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胸を躍らせながら、ハロルドがこちらに来るのをうっとりと見つめていたナディア。
しかしここで問題が発生したのである。
突然脇から男が現れたかと思うと、ナディアに向かって手を差し伸べてきたのだ。
「失礼致します。
よろしければ、次のダンスを私と踊って頂けませんか?」
ナディアは驚きのあまり目を見開いたまま、固まってしまった。
その様子を見た男は、小さく笑いながら続ける。
「突然、申し訳ございません。
お見かけしたことのないほど美しい方でしたので、是非お相手頂きたくて……」
自分に向けられた言葉とは、とても思えなかった。
慣れない褒め言葉に慌てるあまり、顔が火照ってしまう。
しかも男は気づいていないようだが、面識のある相手なのである。
正直に正体を明かすべきか迷いながら、チラリとレナードを見ると、彼は笑いを噛み殺したような顔をしていた。
この顔は何を言いたい顔なのだろう。
不思議に思いながら、ゆっくりと顔を上げた時だった。
「申し訳ないのですが、彼女には私と踊る約束がありましてね」
不意に背後で声がして、心臓が大きく跳ねた。
それがハロルドの声だと、すぐに気がついたのである。
そして彼は、誰も何も言わないうちにナディアの手を掴むと、スタスタと歩き出してしまった。
「あ、あの……」
「黙ってろ」
振り向きもせずに低く囁かれて、ナディアはガックリしてしまった。
レナードにも協力してもらって頑張ったというのに、ハロルドには全く通用しなかったらしい。
完全に私だって分かってるじゃないの……。
音楽が流れ始めると、彼は立ち止まって振り返った。
そして片手でナディアの手を取り、もう片方の手を彼女の背中に回してくる。
ナディアは諦めきれずに、チラチラとハロルドを見上げた。
が、ゆっくりと踊り始めても、彼は褒め言葉を口にするどころか、口を開くことさえせずに足を動かし続けている。
これにはナディアも、もうどうしようもなくて。
仕方なく、自分の方から口を開くことにした。
「あ、あの……どうですか?」
「……なにが」
「私のドレスですよ。
いつもと雰囲気を変えてみたんです」
彼の答えを待っている間も、心臓がうるさく跳ねる。
しかし彼の答えは
「随分張り切ったな。
馬子にも衣装ってやつか」
と、至って冷たいものだった。
褒めてくれるとまでは思っていなかったが、まさかここまで酷い反応だとは。
ナディアは思わずヘナヘナと座り込みそうになる足に、懸命に力を入れ続けた。
そうでもしなければ、今にも倒れてしまいそうだったのである。
こんなに頑張ったと言うのに。
その努力が無駄に終わったかと思うと、じわじわと悲しみが込み上げてきて。
視界が揺らいでいった。
しかしここで問題が発生したのである。
突然脇から男が現れたかと思うと、ナディアに向かって手を差し伸べてきたのだ。
「失礼致します。
よろしければ、次のダンスを私と踊って頂けませんか?」
ナディアは驚きのあまり目を見開いたまま、固まってしまった。
その様子を見た男は、小さく笑いながら続ける。
「突然、申し訳ございません。
お見かけしたことのないほど美しい方でしたので、是非お相手頂きたくて……」
自分に向けられた言葉とは、とても思えなかった。
慣れない褒め言葉に慌てるあまり、顔が火照ってしまう。
しかも男は気づいていないようだが、面識のある相手なのである。
正直に正体を明かすべきか迷いながら、チラリとレナードを見ると、彼は笑いを噛み殺したような顔をしていた。
この顔は何を言いたい顔なのだろう。
不思議に思いながら、ゆっくりと顔を上げた時だった。
「申し訳ないのですが、彼女には私と踊る約束がありましてね」
不意に背後で声がして、心臓が大きく跳ねた。
それがハロルドの声だと、すぐに気がついたのである。
そして彼は、誰も何も言わないうちにナディアの手を掴むと、スタスタと歩き出してしまった。
「あ、あの……」
「黙ってろ」
振り向きもせずに低く囁かれて、ナディアはガックリしてしまった。
レナードにも協力してもらって頑張ったというのに、ハロルドには全く通用しなかったらしい。
完全に私だって分かってるじゃないの……。
音楽が流れ始めると、彼は立ち止まって振り返った。
そして片手でナディアの手を取り、もう片方の手を彼女の背中に回してくる。
ナディアは諦めきれずに、チラチラとハロルドを見上げた。
が、ゆっくりと踊り始めても、彼は褒め言葉を口にするどころか、口を開くことさえせずに足を動かし続けている。
これにはナディアも、もうどうしようもなくて。
仕方なく、自分の方から口を開くことにした。
「あ、あの……どうですか?」
「……なにが」
「私のドレスですよ。
いつもと雰囲気を変えてみたんです」
彼の答えを待っている間も、心臓がうるさく跳ねる。
しかし彼の答えは
「随分張り切ったな。
馬子にも衣装ってやつか」
と、至って冷たいものだった。
褒めてくれるとまでは思っていなかったが、まさかここまで酷い反応だとは。
ナディアは思わずヘナヘナと座り込みそうになる足に、懸命に力を入れ続けた。
そうでもしなければ、今にも倒れてしまいそうだったのである。
こんなに頑張ったと言うのに。
その努力が無駄に終わったかと思うと、じわじわと悲しみが込み上げてきて。
視界が揺らいでいった。
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