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34:ダニエルの優柔不断②
しおりを挟むダニエルは、このままルイーズに引きずられてはいけないと、そっと目を閉じた。
すると鮮やかに浮かんできたのは、やはりジュリアの笑顔だ。
……そうだ。
ダニエルは心の内で呟いた。
せっかく本心を話してしまおうと決めたのだから、今になって尻込みをしていてはいけない。
改めて決意を固めると、すぐさま、気合いを入れるように姿勢を正し、ルイーズに顔を向ける。
そして
「実はね、ルイーズ……」
と、なんとか切り出したのだったが。
何を思ったかルイーズは、ダニエルの腕にそっと指をかけてくると、こちらに顔を向けたまま静かに目を閉じたのである。
長いまつ毛がパサリと揺れるのを、ダニエルは呆然として見つめていた。
ゴクリと喉を鳴らして視線を下げていくと、艶やかなピンク色の唇が目に入る。
そしてそのまま、目が離せなくなってしまった。
キスをねだられている……?
今まで何度もキスしようと試みてきたものの、一度も成功したことはないというのに。
まさかこのタイミングで、ルイーズの方から求められるとは思わなかったダニエルは、動くことも出来ぬまま彼女を見つめ続けた。
気がつけば、考えるよりも前に手が動いてしまっていた。
ルイーズの華奢な白い肩に、そっと両手をかける。
ルイーズのまつ毛は閉じられたままだったが、彼の手が肩にかかると、反応するようにピクリと動いた。
このまま肩を抱き寄せ、唇を奪ってしまいたい。
ダニエルは誘惑に抗う事も出来ず、ぐっと手に力を込めたのだったが……
「ダメだよ、ルイーズ……。
目を開けて」
なんとかそう呟くと、ルイーズの肩を押し戻した。
ようやく開かれたルイーズの目が、じっとこちらに向けられる。
その美しい瞳は、ゆっくりと涙で覆われて行った。
「ひどいわ、ダニエル……」
「ご、ごめん。
でもいつもは君の方が、まだキスはダメだって言っていたじゃないか」
「そうだけど……。
でも私、あなたが好きだから勇気を出したのに」
「そうだよね……ごめん」
ポロポロと頬を伝って落ちていく涙を見ていると、ダニエルはすっかり頭が真っ白になってしまった。
用意してきた言葉など、もう言う気にはなれなかった。
とにかく今はもう、これ以上ルイーズを傷つけたくない。
その一心で、ペラペラと適当な言葉を並べることしかできなかった。
「でもルイーズのことは、本当に大切にしたいんだよ!
だから結婚式までは君の名誉に傷をつけるような事は絶対にしたくないんだ」
「そう?そうだったら……嬉しい!」
ルイーズがダニエルに飛びついて、胸に顔を埋めてくる。
いつになく彼女が、大きく胸元の開いた服を着ているせいで、目のやり場に困りつつ、ダニエルは頬を赤らめたのだった。
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