ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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それからというもの、ナディアはハロルドと顔を合わせる回数がぐんと増えてしまった。
というのも、頼んでいるわけでもないのに、ハロルドが勝手に、一緒に出掛ける予定を組んでしまうのである。

当然、世間体を気にしてのことだ。

両親は喜んでいるし、婚約者である以上、拒否するわけにもいかない。

もちろんその都度小さな声で、わずかばかりの文句は言ってみるのだが、ハロルドにギロリと睨まれるか、笑って流されるかのどちらかで。
とにかくナディアの意見が彼に伝わることはなかったのである。

今日も今日とて、昼過ぎに突然手紙が来たかと思えば、夕方から一緒に劇場に行こうとの誘いだった。
時間の無い中で慌てふためきつつ、浮かれたメイドに、精一杯着飾られて出てきたのは良いものの……

「それで、今日は何の舞台を見に行くんですの?」

馬車の中で沈黙に耐えられずに発した質問に、返ってきたハロルドの返事は、たったの3文字。

「知らん」


……こんなの、報われない。


ナディアの顔から、完全に笑顔が消えた。


そっちから誘ってきたくせに、なんなのその態度。
せっかくこっちが気を遣って、会話をしようとしてるのに!


この態度を、さらっと許せるほど、ナディアは大人ではなかった。

「……そうですか」

と呟くなり、むすっと口をへの字に曲げて、彼とは反対側の窓に目を向ける。
それでもハロルドは、慌てて謝ってくるでもなく、そのまま黙り込んでいるものだから、ナディアももうそれから劇場に着くまで、口を開こうとはしなかった。

それでも構わないのである。
なぜなら、到着して一歩でも馬車の外に出ようものなら、ハロルドはすかさず笑顔を浮かべて

「さあ、ナディア。
足元に気をつけて」

と、優しく手を差し出しさえしてくれるのだから。


……全くもう。


この豹変ぶりときたら、何度見ても呆れてしまう。

しかしナディアは、もう面倒くさくて、いちいち突っ込むことさえせずに、彼の手を取るのだった。
ハロルドが耳元で

「嫌そうな顔をするな。笑え」

と囁いてきても

「はいはい」

と小さく呟くだけで、引きつりつつも、言われた通りに笑顔を浮かべる。

彼の隣では、いかにも仲良さそうに振る舞う癖が、いつの間にかついてきてしまっていた。
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