてやる。
「あーあ、気持ちいい。
こんなこと使用人の前では出来ないからな。
ゴロゴロしたい日は、人払いするに限る」
キャンディスはどうして彼が使用人を下がらせたのか、ようやく合点がいった。
それから、堪えきれずにクスクス笑ってしまった。
「……子どもみたいだこと」
「ああ?これ、気持ちいいんだぞ。
ほら、キャンディスも来いよ」
ドミニクがポンポンと隣を叩いて見せる。
が、キャンディスは澄ました顔で答えてやった。
「レディーはそんなところに寝転がったりはしないのよ」
「……まったく。本当に可愛くないな」
ドミニクがため息をつくのを聞いて、キャンディスはますます眉を吊り上げた。
「あら!そんなに可愛い婚約者が良いなら、私とは婚約破棄して、他の方と婚約し直せばいいじゃないの」
またいつもみたいに、ポンポンと憎まれ口が返ってくるものだとばかり思っていた。
それなのに、プイッと顔を背けて数秒待ってみても、まだ彼の返事はなくて。
妙な不安に駆られて恐る恐る薄目を開けてみると、ドミニクは虚ろな瞳を空に彷徨わせていた。
「婚約破棄は、一度だけで十分だ」
「そ、そうよね……」
またしても悪いことを言ってしまった。
キャンディスは沈黙に耐えきれず、用意してきていた本を手に取った。
が、どうにも彼が気になってしまって、全く内容が頭に入って来ない。
それでもなんとかページをめくったところで、チラリとドミニクを盗み見たのだったが。
唖然としてしまった。
彼女の気持ちなどお構いなしに、ドミニクはいかにも気持ちよさそうに寝てしまっていたのである。
「なんて勝手な人!」
と小声で文句を言いつつも、彼の寝顔から目が離せなかった。
こうして黙っていれば、やはり整った顔立ちをしているな、と改めて思った。
性格には難があるものの、これならば女性達が注目するのにも合点がいく。
しかし今はハンサムというよりは、まるで子どもみたいに可愛らしい。
キャンディスはクスッと笑って、ブランケットを引き寄せると、そっと彼にかけてやった。
それから、再び本を開き始める。
今度は、ページをめくる彼女の手は、しばらく止まることはなかった。
キャンディスは頬を引きつらせながら言った。
しかしドミニクは少しも動じることなく
「そんな野暮な質問するか?
この状況で」
と笑いながら、手を伸ばして頬に触れてきた。
キャンディスは反射的に目を閉じつつも、なんとか抵抗しようと、がむしゃらに腕を前に突き出した。
が、そんな抵抗も虚しく、唇に何かが触れたのを感じて思わず体を震わせた。
それから……
「ふ、ふがっ!?」
次の瞬間、彼女の口から飛び出したのは、可愛らしい悲鳴などというものではなかった。
驚きのあまり、レディーらしからぬ声が飛び出してしまったのである。
何しろ口の中に、とろけるような甘みを感じたものだから、すっかり驚いてしまったのだ。
「こ、これは……」
キャンディスは恐る恐る目を開いた。
身動きすれば鼻がぶつかりそうなほど近くにドミニクの顔がある。
そして彼の足元に目をやれば、可愛らしい箱の中にチョコレート菓子が行儀よく並んでいた。
「……チョコレート?」
「これ、美味いだろう?
食いしん坊なキャンディスはきっと気にいると思ったんだ。
わざわざ用意してやったんだから、ありがたく食べろ」
「あ、ありがとう……」
ホッと胸を撫で下ろしながら、チョコレートを一粒取り上げて、まじまじと見つめる。
これをドミニクは、キャンディスの口に入れただけだったのだ。
「……それなのに、私ったら」
キャンディスは、今度は自分でチョコレートを口に押し込みながら、呟いた。
みるみる頬が熱くなっていくのが、鏡を見なくても分かる。
「なに赤くなってんだ。
もしかして、なにかされるのを期待してたのか?」
「期待なんかしてないわよ!
ちょ、ちょっと日に当たりすぎて赤くなっちゃっただけ」
「へえ?
ここはちょうど良い木陰なのに『日に当たりすぎて』ねえ……」
ドミニクはニヤニヤ笑いを浮かべながら、ゴロンと敷布の上に寝転がった。
慌ててキャンディスは、並んだ食器をどかしてやる。
「あーあ、気持ちいい。
こんなこと使用人の前では出来ないからな。
ゴロゴロしたい日は、人払いするに限る」
キャンディスはどうして彼が使用人を下がらせたのか、ようやく合点がいった。
それから、堪えきれずにクスクス笑ってしまった。
「……子どもみたいだこと」
「ああ?これ、気持ちいいんだぞ。
ほら、キャンディスも来いよ」
ドミニクがポンポンと隣を叩いて見せる。
が、キャンディスは澄ました顔で答えてやった。
「レディーはそんなところに寝転がったりはしないのよ」
「……まったく。本当に可愛くないな」
ドミニクがため息をつくのを聞いて、キャンディスはますます眉を吊り上げた。
「あら!そんなに可愛い婚約者が良いなら、私とは婚約破棄して、他の方と婚約し直せばいいじゃないの」
またいつもみたいに、ポンポンと憎まれ口が返ってくるものだとばかり思っていた。
それなのに、プイッと顔を背けて数秒待ってみても、まだ彼の返事はなくて。
妙な不安に駆られて恐る恐る薄目を開けてみると、ドミニクは虚ろな瞳を空に彷徨わせていた。
「婚約破棄は、一度だけで十分だ」
「そ、そうよね……」
またしても悪いことを言ってしまった。
キャンディスは沈黙に耐えきれず、用意してきていた本を手に取った。
が、どうにも彼が気になってしまって、全く内容が頭に入って来ない。
それでもなんとかページをめくったところで、チラリとドミニクを盗み見たのだったが。
唖然としてしまった。
彼女の気持ちなどお構いなしに、ドミニクはいかにも気持ちよさそうに寝てしまっていたのである。
「なんて勝手な人!」
と小声で文句を言いつつも、彼の寝顔から目が離せなかった。
こうして黙っていれば、やはり整った顔立ちをしているな、と改めて思った。
性格には難があるものの、これならば女性達が注目するのにも合点がいく。
しかし今はハンサムというよりは、まるで子どもみたいに可愛らしい。
キャンディスはクスッと笑って、ブランケットを引き寄せると、そっと彼にかけてやった。
それから、再び本を開き始める。
今度は、ページをめくる彼女の手は、しばらく止まることはなかった。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結)余りもの同士、仲よくしましょう
オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。
「運命の人」に出会ってしまったのだと。
正式な書状により婚約は解消された…。
婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。
◇ ◇ ◇
(ほとんど本編に出てこない)登場人物名
ミシュリア(ミシュ): 主人公
ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる