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39:ジュリアのウェディングドレス②

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「あ、そ、そうですよね!
本当にすみません……。
でもほとんど見てないから安心して下さい!」

ダニエルは取り繕うように言ったものの、最後にボソリと呟いた。

「でも……とても綺麗です」

これを聞いたジュリアは、赤面してしまった。

「やっぱり見たんじゃないですか!」
「す、すみません……。
ほんの少しですから、許して下さい」
「……もうっ」

ジュリアは火照る頬を押さえながら、うつむいた。
そっと振り向くと、律儀にジュリアの言うことを守って、こちらに背を向けたままのダニエルがガシガシと頭をかきながら、呟いている。

「あー、タイミングが悪いところで来てしまいましたね。
あ、でもウェディングドレス姿を見られたのはラッキーだったかな……。
あっと、こんな事を言ったら、また怒られてしまいますね……すみません」

ダニエルが一人でぶつぶつ呟くのを聞いて、ジュリアは思わず笑ってしまった。
それにつられるようにして、ダニエルも小さく笑った。

ひとしきり笑い合った後、ジュリアは息をついて訊ねた。

「それで……どうしてここにいらっしゃったのですか?」
「それがですね、ジュリア様に会いたくてお宅に伺ったら、ここに来ていると言われて……急いで追いかけてきたんです。
本当は隣の部屋で待つように、と案内されたんですけど、あなたの声が聞こえたもので、つい……」

ダニエルが会いに来てくれたことは、ジュリアにとってはもちろん嬉しい事だった。
しかしそれを手放しに喜ぶわけにはいかなかった。
なにしろ、不安になるには十分すぎるほどの間、彼は連絡を寄越そうとはしなかったのだから。

ジュリアはどうしても、その理由を聞かずにはいられなかったのである。

「……どうしてずっと会いに来てくれなかったんですか?」

ジュリアがほとんど囁くようにして言うと、背後でダニエルの動きがピタリと止まったのが分かった。
何か、やましい事でもあるのだろうか。
彼の一挙一動が気になって、懸命に神経を研ぎ澄ましながら、続けた。

「あまりに長い間、お顔を見ることもできなくて、とても寂しかったです。
それに、たまりかねて手紙を送っても、返事もくださらなかったでしょう?」

ダニエルは答えない。
ジュリアは不安のあまり、徐々に指先が冷たくなっていくのを感じていた。

「もしかして……私のこと、嫌いになったんですか?
他に好きな方でも……」
「ま、まさか!」

今度は言葉が終わる前に、ダニエルが叫んだ。
正直、否定してくれただけでもジュリアはホッとしてしまった。
しかしここで追及の手を緩めるわけにはいかない。

「だったら、どうして……?」

すると、その時、いきなり肩を掴まれたものだから、ジュリアは思わずよろけてしまった。
その隙にダニエルが彼女を抱き寄せる。
気がつけばジュリアは彼の腕の中で、身動きすら出来ないほど力強く抱きしめられていた。

「不安にさせて、すみません……。
でも誓って言います。
あなたの他に好きな人など、決していません」
「あ、あの……結婚式前に花婿にドレス姿を見られては……」

あまりに動揺していたせいで、ジュリアはこの期に及んでそんなことを呟いていた。
しかしダニエルは少しも腕の力をゆるめようとはせず、彼女の耳元で囁いた。

「こんなに密着していれば、あなたのドレスなど見えませんよ」
「そ、それは……そうですけど」

ジュリアは頬どころか、もう耳まで真っ赤になっていた。

「ずっと連絡出来なかったのは……えっと……結婚式の準備に追われていたせいです。
でもそのせいで、不安にさせては意味がないですよね。
これからは、もっともっと大切にすると約束します」

どんなに忙しくても、たった一言だけでも手紙の返事は書けたのではないか。
ジュリアの中に疑いの気持ちが無いわけではなかった。

しかし今、こうして彼の体温にすっぽりと包まれてしまえば、不安などどこかへ行ってしまって。
すっかり幸せな気持ちになっていたせいで、小さな疑いの気持ちは、あっさりと溶けてしまったのだった。

「本当に、大切にしてください!
そうじゃないと私、またすぐ不安になってしまいますわ」
「分かりました。
大丈夫ですよ。私はこんなにも、あなたに夢中なのですから……」

ダニエルが我慢できないというように、ジュリアの背に回していた手に力をこめる。
それから、ふっと力をゆるめると、彼女のアゴに指をかけた。

されるがままに顔を上げたジュリアは、思った以上に彼の顔が近くて、恥ずかしさに目を見開いた。

思わず身をよじったが、ダニエルが離そうとはしなかった。
彼は何も言わぬまま目を閉じると、唇を寄せてくる。

ジュリアは呆然としながらも、慌てて自分も目を閉じたのだったが。

「遅くなって、申し訳ございません!
ジュリア様、入ってもよろしいですか?」

突然ノックの音と共に、元気な声が飛び込んできたものだから、慌てて2人は体を離した。

「は、はい!どうぞ!」

急いでジュリアは答えながら、ここでようやく思い出した。
自分が、着替えの手伝いに店員が来るのを待っていたところだった、というのを。

入ってきた店員はチラリとダニエルに目をやったものの、何も言おうとはしなかった。
しかしなんだか気まずくて。
部屋に入るなりテキパキ動く店員の横で、ジュリアとダニエルはこっそり目を見交わして、苦笑いしたのだった。
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