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44:ダニエルの怒り

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「ダニエル……いきなりこんな事をして、ごめんなさい。
でも私、どうしてもあなたのことが好きなの……」

ルイーズが上目遣いをしながら甘い声で囁くのを、ダニエルは呆然と眺めていた。

ほんの少し前だったら、いくらこんな無茶なことをされたとしても、それも愛ゆえだと苦笑して許してしまえたのかもしれない。
しかし、すでに心がジュリアへと移った彼にとって、ルイーズの行動は嫌がらせとしかとれなかった。

あんなに愛していた人だったはずなのに。
今ではもう、ジュリアとの仲を邪魔する悪役にしか見えない。

それでもダニエルは、どんなに怒りが溢れてきていても、かつて愛した人に怒鳴り声をあげたくはなくて。
なんとか平静を装いながら、強い力で彼女を自分から引き剥がした。

「ルイーズ、こういうことはやめてくれ。
話なら、場所をうつしてしよう」
「いやよ!話は今、ここでするわ。
皆様の前ではっきり言ってちょうだい。
愛しているのは、私……ルイーズだけだって」
「そんな……その話は、もう終わったはずだろう?」
「終わってなんかないわよ!」

ルイーズが声を荒げる。
ダニエルに拒否されたことで焦り出したのだろう。
声色がガラリと変わった。

「信じられないわ!
本当に私を捨てて、あの女を選ぶつもりなの!?」

ヒステリックに叫ぶルイーズに、ダニエルは血の気が引く思いだった。
たくさんの人が好奇心丸出しの目で見つめてくるものだから、嫌な汗が背中を伝い落ちていくのを感じる。

しかし、ここまできてもまだ彼は、出来るだけ穏便に事を収めたかった。
大事になればジュリアとの婚約はきっと破棄される。
それだけはなんとしても回避したかったから、努めて落ち着いた声で話し続けた。

「ジュリアは僕の正式な婚約者なんだ。
彼女を選ぶのは当然だし、きみが入る余地なんてないんだよ」

わっと泣き崩れたルイーズは、ダニエルがオロオロしている間にも大袈裟に喚いている。

なんとか冷静にならなければ。
なんとか怒りを抑えなければ。

そう心の内で唱え続ける。
ところがルイーズがわざとらしく大声で

「ひどいわ!
私のことは弄んだだけだったのね!」

と叫んだ時、皆の避難するような視線を一身に浴びたダニエルは、頭の中で何かが弾けとぶのを感じた。 
そして気が付けば、考えるよりも先に言葉が飛び出していたのである。

「いい加減にしてくれ!
確かにキミのことは愛していた。
だから別れることにはなったが、今後の幸せを祈っていたんだ。
でももう我慢の限界だ!
キミとは正式に婚約していたわけでもなんでもないんだぞ!?
もう付き纏うのはやめてくれ!」
「付き纏うですって!?
そんなの……!」

ルイーズはまだまだ話し続けていたが、ダニエルはそれを遮って

「二度と僕の前に現れるな!」

と言い放つと、さっと背を向けて歩き出した。

「許さないわよ!
絶対に、許さないから!!」

ルイーズの怒鳴り声が追いかけてきても、ダニエルは振り返らなかった。

彼の頭には、すでにルイーズのことなんて無かったのである。
今すぐジュリアを追いかけなければという思いだけが、彼の足を動かし続けていたのだった。

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