ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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そんなことがあったものの、翌日からは、結局元通りだった。
ハロルドはやはりナディアの元に顔を出そうとはしなかったし、送られてくる手紙も今までと同じ、形式ばった謝罪の内容ばかり。

もしや彼と話したことは夢だったのではないか、と言う気さえした。
それでも、やはり鮮明に残る、彼とのやり取りの記憶が、全て現実だったのだと思い出させてくる。

その度にナディアは、重々しく溜め息をつくのを繰り返すのだった。

1日、また1日と、舞踏会に近づくにつれて、行きたくない気持ちが膨らんでいく。

「ああ、行きたくない……。
ハロルド様となんて舞踏会に行けば、注目を浴びるに決まってるもの。
そんなの、ごめんだわ……なんとかならないかしら」

ぶつぶつ言ってみても、妙案が浮かぶわけでもない。
結局、対策を練る事のできぬまま、約束の舞踏会の日を迎えてしまったのだった。

こうなれば仕方がない。
渋々支度を整えてはいたが、ここまで来ても未だに、どうにかして欠席に出来ないかと頭を悩ませていた。

そして、不意に手を止めた。

「そうよ」

ナディアは呟いた。

頭痛がひどいから欠席すると、ハロルドに手紙を書こうと思いついたのである。
今まで彼が、なんだかんだと言い訳を重ねて会いにこなかったのを、そっくりそのまま返してやれば良いのだ。

先にそういうことをしてきたのは彼の方。
だったら、こちらも同じ事をしたからと言って、まさか怒るわけにもいくまい。

我ながら良い考えを思いついた。
そう思って、持っていた香水瓶を置くと、代わりにペンを取ろうと、手を伸ばしたのだったが

「お嬢様」

突然飛び込んできた声とノックの音に、驚いて振り返った。

「どうぞ」

入ってきたメイドが、いつになく頬を上気させていることに、ナディアはすぐに気がついた。
その上、彼女は目まで輝かせている。

その異様な様子を見ていると、なにやら嫌な予感がしてきたほどだった。
そして、そういう時に限って、予感とは当たるものだ。

口を半開きにしたまま固まっているナディアに、メイドが興奮した口調で言ったのである。

「ハロルド様がお迎えにいらっしゃいました!」
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