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15:ルイーズの猫かぶり

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「うまくいかないんだよなー。
なんだか、思ったより手強いかも」

ケインが情けない表情で呟くのを聞いて、ルイーズは下唇を噛んだ。

「なによ、弱気ね。
最初は、あんなに強気だったくせに」
「そうなんだけどさ。
ジュリアは本当にダニエルのことしか頭にないみたいで。
あんなに無関心な目で女の子に見られたのなんて初めてだったから、心が折れそうになっちゃったよ」

ケインは頭をガシガシかきながら笑った。

「まったく!愛されてるよなー、ダニエルは!
ここまでくると、羨ましいくらいだぞ。
あの子、結構可愛い顔してるしさ。
もうこのまま素直に結婚してやれば?」

あっけらかんと言うケインを、ルイーズは恐ろしい顔で睨みつけた。
もちろんダニエルからは見えていないことを確認してのことである。

これにはケインも、思わず口を閉ざした。

それでも数秒間は、鋭い視線を浴びせかけ続けておいてから、急にルイーズは表情を緩め、今度は一転して可愛らしい顔になって、ダニエルを見上げた。
すると彼は慌てたように首を横に振った。

「いやいや!ジュリアと結婚なんて、あり得ないさ!
僕が愛しているのは、ルイーズだからね」

ダニエルに肩を抱かれて、ルイーズは目を細めて微笑んでみせる。

「嬉しいわ、ダニエル。
私も、もちろん愛しているわよ」

そして長いまつ毛を揺らして目を閉じながら、考えた。

万が一、ケインが言うように、ダニエルがジュリアを好きになってしまったとしたら。
確実に、しかもあっさりと、自分は捨てられるだろう。

家柄や、それに伴う持参金から考えると、結婚の条件はジュリアの方がはるかに良い。
むしろダニエルにとって、ルイーズと結婚するメリットは無いに等しいと言っても過言ではなかった。

男爵令嬢とは名ばかりで、経済的にかなり困窮しているルイーズの家と婚姻関係を結ぶことは、ダニエルの家にとってマイナスでしかないだろう。

ダニエルは『愛しているから』ルイーズと結婚すると言ってくれているが、彼の両親は、その気持ちだけでの結婚を許すかどうか……。
いや、おそらく許さないだろう。
きっとダニエルを説得して、諦めさせるに違いない。

それに対抗するには、ダニエルの心を強くつかみ続けている必要があったのである。

ダニエルと結婚して、贅沢な生活を手に入れること。
それが、ルイーズの望みだった。

その為に、ダニエルの愛がほしいだけ。
本当の愛など必要ない。
ただ、結婚してしまうまでは絶対に、それが必要だったのである。

「私以外の女の人を好きになったら、いやよ?」

ルイーズはダニエルの肩に頭をすり寄せて囁く。
するとダニエルは分かりやすく鼻の下を伸ばして、

「まさか!そんなこと、するわけないよ!
やきもちを妬くなんて可愛いな、ルイーズは」

と、さも嬉しそうにデレデレと笑うのだった。
呆れた顔で、ケインがこちらを見ているのは分かっていたけれど。

そんなことは構わなかった。

ダニエルと結婚するため。
その為なら、甘えた声くらい、いくらでも出してやる。


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