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1:ジュリアの理想の夫婦像①
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「準備は出来た?」
ノックの音が響くと、鏡を覗き込んでいたジュリア・チェスター伯爵令嬢は笑顔で振り返った。
「ええ。どうぞ」
その声に応えるように扉が開き、顔を覗かせたのは、ジュリアの母、チェスター伯爵夫人だった。
「あらあら、随分ご機嫌ね」
「それはそうよ。
なんと言っても、今日は婚約を発表する日ですもの。
楽しみすぎて、昨日はほとんど眠れなかったわ!」
そう、今日はジュリアとダニエル・バークス伯爵令息との婚約を披露する夜会が開かれる日なのである。
ダニエルのことは当然以前から知ってはいたが、口をきいたことはほとんどない。
その状態で、急遽婚約が決まったものだから、ジュリアと彼はほとんど初対面のようなものだった。
ジュリアはウキウキと立ち上がると、鏡の前でクルリと回った。
「どうかしら?」
「とても素敵よ。
これならきっと、ダニエル様も惚れ惚れするに決まっているわ」
ふふっと笑って、ジュリアはスカートのシワを伸ばす。
と、そこへ、またしてもノックの音がした。
「入ってもいいかな?」
「あら、お父様。どうぞ!」
ひょいと顔を覗かせた父、チェスター伯爵は、娘を見て感嘆のため息をもらした。
「ああ、ジュリア!
今日はいつにも増して綺麗だね。
なんだか、ぐっと大人っぽく見える」
「ありがとう。
ダニエルもそう思ってくれたら良いんだけど」
「思うに決まってるさ!
ああ……こんなに可愛い娘がお嫁に行ってしまうなんて、寂しいよ」
「あなたったら!
気が早すぎますよ。
今日は婚約の発表なだけで、結婚式は来年だと言うのに」
「それはそうだけどね。
考えただけでも……」
と、メガネを押し上げて涙を拭い始める伯爵に、ジュリアと伯爵夫人は顔を見合わせて、大きく笑い出してしまった。
「まあまあ、あなた。
寂しいのは分かりますけど、愛する娘の晴れ舞台だと思えば、結婚式も楽しみになりますよ。
それに、ジュリアが家を出ても、私がいるじゃないですか」
伯爵夫人が腕を取ると、伯爵は顔を上げて微笑んだ。
「そうだね、うん。
きみと一緒なら、寂しいことなんてないな」
「そうでしょう?
2人になったら、また旅行にでも行きましょうね」
仲睦まじい様子の両親を見ながら、ジュリアは微笑んだ。
2人は、まさに彼女の理想の夫婦像だった。
ダニエルと自分も、きっとこんなふうに、いつまでも仲の良い素敵な夫婦になってみせる、と心に誓っていたのである。
ノックの音が響くと、鏡を覗き込んでいたジュリア・チェスター伯爵令嬢は笑顔で振り返った。
「ええ。どうぞ」
その声に応えるように扉が開き、顔を覗かせたのは、ジュリアの母、チェスター伯爵夫人だった。
「あらあら、随分ご機嫌ね」
「それはそうよ。
なんと言っても、今日は婚約を発表する日ですもの。
楽しみすぎて、昨日はほとんど眠れなかったわ!」
そう、今日はジュリアとダニエル・バークス伯爵令息との婚約を披露する夜会が開かれる日なのである。
ダニエルのことは当然以前から知ってはいたが、口をきいたことはほとんどない。
その状態で、急遽婚約が決まったものだから、ジュリアと彼はほとんど初対面のようなものだった。
ジュリアはウキウキと立ち上がると、鏡の前でクルリと回った。
「どうかしら?」
「とても素敵よ。
これならきっと、ダニエル様も惚れ惚れするに決まっているわ」
ふふっと笑って、ジュリアはスカートのシワを伸ばす。
と、そこへ、またしてもノックの音がした。
「入ってもいいかな?」
「あら、お父様。どうぞ!」
ひょいと顔を覗かせた父、チェスター伯爵は、娘を見て感嘆のため息をもらした。
「ああ、ジュリア!
今日はいつにも増して綺麗だね。
なんだか、ぐっと大人っぽく見える」
「ありがとう。
ダニエルもそう思ってくれたら良いんだけど」
「思うに決まってるさ!
ああ……こんなに可愛い娘がお嫁に行ってしまうなんて、寂しいよ」
「あなたったら!
気が早すぎますよ。
今日は婚約の発表なだけで、結婚式は来年だと言うのに」
「それはそうだけどね。
考えただけでも……」
と、メガネを押し上げて涙を拭い始める伯爵に、ジュリアと伯爵夫人は顔を見合わせて、大きく笑い出してしまった。
「まあまあ、あなた。
寂しいのは分かりますけど、愛する娘の晴れ舞台だと思えば、結婚式も楽しみになりますよ。
それに、ジュリアが家を出ても、私がいるじゃないですか」
伯爵夫人が腕を取ると、伯爵は顔を上げて微笑んだ。
「そうだね、うん。
きみと一緒なら、寂しいことなんてないな」
「そうでしょう?
2人になったら、また旅行にでも行きましょうね」
仲睦まじい様子の両親を見ながら、ジュリアは微笑んだ。
2人は、まさに彼女の理想の夫婦像だった。
ダニエルと自分も、きっとこんなふうに、いつまでも仲の良い素敵な夫婦になってみせる、と心に誓っていたのである。
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