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17:ダニエルのキス①

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さて、ジュリアが、ダニエルに手を握られるシーンを想像して赤くなっていた頃。
当のダニエルは、まさに今、女性の手を握りしめているところだった。

しかしもちろん相手はジュリアではない。
ダニエルの隣で恥ずかしそうに顔を伏せながらも、チラチラと上目で見てくるのは、ルイーズだったのである。

2人はルイーズの屋敷の庭の片隅で、しばらく黙ったまま、熱い視線を絡ませていたのだ。

「ずっとこうしていられたら良いのに……」

ダニエルは呟きながら、細く白いルイーズの指を撫でた。
彼女はされるがまま、彼に身を委ねている。

少しでも力を込めれば、ぽきりと折れてしまいそうなほど華奢な指を見つめながら、ダニエルは考えを巡らせていた。

時折、こっそりと辺りを見渡したが、誰も通る気配はない。
となれば、今日こそは……と、ダニエルは心の中で強くこぶしを握った。

ダニエルは、目を伏せているルイーズの長いまつ毛から、ゆっくりと視線を下げていった。
そしてその艶やかな唇に、ピタリと目をとめる。

ゴクリ、と喉がなった。

ルイーズに気づかれないように、ゆっくり、ゆっくり顔を近づけていく。
そして、あと少しというところで、勢いよく彼女の唇に、尖らせた自分の唇を寄せて行ったのだったが。

思いがけずルイーズが

「あら、ケイン」

と言いながら立ち上がったものだから、行き先を失った唇が、情けなく空を切った。
しかし彼は動揺をなんとか押し隠し、準備万端だった唇をパクパクと開きながら、顔を上げた。

「あ、ああ……どうしたんだ。ケイン」

内心では、大きく舌打ちをしていた。


ルイーズとの2人きりの時間を邪魔するなよ!
帰れ!


と、怒鳴って追い返してしまいたいのは山々だったが、必死にその気持ちをこらえる。

幸いにも、ルイーズは、ダニエルのしようとしたことに全く気がついていなかったらしい。
格好悪いところを見られずに済んだことに、ほっとしながら、ダニエルはケインへと小さく手を上げて見せた。

「お邪魔だったかな?」

ケインがニヤニヤ笑いながら、2人の正面の椅子に腰かける。
しかしルイーズはその質問には答えずに冷たく言った。

「来たわね、役に立っていない人が」
「ひどい言いようだな。
結構頑張っているっていうのに」

ケインは笑っていったが、ルイーズは口をへの字に曲げて、そっぽを向いてしまう。
するとケインは肩をすくめて続けた。

「キスしようとしてたところを邪魔したのは悪かったけど、そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
「そ、そんなことしようとはしてないぞ!
変なことを言うなよ。
ルイーズが誤解するだろう」

ルイーズが口を開く前に、慌てて口を挟んだのはダニエルである。
やましい気持ちを見透かされてしまって、ドキリとしたあまり、つい慌てたような抗議の声が飛び出してしまったのだ。

「そうよ、ダニエルがそんなことするわけないでしょう。
結婚前だというのに、はしたない……」

ルイーズは言いかけて、突然言葉を切った。
そして、彼女の言葉にショックを受けているダニエルには気づかずに、興奮した口調で

「それだわ!」

と叫んだものだから、ダニエルは面食らってしまった。

「な、なにが?どうしたのさ」

恐る恐る訊ねると、彼女はニンマリと笑いながら、人差し指をピンと立てて答えたのである。

「あなたがジュリアに、キスをすればいいのよ」

その瞬間、ルイーズの栗色の瞳が悪戯っぽく輝いた。
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