ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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ナディアとレナードが一緒にリンデン王国に行ったことは、まず間違いないと思われた。
悔しいのは、2人のどちらからもその事を知らされていなかったことである。

もうずっと2人と連絡を絶っていたのは自分の方だというのに、裏切られたという思いが膨らむのを止めることが出来なかった。

一人になるとその事ばかり考えてしまうせいで、全く仕事が手につかなくなっていたハロルドは、目の前の書類の山をぼんやり眺めて溜息をついた。

本当は今すぐにでも部屋を飛び出して、ナディアを追いかけに行きたい。
しかし仕事は溜まる一方だったし、なにより、ナディアは自分よりレナードを選ぼうとしているのだと思うと、足の力が抜けてしまう。

「ナディアは、もう戻って来ないつもりなのか……?」

ハロルドは背もたれに頭を乗せて、天井を見上げた。
こうしていても、思い出されるのは彼女の笑顔ばかり。
けれどもそれが今、自分ではない他の男に向けられているのだ。

「はあ……」

ハロルドは力無く開いた口を閉じようともせずに、瞼を閉じた。

会いに行って無理矢理連れ戻しても、意味がない。
縛り付けてでも隣にいさせることは出来るだろう。
しかし、あの笑顔を見せてくれなければ……彼女自身がハロルドの隣にいることを望んでくれなければ意味がない。

では、いったいどうしたら良いと言うのか。

こんなにも彼女のことが好きだったのかと、改めて思う。
そして同時に、本当に彼女のことが好きなら、ナディアが望む相手といられるように身を引くべきなのだろう、ということも分かっていた。

……分かってはいたが、それをしてやる広い心など、あいにく自分は持ち合わせていない。
何としてでも取り戻したい、というのが本音だ。
しかし……。

同じようなことを考え続けて、すっかり頭が痛くなってきたハロルドは、強く頭を左右に振った。
まるでそうすれば、頭の中に詰め込まれている悩みが振り落とされるとでも言うように。

そしてハロルドは、書類の束からふと目についた手紙を取り上げた。

それは国の公式行事に出席するよう求める招待状だった。
もちろん婚約者であるナディアも一緒に、である。

ハロルドは思わずハッとした。
そしてペンを取ると、手紙を書き始めた。
ナディアに、その行事に出席するよう求める手紙だ。

ひと通り書き終えると、読み返すことすらせずに封をした。
一刻も早く封蝋でとめてしまわなければ、また心が揺らいでしまいそうだったのである。

「これで、よし」

ハロルドは満足げに手紙を眺めると、息をついた。

もしこの手紙を読んでもナディアが返って来なければ、それが彼女の答えだ。
それならば、それでキッパリ諦めよう。

しかし、もし帰ってきたならば……。
その時は、恥も見栄も捨てて、素直に想いを伝えよう。

そして、二度と手放したりするものか……。

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