5 / 52
5:ケインの甘い言葉①
しおりを挟む
さて、ダニエルとジュリアのダンスを眺めていたケインは、こっそりと舌なめずりしていた。
緊張のあまり体を強ばらせながらも、嬉しそうにダニエルを見上げるジュリアは、咲きかけのつぼみのように可憐で。
ダニエルに頼まれなくても、思わず声をかけたくなるほど可愛らしかった為、いつ声をかけようかと、うずうずしていたのである。
隣ではルイーズが
「しっかり役目を果たしてちょうだいね。
あんな小娘1人、あなただったら簡単に口説き落とせるでしょう?」
とかなんとか、さっきから絶えずブツブツ言っているが、ケインは全く聞いていなかった。
ルイーズは確かに顔は整っているし、胸元が大きく開いたドレスが様になっているほど、スタイルもいい。
しかし、はっきり言ってケインの好みではなかった。
いくら女好きとは言え、小言を言い続ける母親のような女に興味はない。
いったいダニエルは、こんな女のどこが気に入ったんだか……。
と、ケインはこっそりため息をついていたほどである。
おかげで、ルイーズが隣にいると、ますますジュリアが可愛らしく見えてくるのだった。
「ちょっと!聞いてるの?
どうやって話しかけるのかって、何度も聞いてるんだけど!」
ケインはため息をつきかけたが、もちろん本当に行動に移すわけではない。
その代わり、黙ったままかがみ込むと、ルイーズの耳に唇を寄せた。
そして、
「しーっ……」
とだけ、囁いた。
彼がしたことはと言えば、ただそれだけだ。
しかし、彼の熱っぽい吐息を耳に受けたルイーズは、すっかり顔を赤くするなり、耳を押さえて黙り込んでしまった。
……これで少しは静かになるだろ。
ケインは彼女に、にっこりと微笑んで見せると、再びジュリアへと視線を戻す。
もうルイーズの声が聞こえることは、無かった。
その時、ちょうど音楽が終わったのに気がつくと、まだ呆けているルイーズを置いて、ケインはさっさと歩き出した。
そして、やって来たのは、ダニエルとジュリアの前である。
「やあ、ダニエル」
軽く手を上げると、彼も
「ああ、ケイン」
と頷きながら、ほっとしたような顔になった。
そして何か言いたげに目配せをしてきたのに気がついた。
言葉にはしなくても、ジュリアを頼む、とでも言いたいのだろうということは、察しがつく。
ケインは小さく頷いてから、ジュリアに顔を向けると、微笑んで見せた。
まっすぐに見つめれば、まず大抵の女性は顔を赤らめる。
そう彼が自負している微笑みである。
案の定ジュリアも頬を赤くしたのを見ると、ケインは満足げに眉を上げた。
緊張のあまり体を強ばらせながらも、嬉しそうにダニエルを見上げるジュリアは、咲きかけのつぼみのように可憐で。
ダニエルに頼まれなくても、思わず声をかけたくなるほど可愛らしかった為、いつ声をかけようかと、うずうずしていたのである。
隣ではルイーズが
「しっかり役目を果たしてちょうだいね。
あんな小娘1人、あなただったら簡単に口説き落とせるでしょう?」
とかなんとか、さっきから絶えずブツブツ言っているが、ケインは全く聞いていなかった。
ルイーズは確かに顔は整っているし、胸元が大きく開いたドレスが様になっているほど、スタイルもいい。
しかし、はっきり言ってケインの好みではなかった。
いくら女好きとは言え、小言を言い続ける母親のような女に興味はない。
いったいダニエルは、こんな女のどこが気に入ったんだか……。
と、ケインはこっそりため息をついていたほどである。
おかげで、ルイーズが隣にいると、ますますジュリアが可愛らしく見えてくるのだった。
「ちょっと!聞いてるの?
どうやって話しかけるのかって、何度も聞いてるんだけど!」
ケインはため息をつきかけたが、もちろん本当に行動に移すわけではない。
その代わり、黙ったままかがみ込むと、ルイーズの耳に唇を寄せた。
そして、
「しーっ……」
とだけ、囁いた。
彼がしたことはと言えば、ただそれだけだ。
しかし、彼の熱っぽい吐息を耳に受けたルイーズは、すっかり顔を赤くするなり、耳を押さえて黙り込んでしまった。
……これで少しは静かになるだろ。
ケインは彼女に、にっこりと微笑んで見せると、再びジュリアへと視線を戻す。
もうルイーズの声が聞こえることは、無かった。
その時、ちょうど音楽が終わったのに気がつくと、まだ呆けているルイーズを置いて、ケインはさっさと歩き出した。
そして、やって来たのは、ダニエルとジュリアの前である。
「やあ、ダニエル」
軽く手を上げると、彼も
「ああ、ケイン」
と頷きながら、ほっとしたような顔になった。
そして何か言いたげに目配せをしてきたのに気がついた。
言葉にはしなくても、ジュリアを頼む、とでも言いたいのだろうということは、察しがつく。
ケインは小さく頷いてから、ジュリアに顔を向けると、微笑んで見せた。
まっすぐに見つめれば、まず大抵の女性は顔を赤らめる。
そう彼が自負している微笑みである。
案の定ジュリアも頬を赤くしたのを見ると、ケインは満足げに眉を上げた。
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?
海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。
「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。
「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。
「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
聖女候補……の付き人になりました
そらのあお
恋愛
ある日、《勇者》と《聖女》の選定の儀を執り行うと発表され、国中からその候補が身分問わずに集められることになった。
辺境の地にあるココ村からは魔力を持つ村長の娘が聖女候補として王都に向けて出発する。
その娘の付き人として選ばれたのは、村で孤立していた少女で………
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる