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しかしそんな絶体絶命のキャンディスに、救いの手が差し伸べられたのである。
「おいおい、ドミニク。
嫌がってる女の子に、無理矢理そういうことするのは良くないな」
と優しい声が飛び込んできたかと思うと、ピタリとドミニクの手が止まった。
目を開かなくても、キャンディスにはピンときた。
ゆっくりと瞼を上げると、微笑みながらこちらを見下ろしていたのは、思った通りセオドアだ。
セオドアは素早くドミニクの腕を取り、細い体には似合わぬ力強さで、彼をキャンディスから引き剥がした。
「まったくもう!
キャンディスが好きで仕方がないのは分かるけどさ。
嫌がってるなら、我慢しなきゃダメだろう?」
「なっ……」
ドミニクは思わずカッとなったらしい。
モゴモゴと何か言いかけたようだったが、少し躊躇ってから、結局小声で
「こんな奴、好きじゃねえよ」
と呟いただけだった。
そうすると、もう興が削がれてしまったのだろう。
ドミニクはチラリと横目でキャンディスを見たものの、ふんと鼻を鳴らすなり、さっさとどこかへ歩いて行ってしまう。
キャンディスとセオドアは、それを呆れ顔で見送ってから、顔を見合わせた。
「あーあー、良いところを邪魔されたからって、子どもみたいにスネちゃって」
セオドアは困ったように笑いながら、キャンディスに頭を下げた。
「ごめんね、あんな弟で」
「い、いえ。
止めて頂いて、ありがとうございました」
キャンディスは赤くなった頬を隠そうと、手を当てた。
おずおずと彼を見上げると、パチリと目が合ってしまって。
ますますうるさく騒ぎ立てる心臓を静めるために、何度も深く息を吸わなければならなかった。
そんなキャンディスを目を細めて眺めながら、セオドアは続けた。
「まあ、ドミニクの気持ちも分かるけどね。
キミみたいな可愛い子を前にすれば、ついちょっかいを出したくなるだろうさ」
「そんなこと……!」
憧れのセオドアに『可愛い』と言われて、赤くならないはずがない。
まるで茹でだこのような顔になってしまったキャンディスを前に、彼は愉快そうに笑い声を上げた。
「本当、可愛いな。キャンディスは」
そして何気なく手を伸ばしてきたかと思うと、その指先が彼女の頬にふわりと触れたのである。
キャンディスは驚きのあまり、ビクリと体を震わせた。
一瞬、パニックに陥ったせいか、頭が真っ白になってしまった。
目がチカチカして、周りがよく見えない。
しかし不思議と、周囲の音だけはよく聞こえていた。
あちらこちらで交わされる会話。
時折飛び出す笑い声。
それから、少し離れたところから聞こえるセオドアを呼ぶ声。
ハッとして瞬きを繰り返すと、チカチカする視界ながらも、グレースがこちらに歩いてくるのが分かった。
セオドアもそれに気がついたのだろう。
グレースにちょっと手を上げてみせてから、
「名残惜しいけど、行かなきゃ。
またね、キャンディス」
と囁くと、クルリと背を向けて歩いて行ってしまった。
二言三言、グレースが何か彼に言ってから、2人は腕を組んで歩き出す。
キャンディスは薄く開いたままの唇を閉じることすら忘れて、ぼんやりと彼の背中を見送っていた。
そっと、頬に手を当ててみる。
そこにはまだ、彼の指の感触が残っていて。
彼の声を思い出すと、胸がぎゅうっと締め付けられるようだった。
「おいおい、ドミニク。
嫌がってる女の子に、無理矢理そういうことするのは良くないな」
と優しい声が飛び込んできたかと思うと、ピタリとドミニクの手が止まった。
目を開かなくても、キャンディスにはピンときた。
ゆっくりと瞼を上げると、微笑みながらこちらを見下ろしていたのは、思った通りセオドアだ。
セオドアは素早くドミニクの腕を取り、細い体には似合わぬ力強さで、彼をキャンディスから引き剥がした。
「まったくもう!
キャンディスが好きで仕方がないのは分かるけどさ。
嫌がってるなら、我慢しなきゃダメだろう?」
「なっ……」
ドミニクは思わずカッとなったらしい。
モゴモゴと何か言いかけたようだったが、少し躊躇ってから、結局小声で
「こんな奴、好きじゃねえよ」
と呟いただけだった。
そうすると、もう興が削がれてしまったのだろう。
ドミニクはチラリと横目でキャンディスを見たものの、ふんと鼻を鳴らすなり、さっさとどこかへ歩いて行ってしまう。
キャンディスとセオドアは、それを呆れ顔で見送ってから、顔を見合わせた。
「あーあー、良いところを邪魔されたからって、子どもみたいにスネちゃって」
セオドアは困ったように笑いながら、キャンディスに頭を下げた。
「ごめんね、あんな弟で」
「い、いえ。
止めて頂いて、ありがとうございました」
キャンディスは赤くなった頬を隠そうと、手を当てた。
おずおずと彼を見上げると、パチリと目が合ってしまって。
ますますうるさく騒ぎ立てる心臓を静めるために、何度も深く息を吸わなければならなかった。
そんなキャンディスを目を細めて眺めながら、セオドアは続けた。
「まあ、ドミニクの気持ちも分かるけどね。
キミみたいな可愛い子を前にすれば、ついちょっかいを出したくなるだろうさ」
「そんなこと……!」
憧れのセオドアに『可愛い』と言われて、赤くならないはずがない。
まるで茹でだこのような顔になってしまったキャンディスを前に、彼は愉快そうに笑い声を上げた。
「本当、可愛いな。キャンディスは」
そして何気なく手を伸ばしてきたかと思うと、その指先が彼女の頬にふわりと触れたのである。
キャンディスは驚きのあまり、ビクリと体を震わせた。
一瞬、パニックに陥ったせいか、頭が真っ白になってしまった。
目がチカチカして、周りがよく見えない。
しかし不思議と、周囲の音だけはよく聞こえていた。
あちらこちらで交わされる会話。
時折飛び出す笑い声。
それから、少し離れたところから聞こえるセオドアを呼ぶ声。
ハッとして瞬きを繰り返すと、チカチカする視界ながらも、グレースがこちらに歩いてくるのが分かった。
セオドアもそれに気がついたのだろう。
グレースにちょっと手を上げてみせてから、
「名残惜しいけど、行かなきゃ。
またね、キャンディス」
と囁くと、クルリと背を向けて歩いて行ってしまった。
二言三言、グレースが何か彼に言ってから、2人は腕を組んで歩き出す。
キャンディスは薄く開いたままの唇を閉じることすら忘れて、ぼんやりと彼の背中を見送っていた。
そっと、頬に手を当ててみる。
そこにはまだ、彼の指の感触が残っていて。
彼の声を思い出すと、胸がぎゅうっと締め付けられるようだった。
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