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ナディアがすっかりレナードの優しさに魅了され始めたところで、軽やかな音楽が流れ出した。
どうやらダンスが始まるらしい。
自然と、手を取り合った男女がホールの中心へと集まってくるのを、ナディアは他人事のように眺めていたのだけれど。
「行くぞ」
と隣で囁かれて、仰天してしまった。
いつもダンスなど踊らないハロルドが、手を差し出してきているのだ。
途端に、その様子を見ていたらしい娘たちが、歓声を上げた。
「ハロルド様がダンスをなさるわ!」
「まあ珍しい!
お相手はナディア様ね、やっぱり」
「でももしかしたら、次の曲では他の方とも踊ってくださるかもしれないわ」
好き勝手な憶測が囁かれる中、すっかり怖気づいてしまっているナディアの手を、ハロルドは半ば強引に掴んだ。
そしてズンズンとホールの中心へと歩いて行った。
チラリと振り返ると、レナードが笑いながら、ひらひらと手を振っているのが見えた。
「私……ダンスは苦手で……」
一応ナディアは抗議の声を上げたが、当然聞き入れられるはずもない。
ハロルドは足を止めて振り返ると、にっこり微笑んで囁いた。
「黙ってろ」
笑っているはずなのに、全く笑っていない目を向けられて、ナディアは慌てて口を閉ざした。
周りでは
「いいなあ、私もハロルド様と踊りたいわ」
「でも、あんなに近くで見つめられたら、倒れてしまうかも!」
「ああ……ナディア様が羨ましい」
なんて声が飛び交っているというのに、当のナディアはハロルドに見つめられても、ちっとも嬉しくなかった。
なにしろ彼は笑顔を浮かべているものの、ナディアには、睨まれているようにしか思えなかったのである。
どうして周りの人は、この笑顔が偽物だと気づかないのだろうと、不思議で仕方なかった。
ハロルドに導かれるようにして、ゆっくりと足を動かし始めると、娘たちの熱っぽいため息が漏れた。
その上ハロルドが、彼女たちの前を通り過ぎる際に微笑んで見せるものだから、あちらこちらで悲鳴が上がるのだった。
「……調子いいんだから」
つい呟くと、すぐさまハロルドの冷たい視線が飛んできた。
「余計なことを言ってないで、足元に集中しろ。
動きが固すぎて、いつ足を踏まれるかと冷や冷やする」
「そんなこと言われても……。
ダンスは苦手だって言ったじゃないですか」
そうナディアは訴えたが、ハロルドはそっぽを向いただけだった。
またしても笑顔を振りまいたのだろう。
歓声に顔を上げて、彼の視線の先を辿ってみれば、シャルロッテが顔を真っ赤にして飛び跳ねているのが見えた。
ナディアは小さく息を吐き出した。
「そんなに文句を言うのなら、他の方を誘えばいいじゃないですか。
どうせシャルロッテ様みたいな美人がお好きなんでしょう?」
するとハロルドはあっさりと
「まあ確かに彼女は、あんたより美人だな」
と言ってのけたのである。
自分で言い出した事とは言え、これには多少ムッとしないでもなかったが、そんなことを言うわけにもいかない。
そこでナディアは潔く頷いた。
「そうでしょうとも。
だったら、さっさと誘ってくればいいでしょう」
すると、思いがけずハロルドが
「ああ、そうするか」
なんて言うものだから、驚いてしまった。
女性に囲まれるのは嫌だとかなんとか言っていたはずなのに、どういう風の吹き回しなのか。
しかも、丁度音楽が終わると同時に、本当にナディアを置いてきぼりにして、シャルロッテの方へと歩いて行ってしまったのである。
「シャルロッテ嬢。次のダンスは、私と踊っていただけますか?」
ハロルドに言われて、彼女が断るわけもない。
甲高い悲鳴を上げながらも、ハロルドの手に飛びつくと、必要以上に身を寄せ合いながらホールの中心へと移動していく。
二人の背中を、ナディアは茫然として見送ったのだった。
どうやらダンスが始まるらしい。
自然と、手を取り合った男女がホールの中心へと集まってくるのを、ナディアは他人事のように眺めていたのだけれど。
「行くぞ」
と隣で囁かれて、仰天してしまった。
いつもダンスなど踊らないハロルドが、手を差し出してきているのだ。
途端に、その様子を見ていたらしい娘たちが、歓声を上げた。
「ハロルド様がダンスをなさるわ!」
「まあ珍しい!
お相手はナディア様ね、やっぱり」
「でももしかしたら、次の曲では他の方とも踊ってくださるかもしれないわ」
好き勝手な憶測が囁かれる中、すっかり怖気づいてしまっているナディアの手を、ハロルドは半ば強引に掴んだ。
そしてズンズンとホールの中心へと歩いて行った。
チラリと振り返ると、レナードが笑いながら、ひらひらと手を振っているのが見えた。
「私……ダンスは苦手で……」
一応ナディアは抗議の声を上げたが、当然聞き入れられるはずもない。
ハロルドは足を止めて振り返ると、にっこり微笑んで囁いた。
「黙ってろ」
笑っているはずなのに、全く笑っていない目を向けられて、ナディアは慌てて口を閉ざした。
周りでは
「いいなあ、私もハロルド様と踊りたいわ」
「でも、あんなに近くで見つめられたら、倒れてしまうかも!」
「ああ……ナディア様が羨ましい」
なんて声が飛び交っているというのに、当のナディアはハロルドに見つめられても、ちっとも嬉しくなかった。
なにしろ彼は笑顔を浮かべているものの、ナディアには、睨まれているようにしか思えなかったのである。
どうして周りの人は、この笑顔が偽物だと気づかないのだろうと、不思議で仕方なかった。
ハロルドに導かれるようにして、ゆっくりと足を動かし始めると、娘たちの熱っぽいため息が漏れた。
その上ハロルドが、彼女たちの前を通り過ぎる際に微笑んで見せるものだから、あちらこちらで悲鳴が上がるのだった。
「……調子いいんだから」
つい呟くと、すぐさまハロルドの冷たい視線が飛んできた。
「余計なことを言ってないで、足元に集中しろ。
動きが固すぎて、いつ足を踏まれるかと冷や冷やする」
「そんなこと言われても……。
ダンスは苦手だって言ったじゃないですか」
そうナディアは訴えたが、ハロルドはそっぽを向いただけだった。
またしても笑顔を振りまいたのだろう。
歓声に顔を上げて、彼の視線の先を辿ってみれば、シャルロッテが顔を真っ赤にして飛び跳ねているのが見えた。
ナディアは小さく息を吐き出した。
「そんなに文句を言うのなら、他の方を誘えばいいじゃないですか。
どうせシャルロッテ様みたいな美人がお好きなんでしょう?」
するとハロルドはあっさりと
「まあ確かに彼女は、あんたより美人だな」
と言ってのけたのである。
自分で言い出した事とは言え、これには多少ムッとしないでもなかったが、そんなことを言うわけにもいかない。
そこでナディアは潔く頷いた。
「そうでしょうとも。
だったら、さっさと誘ってくればいいでしょう」
すると、思いがけずハロルドが
「ああ、そうするか」
なんて言うものだから、驚いてしまった。
女性に囲まれるのは嫌だとかなんとか言っていたはずなのに、どういう風の吹き回しなのか。
しかも、丁度音楽が終わると同時に、本当にナディアを置いてきぼりにして、シャルロッテの方へと歩いて行ってしまったのである。
「シャルロッテ嬢。次のダンスは、私と踊っていただけますか?」
ハロルドに言われて、彼女が断るわけもない。
甲高い悲鳴を上げながらも、ハロルドの手に飛びつくと、必要以上に身を寄せ合いながらホールの中心へと移動していく。
二人の背中を、ナディアは茫然として見送ったのだった。
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