ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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「でも、どうしたら良いんでしょうか。
素直に気持ちを伝えるのは、まだ私にはハードルが高すぎます……」

ナディアは言いながら、力無く、ゆっくりと椅子に座り直した。

「それにハロルドは、女性に好意を持たれる事には、もう飽き飽きしていますし……。
私が何を言っても、逆効果な気がして……」
「そうですね。
今、好きだと言っても、結局他の女性と同じだったのかと幻滅されるだけだと思います」
「やっぱり、そうですよね」

レナードがあまりにあっさりと言うものだから、ナディアはがっくりと肩を落とした。
無意識のうちに、重いため息が口からこぼれ出ていく。

「強引に相談に押しかけておいて申し訳ないですが、なんだか上手くいかないような気がしてきました……。
そもそもハロルドが、美人でもない私なんかに振り向いてくれるところなんて、想像もできないですもん。
前にも、シャルロッテ様の方が美人だって言ってたし……」
「そんな!弱気な事を言わないで下さいよ」

レナードは励ましてくれるが、一度悪い方向に考え始めたら、蘇ってくるのは悪い思い出ばかり。

「そういえば、不細工だって言われた事もあります……」
「それはひどいですね」
「そうでしょう?
仮にも婚約者だっていうのに」

ますます弱気になるナディアの顔を、不意にレナードが覗き込んできた。

「では、何かガラリとイメージを変えてみるのはどうですか?」
「イメージですか?」
「はい。例えば、そうですね……」

とレナードは首を傾げて、少しの間ぼんやりと遠くを見ていたが、やがてポンと手を打った。

「そうだ!ナディア様は、来週のアルデン公爵の舞踏会には参加されますか?」
「ええ……招待状を頂いていますので」
「それは良かった」

レナードはニッコリと微笑んだ。

「私に考えがあります。
今日はこの後、時間はありますか?」
「は、はい」

何をすると言うのだろう。
彼が何を考えているのか分からず、不安になりながらもコクンと頷くと、レナードは

「では早速、使いを出します」

と言いながら、使用人を呼ぶ為に紐を引いた。

「良い考えって、どういうものですか?」

一応、そう訊ねてはみたけれど

「大丈夫です。
私に任せて下さい」

と意味深に微笑まれただけで、結局詳しく教えてくれることは無くて。
ナディアはただただ、不安気に瞬きを繰り返しながら、自信たっぷりなレナードの笑顔を見つめるしかなかったのである。
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