ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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レナードの説明を聞いて、またしてもハロルドにからかわれていただけだと気が付いたナディアだったが、だからといって、すぐにボックス席に戻る気にはなれなかった。
素直に戻ったところで、またハロルドになんと言われるかと考えると、足が動かなかったのである。

しかし、ハロルドに黙って一人で帰るのは、さすがに心苦しい。

色々考えながら、グズグズと動かないでいたナディアだったが、ちょうどその時、開演を知らせるベルが鳴り響いた。

「ああ、もうこんな時間だ。
始まりますね。
急いで戻らないと」

レナードは言いながら足を進めると

「席はどちらですか?」

と振り返った。
それでもナディアは歩き出す決心がつかず、立ち止まったまま、俯いている。

するとレナードは、目をぱちぱちっとしていたが、やがて彼女の前まで戻ってくると、まるで子どもに対するように、屈みこんで顔を覗き込んできた。

「ハロルドに顔を合わせずらいんですね?」
「……はい」
「分かりました」

レナードはゆっくりと立ち上がると、

「では私も一緒に行きますよ」

と、言って微笑んだ。

「え……でも、いいんですか?
一緒にいらした方がお待ちなのでは?」
「大丈夫ですよ。少しくらいなら。
さあ、急いで」

と、何でもないことのように言って、彼はさっさと歩き出す。
そこまで言ってくれるのならばと、ナディアも慌てて彼の背中を追った。


「ハロルド、入るよ?」

ノックの後、レナードがゆっくりと扉を開くと、あからさまに仏頂面のハロルドがこちらを睨んでいた。

「やっと戻ってきたかと思えば……なんでレナードまでいるんだよ」
「顔を真っ赤にして怒っているナディア様と、偶然廊下で会ってね。
またハロルドにからかわれたって聞いたから、たしなめにきたんだよ。
いくら婚約者様が可愛いからって、イジメたらダメだろう?」
「別にイジメてなんかいないさ。
それに可愛いなんて、思ってもいないしな」

ふんと鼻で笑うハロルドを、ナディアは睨んでやった。
するとすぐさま

「なんだよ、その目は」

と、ハロルドがジロリとナディアを見たが、レナードが

「はいはい、2人ともそこまで。
もう始まってるんだから、静かにね。
僕も、もう戻らないといけないし」

と言うのを聞くと、ナディアは我に返った。

「す、すみません。
ここまでついてきてもらって。
もう大丈夫ですから、戻ってください」
「そう?」
「はい、ご迷惑をおかけしました」

ナディアはそう言ってレナードに頭を下げ、彼が出て行くのを見送ったのだったが、ふと、ハロルドがこちらを見ているのに気が付いた。

「なんですか?」
「……あんたは、レナードの言うことは素直に聞くんだな」


なんだか、すねたような口調で言うものだから、驚いてしまって。
ナディアはキョトンとして、彼を見つめた。
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