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5:ケインの甘い言葉①

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さて、ダニエルとジュリアのダンスを眺めていたケインは、こっそりと舌なめずりしていた。

緊張のあまり体を強ばらせながらも、嬉しそうにダニエルを見上げるジュリアは、咲きかけのつぼみのように可憐で。
ダニエルに頼まれなくても、思わず声をかけたくなるほど可愛らしかった為、いつ声をかけようかと、うずうずしていたのである。

隣ではルイーズが

「しっかり役目を果たしてちょうだいね。
あんな小娘1人、あなただったら簡単に口説き落とせるでしょう?」

とかなんとか、さっきから絶えずブツブツ言っているが、ケインは全く聞いていなかった。
ルイーズは確かに顔は整っているし、胸元が大きく開いたドレスが様になっているほど、スタイルもいい。

しかし、はっきり言ってケインの好みではなかった。

いくら女好きとは言え、小言を言い続ける母親のような女に興味はない。


いったいダニエルは、こんな女のどこが気に入ったんだか……。


と、ケインはこっそりため息をついていたほどである。
おかげで、ルイーズが隣にいると、ますますジュリアが可愛らしく見えてくるのだった。

「ちょっと!聞いてるの?
どうやって話しかけるのかって、何度も聞いてるんだけど!」

ケインはため息をつきかけたが、もちろん本当に行動に移すわけではない。
その代わり、黙ったままかがみ込むと、ルイーズの耳に唇を寄せた。
そして、

「しーっ……」

とだけ、囁いた。
彼がしたことはと言えば、ただそれだけだ。

しかし、彼の熱っぽい吐息を耳に受けたルイーズは、すっかり顔を赤くするなり、耳を押さえて黙り込んでしまった。


……これで少しは静かになるだろ。


ケインは彼女に、にっこりと微笑んで見せると、再びジュリアへと視線を戻す。
もうルイーズの声が聞こえることは、無かった。


その時、ちょうど音楽が終わったのに気がつくと、まだ呆けているルイーズを置いて、ケインはさっさと歩き出した。

そして、やって来たのは、ダニエルとジュリアの前である。

「やあ、ダニエル」

軽く手を上げると、彼も

「ああ、ケイン」

と頷きながら、ほっとしたような顔になった。
そして何か言いたげに目配せをしてきたのに気がついた。

言葉にはしなくても、ジュリアを頼む、とでも言いたいのだろうということは、察しがつく。
ケインは小さく頷いてから、ジュリアに顔を向けると、微笑んで見せた。

まっすぐに見つめれば、まず大抵の女性は顔を赤らめる。
そう彼が自負している微笑みである。

案の定ジュリアも頬を赤くしたのを見ると、ケインは満足げに眉を上げた。
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