ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

文字の大きさ
上 下
36 / 62

36

しおりを挟む
「……へ?」

数秒の間の後、ナディアの口から漏れたのは、あまりにも間抜けな声だった。
自分でも聞いたことのないような、妙に低い声に驚いてしまって、慌てて口を閉じる。

それから、誤魔化すように咳払いを一つして、改めて口を開いた。

「そ、それは……私がハロルドに好意を持っていると、以前から思っていたと言うことですか?」
「ええ、そうです」

レナードは笑い声こそ出さなかったが、まだクスクス笑いながら続けた。

「ナディア様は分かりやすいですからね。
見ていれば、すぐに分かりましたよ」

ナディアは思わず耳まで真っ赤になったが、ふとある事に思い当たると、勢いよく頭を左右に振った。

「で、でも!
そんな気持ちに気づいたのは、ついさっきの事なんです。
だからそれまでは、好きとかそういうのではなくて……」
「いやいやいや!」

レナードはナディアの言葉を遮った。

「自覚は無かったかもしれないですけど、私から見れば……」

彼の反応を目の当たりにしているうちに、ナディアは恥ずかしさのあまり涙目になってきてしまった。

それでもなんとか我慢して、じっとレナードを見上げていると、彼は不意にこちらの視線に気がついたらしい。
ばつが悪そうに顔をしかめた。

「……まあ、それはいいか。
それで?ハロルドの事が好きだと気がついて……どうしたいんですか」
「どうしたいと言いますと?」
「だって、ほら。
ハロルドにも自分のことを好きになって欲しいとか、当然思うでしょう?」

そう言われて、ハッとした。
自分でも不思議だったが、レナードにそう言われるまで、そんなこと思いもしなかったのである。

いつもハロルドがあまりに冷たいから、自然と脳が、期待するのを諦めていたのかもしれない。

「ハ、ハロルドにも、なんて!
そんな!それは、あまりにも!」

ナディアはブンブン手を振って意味不明な言葉を叫んでいたが、やがて力尽きてダラリと両腕を下ろした。

「さすがにそれは……無理じゃないでしょうか。
高望みが過ぎるというか……」
「そうですか?」
「そうですよ……。
そりゃ、好きになってもらえるなら、それは嬉しいですけど」

ナディアが小声で言うと、レナードは目を細めた。
それから、少し膝を曲げて顔を覗き込んでくると

「だったら、そうなるように、これから頑張ってみましょうよ!
私で良ければ、いくらでも協力しますから」

と、形の良い唇から白い歯を覗かせたのである。
これにはナディアも、彼がそう言ってくれるなら、上手くいきそうな気がしてきて。

気がつけば

「はい!
よろしくお願いします!」

手を握らんばかりに身を乗り出して、かえってレナードを困惑させてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...