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ナディアは目を見開いたまま、瞬きすることも出来ずにハロルドを見つめていた。
ずっと会いに来なかったというのに、よりにもよって、どうして今この場に現れたのだろう。
しかし、始めこそショックが大きくて固まっていたものの、徐々に怒りが湧いてきたせいで、緊張がほぐれてきた。
それでも、真正面から彼に向き合うのは、躊躇われたけれど。
今さら、もう引き下がることはできないし、引き下がりたくはなかった。
ナディアは大きく息を吸ってから、早口に言った。
「ハロルド様。申し訳ないのですが、私にはあなたの結婚相手は務まらないと思うのです。
お話を頂いた時には、つい浮かれて、深く考えずにお受けしてしまったのですが……。
王子妃としての教育も不十分ですし、そもそも、人前に出るのが苦手な私には向いていなかったのです」
深々と頭を下げ、彼の言葉を待った。
するとすぐに、ハロルドの声が聞こえた。
「勉強はこれから、のんびりすれば良いですよ。
あまりに厳しくされているなら、無理をさせぬよう、私の方から話をしておきましょう。
それに、向いているかどうかを決めるのは、まだ早すぎるのではないですか?」
「いいえ」
ナディアはすかさず言葉を挟んだ。
「判断が早すぎるらということはないと思います。
私ばかりではなく、他の方々も、私ではハロルド様に不釣り合いだとお考えのようですし」
そう言って、顔を上げて周りを見回すと、ニヤニヤ笑いを浮かべているシャルロッテと目が合った。
彼女は手にしている扇を音を立てて広げると、ひらひらと振りながら、こちらへ歩いていた。
「まあまあ、ハロルド様。
ナディア様がご自分で決められたことですから。
あまり引き止めてしまっては、かえってお困りになるのではないですか?」
そしてすかさずハロルドの隣へ滑り込むと、扇の陰から囁いた。
「お相手は、改めてお選びになれば宜しいではないですか。
他にも立候補したい女性は山ほどいましてよ。
もちろん、この私も……」
色気たっぷりに流し目を送るのを、ナディアは、うんざりした思いで眺めていた。
そんなに自信があるのならば、シャルロッテが婚約者になってしまえばいいと、本気で思った。
自分以外の者が選ばれるのならば、こんなに嬉しいことはない。
とにかく一刻も早く、この重責から逃れたい思いでいっぱいだったのである。
ハロルドはしばらく黙ったまま、シャルロッテを見つめていた。
この数秒の間に、期待を膨らませたのだろう。
シャルロッテの耳がらみるみる赤みを帯びていく。
けれども、ようやく口を開いたハロルドの口から出た言葉は、この場の誰もが期待しなかったものだった。
「ああ、ナディア様……どうか考え直しては頂けませんか。
あなた以外の女性を婚約者に選び直すなど、とても考えられません」
と、彼はナディアに向き直ると、まるで子犬のように瞳を震わせたのだ。
これには、その場にいた女性達が皆、思わず熱っぽい息をはいた。
ナディアでさえも、悔しくも目が離せなくなってしまったほど、寂しそうな、けれども誰をも魅了する表情だった。
ずっと会いに来なかったというのに、よりにもよって、どうして今この場に現れたのだろう。
しかし、始めこそショックが大きくて固まっていたものの、徐々に怒りが湧いてきたせいで、緊張がほぐれてきた。
それでも、真正面から彼に向き合うのは、躊躇われたけれど。
今さら、もう引き下がることはできないし、引き下がりたくはなかった。
ナディアは大きく息を吸ってから、早口に言った。
「ハロルド様。申し訳ないのですが、私にはあなたの結婚相手は務まらないと思うのです。
お話を頂いた時には、つい浮かれて、深く考えずにお受けしてしまったのですが……。
王子妃としての教育も不十分ですし、そもそも、人前に出るのが苦手な私には向いていなかったのです」
深々と頭を下げ、彼の言葉を待った。
するとすぐに、ハロルドの声が聞こえた。
「勉強はこれから、のんびりすれば良いですよ。
あまりに厳しくされているなら、無理をさせぬよう、私の方から話をしておきましょう。
それに、向いているかどうかを決めるのは、まだ早すぎるのではないですか?」
「いいえ」
ナディアはすかさず言葉を挟んだ。
「判断が早すぎるらということはないと思います。
私ばかりではなく、他の方々も、私ではハロルド様に不釣り合いだとお考えのようですし」
そう言って、顔を上げて周りを見回すと、ニヤニヤ笑いを浮かべているシャルロッテと目が合った。
彼女は手にしている扇を音を立てて広げると、ひらひらと振りながら、こちらへ歩いていた。
「まあまあ、ハロルド様。
ナディア様がご自分で決められたことですから。
あまり引き止めてしまっては、かえってお困りになるのではないですか?」
そしてすかさずハロルドの隣へ滑り込むと、扇の陰から囁いた。
「お相手は、改めてお選びになれば宜しいではないですか。
他にも立候補したい女性は山ほどいましてよ。
もちろん、この私も……」
色気たっぷりに流し目を送るのを、ナディアは、うんざりした思いで眺めていた。
そんなに自信があるのならば、シャルロッテが婚約者になってしまえばいいと、本気で思った。
自分以外の者が選ばれるのならば、こんなに嬉しいことはない。
とにかく一刻も早く、この重責から逃れたい思いでいっぱいだったのである。
ハロルドはしばらく黙ったまま、シャルロッテを見つめていた。
この数秒の間に、期待を膨らませたのだろう。
シャルロッテの耳がらみるみる赤みを帯びていく。
けれども、ようやく口を開いたハロルドの口から出た言葉は、この場の誰もが期待しなかったものだった。
「ああ、ナディア様……どうか考え直しては頂けませんか。
あなた以外の女性を婚約者に選び直すなど、とても考えられません」
と、彼はナディアに向き直ると、まるで子犬のように瞳を震わせたのだ。
これには、その場にいた女性達が皆、思わず熱っぽい息をはいた。
ナディアでさえも、悔しくも目が離せなくなってしまったほど、寂しそうな、けれども誰をも魅了する表情だった。
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