ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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この日の王宮は、純白のドレスに身を包んだ娘達で溢れていた。
長いベールも、頭につけた羽根飾りも、肘まで覆う手袋も、全て白で統一した彼女達は、頬を上気させて、物珍しそうに互いをチラチラ見合っている。

皆が緊張のあまり肩を震わせていた。
彼女達にとって、今日は人生初の大舞台。
社交界デビューの日なのだから。

その中には、ナディア・ペンドリー伯爵令嬢の姿もあった。
栗色の髪を結い上げ、お決まりの羽根飾りをつけている。
黒い瞳は、不安げに揺れていた。
大きな瞳はせっかく魅力的だというのに、うつむきっぱなしでいるせいで、前髪の下にすっかり隠れてしまっている。

隣に立つのは彼女の母、マリア・ペンドリー男爵夫人だ。
彼女はひたすら娘に

「大丈夫よ、落ち着いて。深く息を吸えば、少しは緊張もほぐれるわ」

と囁いて平静を装っているものの、スカートにかけられた手は、娘以上に震えてしまっている。

こうしている間にも、次々に名前が読み上げられ、娘達が一人、また一人と、母親と共に隣の部屋へと消えていく。

そしてとうとう、ナディアの名前が呼ばれた。

「さあ、行くわよ。落ち着いてね」

母親と並んで、隣の部屋に入る。
すると、正面にずらりと並んだ椅子に腰掛けた人々が、一斉にこちらを見たものだから、ナディアはゴクリと喉を鳴らした。

スカートをつまみながら、ゆっくりと前へと進む。

まるで値踏みするような目つきでこちらを、みているのは、国王一家である。
その中心に座る国王の前まで来ると、ナディアは慎重に腰を屈めた。
それから立ち上がり、ぎこちないながらも笑顔を浮かべる。

ここまでくれば、あとは、なんとか転ばぬように気をつけながら、部屋を後にするだけだ。
そうすれば、次の娘の番になる。

ナディアは緊張のあまり息まで止めてしまいながらも、後ろに下がったのだったが。
思いがけずガタリと音がしたものだから、驚いて音のした方へと顔を向けた。

目をやった先では、一番端に座っていた青年が、立ち上がっていた。
ナタリー王国の第6王子、ハロルドであることは、すぐに分かった。

兄弟の中で唯一独身の彼は、その美貌も相まって、どこへ行っても注目の的。
女性達が、こぞって取り囲んでいるのを、ナディアも何度も目にしていたのだから。

まさか彼女は、その輪の中に入って、妃の座を射止めようなどとは考えられなかったけれど。
そういったことは、自分の器量に自信がある人しかしないものだ、と分かっていたのである。

そんなハロルドが、まっすぐこちらに歩いてくるものだから、いったい何事かと、ナディアは固まったまま震えてしまった。

彼はナディアの目の前まで来ると、いきなり膝を床について、手を差し出してきた。
そして、誰もを魅了する笑みを浮かべて、言ったのである。

「ナディア嬢とおっしゃいましたね。
是非、私と結婚して頂きたい」

と。
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