ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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皆が、ナディアを見て、それが誰なのか分からなくても無理はなかった。
実は今夜の彼女は、レナードの生まれ育ったリンデン王国風のドレスを身に纏っていたのだ。

ドレスばかりではない。
髪の結い上げ方から化粧の仕方、髪飾り、アクセサリーに扇、靴に至るまで、全てである。

もちろん顔形まで変わったわけではないから、よく見ればナディアだと分かる。
しかしそうとは知らずに見ていれば、すぐには誰だか分からなくても仕方がないほど、今夜のナディアは雰囲気がいつもと違っていた。

まさにリンデン王国からやってきた女性のようだったのである。

それこそがレナードと共に考えた作戦だった。


「ハロルドを思わずハッとさせるような、イメージチェンジをしてみては?」

そうレナードに言われた時はどうなる事かと心配したが……。

ナディアはチラリとレナードを見上げると、丁度こちらに目を向けた彼と目が合って。
にっこりと笑う彼につられて、思わずナディアも微笑んだ。

すれ違う人たちは皆、ナディアを不思議そうな目で見ているし、時折聞こえてくる声も『誰だか分からない』というものばかりだったのだから。

その上、

「まあ、見慣れない方ですこと。
でもリンデン王国風のドレスがよくお似合いで、可愛らしい方ね」

と、どこかの夫人が話しているのが聞こえてきては、自信が持てなかったナディアにも、ようやく力が湧いてきた。


もしかしたらハロルドも、誰だか分からないのではないだろうか。

段々とそんな気さえしてくる。


たった一言でも良い。
なにか褒め言葉をかけてくれたならば、こんなに嬉しいことはないのだけれど。

考えれば考えるほど、ナディアの期待が高まっていく。

そんな時だった。

「ナディア様」

レナードに囁かれて、ナディアは、はっとした。

「ハロルドが来ましたよ」

慌てて彼の視線を辿れば、確かに遠くからこちらに歩いてくるハロルドの姿が目に入った。
そして不意に、ハロルドとバッチリと目が合ったものだから、思わずドキリとしてしまった。

彼の目に、今の自分はどう映っているのだろう。
そう思うと、心臓がいつになく激しく暴れてしまって。
呼吸さえもうまくできなくなる。

徐々に近づいてくるハロルドから、目を逸らすことが出来ないまま、ナディアは、そっと祈っていた。


……どうか、彼の目に映る私の姿が、少しでも輝いていますように。

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