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しおりを挟むそれでもナディアは、すぐに頭を左右に振って余計な考えを振り払った。
そしてかすれた笑い声を上げて言った。
「そんなふうにフォローして下さるなんて、レナード様は本当にお優しいですね!
ハロルドもレナード様みたいに優しい言葉をかけてくれたら良いのに!」
いつものレナードならば、すぐにナディアに同意して笑い声を上げてくれるはずだ。
ナディアはそれを期待して、力無い笑い声を上げ続けていたのだったが、いつまで待っても彼は笑みを浮かべることはなくて。
変わらずに真剣な眼差しを投げかけてくるものだから、次第に彼女の声は絶え絶えになり、しまいには情けなく消えてしまった。
「え、えっと……レナード様?」
「先程の言葉は、フォローしたわけではありませんよ。
私の本当の気持ちをお伝えしただけです」
「本当の……気持ち、ですか」
「はい」
レナードが一歩前に進み出る。
反射的にナディアは後ずさりしかけたが、それ以上下がることができなくて。
それでようやく、すぐ後ろが壁であることに気がついたのだった。
しかしレナードは紳士的に、それ以上ナディアに近づこうとはしなかった。
それでも彼の熱い眼差しを投げかけられていれば、頬が火照ってしまうのは止められない。
みるみるうちに耳まで熱くなってしまって、レナードに気づかれまいと、慌てて手で隠さなければならなかった。
レナードは真面目な顔つきのまま、丁寧に言葉を続けた。
「そうです。
私の本当の気持ち……。
つまり、ナディア様。あなたのことが好きだという、気持ちです」
「え……」
「あなたがハロルドのことを好きなのは分かっています。
でもそんなふうに、ひたむきなあなたの事がずっと気になっていました。
ハロルドと上手くいくように願ってきた気持ちも、嘘ではありません。
ナディア様が幸せなことが一番大切ですからね。
ですが……」
ここまでくるとレナードは急に口籠もった。
そしてほんのりと頬を上気させて
「リンデン王国の衣装を着てみては、とアドバイスしたのは……本当は私が、ナディア様のドレス姿を見たかったからなんです」
と、はにかむように笑った。
「もし結婚したら花嫁衣装はこんな感じなのかなと想像したり……。
あ、これはさすがに想像が行き過ぎてますよね!
すみません!」
呆然としているナディアに小さく頭を下げて、レナードは続けた。
「話がおかしな方向に逸れてしまいましたが……。
とにかく!今日のナディア様はとても素敵ですよ。
ハロルドが何を言おうと、気にする必要はありません。
今夜招待された女性達の中で、間違いなくあなたが一番輝いています!」
「あ、ありがとうございます……」
「だからそんなに悲しい顔をしないで下さい。
ほら、笑って!」
「え……。は、はい」
そう言われて、ひょいひょい笑顔になれるはずもない。
なんとか唇の端を引き上げて見せても、無様に引きつってしまって、とても笑顔とは呼べない表情が浮かぶばかり。
レナードも困ったように笑って首を傾げてしまった。
そして
「私なら、そんな顔は絶対にさせないのに」
と呟くと、まっすぐにナディアを見つめた。
「ナディア様……。
ハロルドではなく、私と婚約しては頂けませんか?」
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