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ハロルドは、頭では分かっていた。
自分がひどい言い方をしたせいで、ナディアが泣いているのだと。
レナードはただ、それを慰めているだけだ。
2人に落ち度はないし、全ては自分が悪い。
それなのに、どうしてこんなに胸が痛むのか、自分でもわけが分からなかった。
ナディアの顔に笑顔が戻ったというのに、それを見ても、ちっとも嬉しくなどなかった。
濡れた瞳が向けられているのは、自分ではないのだから。
そんなに素直な眼差しを自分以外の男に向けているナディアに、理不尽とは分かっていても、怒りさえ覚えた。
消えかけていた苛々とした熱が、再び込み上げてきて、ハロルドは思わず頭を振って、なんとかそれを押さえ込まなければならなかった。
そうでもしなければ、目の前のシャルロッテを、怒りに任せて今にも怒鳴りつけてしまいそうだった。
しかし不意に、ハロルドは氷を丸呑みにしたかのような寒気に襲われて、固まってしまった。
一瞬にして、体中に篭っていた熱は消え去り、怒りはどこかへ吹き飛んだ。
彼は見てしまったのである。
レナードの腕がナディアに向かって広げられ、彼女の体をすっぽりと覆ったのを。
彼の背に隠れてしまう、ほんの一瞬、ナディアの目が驚きで大きく見開かれるのを。
何が起こったのか、分からなかった。
目を2人から離す事が出来ぬまま、まるで他人事のように、『頭が真っ白になる』とはこういうことなのか、とぼんやりと考えていた。
そして、よりにもよって、その瞬間。
彼は思い知ってしまった。
自分はナディアのことが好きなのだ、と。
しかし静かに悲しみに浸る時間などなかった。
なにしろ隣には、シャルロッテがいるのである。
しかも悪いことに、彼女も全く同じタイミングで、ナディアとレナードを見ていたらしかった。
「あらまあ!ナディア様ったら!!」
と、耳をつんざくような甲高い声を上げると、シャルロッテは手にしていた扇を振り回した。
「レナード様と抱き合っていらっしゃるじゃないですか!
ハロルド様という婚約者がありながら……あれは不貞行為ですわ!!」
『不貞行為』。
ハロルドの頭の中を、その言葉が反響した。
しかし、動く事ができなかった。
いつものように笑顔の仮面をつけ、上手くシャルロッテを黙らせたいのに。
今までどうやって笑っていたのかも、分からなくなってしまっていた。
「ハロルド様!?
聞いていらっしゃいますか!」
すぐ隣から聞こえるはずのシャルロッテの声が、どこか遠くから聞こえているようだった。
それほどまでにハロルドの意識はぼんやりとしてしまっていたのである。
が、突然、
「ああ、お可哀想なハロルド様!
安心なさって下さい!
私がそばにいますから」
という叫び声と共に、がっしりとシャルロッテの腕が体に巻き付いてきたのに気がつくと、ようやく我に返った。
そして彼女に抱きしめられているのだと知って、ゾッとした。
自分がひどい言い方をしたせいで、ナディアが泣いているのだと。
レナードはただ、それを慰めているだけだ。
2人に落ち度はないし、全ては自分が悪い。
それなのに、どうしてこんなに胸が痛むのか、自分でもわけが分からなかった。
ナディアの顔に笑顔が戻ったというのに、それを見ても、ちっとも嬉しくなどなかった。
濡れた瞳が向けられているのは、自分ではないのだから。
そんなに素直な眼差しを自分以外の男に向けているナディアに、理不尽とは分かっていても、怒りさえ覚えた。
消えかけていた苛々とした熱が、再び込み上げてきて、ハロルドは思わず頭を振って、なんとかそれを押さえ込まなければならなかった。
そうでもしなければ、目の前のシャルロッテを、怒りに任せて今にも怒鳴りつけてしまいそうだった。
しかし不意に、ハロルドは氷を丸呑みにしたかのような寒気に襲われて、固まってしまった。
一瞬にして、体中に篭っていた熱は消え去り、怒りはどこかへ吹き飛んだ。
彼は見てしまったのである。
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彼の背に隠れてしまう、ほんの一瞬、ナディアの目が驚きで大きく見開かれるのを。
何が起こったのか、分からなかった。
目を2人から離す事が出来ぬまま、まるで他人事のように、『頭が真っ白になる』とはこういうことなのか、とぼんやりと考えていた。
そして、よりにもよって、その瞬間。
彼は思い知ってしまった。
自分はナディアのことが好きなのだ、と。
しかし静かに悲しみに浸る時間などなかった。
なにしろ隣には、シャルロッテがいるのである。
しかも悪いことに、彼女も全く同じタイミングで、ナディアとレナードを見ていたらしかった。
「あらまあ!ナディア様ったら!!」
と、耳をつんざくような甲高い声を上げると、シャルロッテは手にしていた扇を振り回した。
「レナード様と抱き合っていらっしゃるじゃないですか!
ハロルド様という婚約者がありながら……あれは不貞行為ですわ!!」
『不貞行為』。
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しかし、動く事ができなかった。
いつものように笑顔の仮面をつけ、上手くシャルロッテを黙らせたいのに。
今までどうやって笑っていたのかも、分からなくなってしまっていた。
「ハロルド様!?
聞いていらっしゃいますか!」
すぐ隣から聞こえるはずのシャルロッテの声が、どこか遠くから聞こえているようだった。
それほどまでにハロルドの意識はぼんやりとしてしまっていたのである。
が、突然、
「ああ、お可哀想なハロルド様!
安心なさって下さい!
私がそばにいますから」
という叫び声と共に、がっしりとシャルロッテの腕が体に巻き付いてきたのに気がつくと、ようやく我に返った。
そして彼女に抱きしめられているのだと知って、ゾッとした。
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