58 / 62
58
しおりを挟む
ナディアとレナードが一緒にリンデン王国に行ったことは、まず間違いないと思われた。
悔しいのは、2人のどちらからもその事を知らされていなかったことである。
もうずっと2人と連絡を絶っていたのは自分の方だというのに、裏切られたという思いが膨らむのを止めることが出来なかった。
一人になるとその事ばかり考えてしまうせいで、全く仕事が手につかなくなっていたハロルドは、目の前の書類の山をぼんやり眺めて溜息をついた。
本当は今すぐにでも部屋を飛び出して、ナディアを追いかけに行きたい。
しかし仕事は溜まる一方だったし、なにより、ナディアは自分よりレナードを選ぼうとしているのだと思うと、足の力が抜けてしまう。
「ナディアは、もう戻って来ないつもりなのか……?」
ハロルドは背もたれに頭を乗せて、天井を見上げた。
こうしていても、思い出されるのは彼女の笑顔ばかり。
けれどもそれが今、自分ではない他の男に向けられているのだ。
「はあ……」
ハロルドは力無く開いた口を閉じようともせずに、瞼を閉じた。
会いに行って無理矢理連れ戻しても、意味がない。
縛り付けてでも隣にいさせることは出来るだろう。
しかし、あの笑顔を見せてくれなければ……彼女自身がハロルドの隣にいることを望んでくれなければ意味がない。
では、いったいどうしたら良いと言うのか。
こんなにも彼女のことが好きだったのかと、改めて思う。
そして同時に、本当に彼女のことが好きなら、ナディアが望む相手といられるように身を引くべきなのだろう、ということも分かっていた。
……分かってはいたが、それをしてやる広い心など、あいにく自分は持ち合わせていない。
何としてでも取り戻したい、というのが本音だ。
しかし……。
同じようなことを考え続けて、すっかり頭が痛くなってきたハロルドは、強く頭を左右に振った。
まるでそうすれば、頭の中に詰め込まれている悩みが振り落とされるとでも言うように。
そしてハロルドは、書類の束からふと目についた手紙を取り上げた。
それは国の公式行事に出席するよう求める招待状だった。
もちろん婚約者であるナディアも一緒に、である。
ハロルドは思わずハッとした。
そしてペンを取ると、手紙を書き始めた。
ナディアに、その行事に出席するよう求める手紙だ。
ひと通り書き終えると、読み返すことすらせずに封をした。
一刻も早く封蝋でとめてしまわなければ、また心が揺らいでしまいそうだったのである。
「これで、よし」
ハロルドは満足げに手紙を眺めると、息をついた。
もしこの手紙を読んでもナディアが返って来なければ、それが彼女の答えだ。
それならば、それでキッパリ諦めよう。
しかし、もし帰ってきたならば……。
その時は、恥も見栄も捨てて、素直に想いを伝えよう。
そして、二度と手放したりするものか……。
悔しいのは、2人のどちらからもその事を知らされていなかったことである。
もうずっと2人と連絡を絶っていたのは自分の方だというのに、裏切られたという思いが膨らむのを止めることが出来なかった。
一人になるとその事ばかり考えてしまうせいで、全く仕事が手につかなくなっていたハロルドは、目の前の書類の山をぼんやり眺めて溜息をついた。
本当は今すぐにでも部屋を飛び出して、ナディアを追いかけに行きたい。
しかし仕事は溜まる一方だったし、なにより、ナディアは自分よりレナードを選ぼうとしているのだと思うと、足の力が抜けてしまう。
「ナディアは、もう戻って来ないつもりなのか……?」
ハロルドは背もたれに頭を乗せて、天井を見上げた。
こうしていても、思い出されるのは彼女の笑顔ばかり。
けれどもそれが今、自分ではない他の男に向けられているのだ。
「はあ……」
ハロルドは力無く開いた口を閉じようともせずに、瞼を閉じた。
会いに行って無理矢理連れ戻しても、意味がない。
縛り付けてでも隣にいさせることは出来るだろう。
しかし、あの笑顔を見せてくれなければ……彼女自身がハロルドの隣にいることを望んでくれなければ意味がない。
では、いったいどうしたら良いと言うのか。
こんなにも彼女のことが好きだったのかと、改めて思う。
そして同時に、本当に彼女のことが好きなら、ナディアが望む相手といられるように身を引くべきなのだろう、ということも分かっていた。
……分かってはいたが、それをしてやる広い心など、あいにく自分は持ち合わせていない。
何としてでも取り戻したい、というのが本音だ。
しかし……。
同じようなことを考え続けて、すっかり頭が痛くなってきたハロルドは、強く頭を左右に振った。
まるでそうすれば、頭の中に詰め込まれている悩みが振り落とされるとでも言うように。
そしてハロルドは、書類の束からふと目についた手紙を取り上げた。
それは国の公式行事に出席するよう求める招待状だった。
もちろん婚約者であるナディアも一緒に、である。
ハロルドは思わずハッとした。
そしてペンを取ると、手紙を書き始めた。
ナディアに、その行事に出席するよう求める手紙だ。
ひと通り書き終えると、読み返すことすらせずに封をした。
一刻も早く封蝋でとめてしまわなければ、また心が揺らいでしまいそうだったのである。
「これで、よし」
ハロルドは満足げに手紙を眺めると、息をついた。
もしこの手紙を読んでもナディアが返って来なければ、それが彼女の答えだ。
それならば、それでキッパリ諦めよう。
しかし、もし帰ってきたならば……。
その時は、恥も見栄も捨てて、素直に想いを伝えよう。
そして、二度と手放したりするものか……。
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】いいえ。チートなのは旦那様です
仲村 嘉高
恋愛
伯爵家の嫡男の婚約者だったが、相手の不貞により婚約破棄になった伯爵令嬢のタイテーニア。
自分家は貧乏伯爵家で、婚約者の伯爵家に助けられていた……と、思ったら実は騙されていたらしい!
ひょんな事から出会った公爵家の嫡男と、あれよあれよと言う間に結婚し、今までの搾取された物を取り返す!!
という事が、本人の知らない所で色々進んでいくお話(笑)
※HOT最高◎位!ありがとうございます!(何位だったか曖昧でw)

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる