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22:ルイーズの激励①
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「もう!なにやってるのよ!」
ルイーズはブツブツ言いながら、早足に廊下を進んでいった。
そのすぐ後ろでは
「そんなにカッカしなくても。
慌てて見に行かなくたって、ダニエル1人でどうにかするだろ、きっと」
とケインが呑気な事を言いながらも、急いでついてくる。
ルイーズは振り返ることもせずに、歩き続けた。
「慌てるに決まってるでしょう!
ダニエルのことだもの。
少し上手くいかなかったからって、すぐに諦めて逃げ出したに決まってるわ!」
そして大きく鼻を鳴らした。
「そんな時は、私がしっかり言ってあげないと!
彼ったら1人では何も出来ないんだから」
「やれやれ……まるで過保護な母親だな」
ボソリとケインが呟いたのは、しっかり聞こえていたし、それにイラッともしたけれど。
ルイーズが怒鳴り返さなかったのは、ちょうど2人が角を曲がったところで、少し先の扉から飛び出してきたダニエルを見つけたからだった。
「ダニエル!」
ルイーズの声が廊下に響き渡る。
ルイーズたちに背を向けて、反対方向に進もうとしていたダニエルはビクリと体を震わせた。
ピタリと彼の足が止まる。
そして恐る恐るというふうに振り返ると、
「あ……ルイーズ。
それにケインまで……どうしたんだい?」
と弱々しく呟いた。
「どうしたも、こうしたもないわ!
あなたが、しっかりやってるか遠くから見てたんだけど、急に席を立ったのが分かったから、何かあったのか心配になったのよ。
だから来たんでしょう」
ルイーズは、幼い子どもを叱るかのように、腰に両手を当てて眉を吊り上げた。
ダニエルはそんなルイーズを前に、精一杯首を縮めている。
背後でケインの忍び笑いが聞こえた。
ルイーズはすかさず振り返ると、威圧的に彼を睨みつけた。
それからすぐにダニエルに向き直ると、大きく息を吐き出した。
「それで?
いったいどうしたっていうの」
「うん……」
ダニエルはオドオドと、ルイーズとケインを交互に見やりながら口を開いた。
「ジュリアと並んで座っていた時……会話が途切れたのを見計らって、作戦通り、キスするフリをしようとしたんだよ。
急に顔を近づけてみてさ」
ルイーズは大きく頷いた。
それは確かに自分達も見ていた通りだから、嘘ではないだろう。
問題はその後だ。
「そうしたらジュリアは、どんな反応をしたの?」
「そ、それが……」
ダニエルは躊躇いつつも、続けた。
「僕が近づいていったら、初めは驚いたように目を見開いたんだ。
悲鳴を上げられるかも、と覚悟して、思わず体を硬くしたよ。
それなのに、いつまで待っても悲鳴なんて聞こえてこないんだ。
それどころか彼女ときたら、目を閉じて、顔をこっちに向け出したんだよ!」
自分達の他に人がいなくて良かった、とルイーズは思っていた。
それほど、今のダニエルの顔は情けなくて。
話し方も、まるで悲痛な叫びのようになっていたのである。
ルイーズはブツブツ言いながら、早足に廊下を進んでいった。
そのすぐ後ろでは
「そんなにカッカしなくても。
慌てて見に行かなくたって、ダニエル1人でどうにかするだろ、きっと」
とケインが呑気な事を言いながらも、急いでついてくる。
ルイーズは振り返ることもせずに、歩き続けた。
「慌てるに決まってるでしょう!
ダニエルのことだもの。
少し上手くいかなかったからって、すぐに諦めて逃げ出したに決まってるわ!」
そして大きく鼻を鳴らした。
「そんな時は、私がしっかり言ってあげないと!
彼ったら1人では何も出来ないんだから」
「やれやれ……まるで過保護な母親だな」
ボソリとケインが呟いたのは、しっかり聞こえていたし、それにイラッともしたけれど。
ルイーズが怒鳴り返さなかったのは、ちょうど2人が角を曲がったところで、少し先の扉から飛び出してきたダニエルを見つけたからだった。
「ダニエル!」
ルイーズの声が廊下に響き渡る。
ルイーズたちに背を向けて、反対方向に進もうとしていたダニエルはビクリと体を震わせた。
ピタリと彼の足が止まる。
そして恐る恐るというふうに振り返ると、
「あ……ルイーズ。
それにケインまで……どうしたんだい?」
と弱々しく呟いた。
「どうしたも、こうしたもないわ!
あなたが、しっかりやってるか遠くから見てたんだけど、急に席を立ったのが分かったから、何かあったのか心配になったのよ。
だから来たんでしょう」
ルイーズは、幼い子どもを叱るかのように、腰に両手を当てて眉を吊り上げた。
ダニエルはそんなルイーズを前に、精一杯首を縮めている。
背後でケインの忍び笑いが聞こえた。
ルイーズはすかさず振り返ると、威圧的に彼を睨みつけた。
それからすぐにダニエルに向き直ると、大きく息を吐き出した。
「それで?
いったいどうしたっていうの」
「うん……」
ダニエルはオドオドと、ルイーズとケインを交互に見やりながら口を開いた。
「ジュリアと並んで座っていた時……会話が途切れたのを見計らって、作戦通り、キスするフリをしようとしたんだよ。
急に顔を近づけてみてさ」
ルイーズは大きく頷いた。
それは確かに自分達も見ていた通りだから、嘘ではないだろう。
問題はその後だ。
「そうしたらジュリアは、どんな反応をしたの?」
「そ、それが……」
ダニエルは躊躇いつつも、続けた。
「僕が近づいていったら、初めは驚いたように目を見開いたんだ。
悲鳴を上げられるかも、と覚悟して、思わず体を硬くしたよ。
それなのに、いつまで待っても悲鳴なんて聞こえてこないんだ。
それどころか彼女ときたら、目を閉じて、顔をこっちに向け出したんだよ!」
自分達の他に人がいなくて良かった、とルイーズは思っていた。
それほど、今のダニエルの顔は情けなくて。
話し方も、まるで悲痛な叫びのようになっていたのである。
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