ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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「お約束もしていないというのに、突然押しかけてしまって、すみません……」

ナディアは深々と頭を下げた。

「でも、私……もうどうして良いか分からなくなってしまって……。
話を聞いて頂けそうな方といえば、あなたしか思いつかなかったんです」

と言いながら、恐る恐る顔を上げる。
ナディアの目線の先で、正面のソファーに腰掛け、優雅に足を組み替えながらこちらを見ていたのはレナードだった。

彼はナディアの不安を振り払うように、笑顔を浮かべて言った。

「いえいえ、構いませんよ。
むしろ嬉しいです。
そんなにお困りの時に、私の事を思い出して頂けたなんてね」
「そう言って頂けると……。
ありがとうございます」

レナードの顔を見ると、不安のあまり冷え切っていた指先に、じんわりと血が巡り始めるのが分かるようだった。


近くいるだけでポカポカと温かくなるような……まるで太陽みたいな方だわ。


そんな事をぼんやりとナディアが考えていると、レナードが小さく首をかしげた。

「それで、お話というのは?」

ハッとして、ナディアは姿勢を正す。

「ええ、それなんですけど……」

ここまできても、一瞬、話すのを躊躇って口籠もってしまった。

ハロルドへの自分の気持ちを、改めて口にするのが怖かったのである。
はっきりと言葉にしてしまえば、ますます彼への気持ちが堅固になるような気がして。

できる事ならば、今からでも無かったことにしたいような気さえしていたから。

しかし、これ以上自分1人だけで抱えているのは、あまりにも辛い。
そこでナディアは、おずおずと口を開いた。

「実は、私……」

深く息を吸ってから、レナードを正面から見た。

「ハロルドのことを好きになってしまったようなんです」

一息に言ってしまってから、ギュッと目を閉じた。

なぜか、レナードの返事はなかった。

あれだけハロルドへの文句を口にしておきながら、と呆れているのだろうか。

じわじわと不安になってきたナディアの耳に彼の声が聞こえてきたのは、しばらく重い沈黙の時が流れた後のことだった。

「えーっと……」

彼の声が妙に震えていることに気がついて、そっとナディアが目を開ける。
すると、こちらを見つめるレナードは、明らかに笑いを堪えながら言ったのである。

「以前から……そうだろうなと思っていましたよ?」
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