上 下
16 / 50

16 30秒で支度しな!

しおりを挟む
「良くぞ参られた、勇者殿。」


 ビビアン達がライブハット城の謁見の間に入ると、そうそうに王が挨拶をしてきた。

 玉座に座るのはアリエヘンの王と違い、まだ20代前半といった若い王様。

 顔立ちも整っており、服装もエレガントな為、とてもスマートに見える。

 つまりは、アリエヘン王と比べる事自体が、アリエヘン。


 ふ~ん。良さそうな王ね。


と、一瞬思ったビビアンであったが、王の隣にいる紫色の髪をした二人の美女を見て、直ぐに不快な表情に変わった。

 若い女を二人も侍らせてる姿は、到底ビビアンに許容できるものではない。


 何よ、あの女の恰好。
 ほぼ下着じゃない!
 若い王ってのもダメね。
 こんな奴の話、聞くまでもないわ。


 ビビアンは謁見早々、王に落胆していた。


 すると二人の女性の内、踊り子のようなエロい格好した美女がビビアンにウィンクをする。


 目線があったビビアンは思わず目を伏せた。


 何故目を伏せてしまったのか、自分でも上手く説明ができない。

 ただわかるのは、自分がその女性と比べて、女性らしさという意味で劣等感を抱いてしまったという事。


……にも関わらず、なぜか向けられたその顔は、不思議と嫌ではなかった。


 そしてビビアンが黙っていると、代わりにシャナクが王に挨拶を返す。


「これはこれは、ベンリー王子……いや、今は王でしたか。大層ご立派になられましたな。」


 どうやらシャナクは、この王と知り合いらしい。


「おぉ。久しいなシャナク。お前に燃やされたケツは未だに火傷の痕が残っているぞ。それでそこにいるのは勇者殿で間違いないな?」


 王は懐かしそうな笑みを浮かべて、シャナクに話しかける。

 その言葉からも、二人の仲は悪くはないらしい。

 シャナクもまた、弟子に久しぶりにあったかのように話を続けた。


「ほほぉ、そうですか。あの頃の王子はヤンチャでしたからな。今度魔法で治してあげましょうぞ。と、その前にご紹介を。こちらにあらせられるのは勇者ビビアン様でございます。」


 シャナクの言葉に、王は頷く。


「やはりそうであったか。この度は長い旅路ご苦労で……。」

 
 しかし、ベンリー王が言葉を続けようとした瞬間、ビビアンがそれを遮った。


「くだらない話は終わったかしら? 私が聞きたいのはサクセスの情報だけよ。無いならもう帰るわ。無駄話をしている時間はないの。」


 ビビアンは、何故か王の隣にいる女性は気になったが、既に帰る気満々である。


「これは申し訳ない。はて? サクセスとは誰のことだったかな?」


 ベンリーはアゴに指を当てて考え出した。

 その姿を見て、ビビアンは深いため息を洩らす。

 
「もういいわ。帰るわよシャナク!!」


 ビビアンはもうここに用はないと言った風に踵を返した。

 しかしその時、ベンリーの隣にいる一人の女性がビビアンを止める。

 その女性は、ウィンクをしてきた派手な女の方ではなく、修道服のようなものを着たもう一人の方だった。


「お待ちください勇者様。サクセスさんの事なら知っています。あなたが欲しい情報は全て持っています。まだ帰るのは早計かと。」


 ビビアンは、その「サクセスさん」という言葉に、足を止めた。

 それは、まるで本当にサクセスを知っているかのような物言い。


 だが直ぐには信じない。
 咄嗟に嘘をついていたのかもしれないから。


「嘘だったら承知しないわよ? 適当な事言って騙すようだったら……この国を壊すわ!」


 ビビアンの全身から邪悪なオーラが湧き上がる。


 それを見て「あわわわ……」と震えるシャナク。


 しかしその女は、ビビアンを全く恐れる事なく話を続けた。


「それはお怖いですね。でも嘘ではありません。ご紹介が遅れましたが、私はマネアと申します。そして、勇者様が探していた占い師です。」


 !?


 ビビアンは、自分が占い師を探しているのを知っている事に驚いた。


「な、なんでアンタがそれを……?」

「それは当然です。占い師ですから。そして私は、ここであなたに会うためにこの国に来ました。」


 マネアは、ジッとビビアンの事を見つめてそう答えると、しばらく二人はそのまま見つめ合う。


 ビビアンは相手の目から、真実を見極めようとした。


 嘘をついているなら、目を逸らすはず。


 そう思って、キツい目で睨むように見ていたのだが、マネアが目を逸らす事はなかった。


 嘘は言っていないようね。


 そこでビビアンは初めて今の言葉を信じる。


「わかったわ。じゃあさっさとサクセスの場所を教えなさい。」


 信じたからこそ、ビビアンは率直に聞いた。

 今聞きたいのは、マネアが何者であるかではない。

 サクセスの事だけだ。
 
 
 そしてマネアは、ビビアンが最も欲していた情報を話し始める。


「サクセスさんは、現在ここより南方にあるヒルダームという国にいます。」


 それを聞いた瞬間、ビビアンの顔が一瞬でパァッと明るくなった。


 遂に判明したサクセスの居場所。

 ビビアンにとって、これ程嬉しい情報はない。

 そんなビビアンを前に、更にマネアは続ける。


「そしてそこで邪悪なる者との闘いを終え、今頃はマーダ神殿に向かって出発している頃でしょう。ヒルダームからマーダ神殿までは馬車で十数日。今から向かえば、丁度マーダ神殿で会えるのではないでしょうか。」

 
 ビビアンは、あまりの喜びに発狂しそうになった。

 だが逆に、嬉しすぎてフリーズしてしまう。


 とはいえ、その顔は満面の笑み。


 一方、それを隣で聞いていたシャナクもまた、かなりホっとしていた。


 やっとか……。
 やっと私はこの恐怖から解放されるのか……。


 シャナクは心から安堵する。


「ありがとう! わかったわ、じゃあ早速マーダ神殿に向かうことにするわ。」


 ビビアンはその喜びを抑えながらもお礼を言うと、早速マーダ神殿に向かおうと踵を返す。

 その様子は、今にもスキップをしてしまいそうな程、軽やかなものだった。

 しかし、そんなビビアンを再度マネアは引き止める。

 話はまだ終わりではなかったのだ。


「お待ちください。その前に大事な事をお話しなければなりません。」


 これにシャナクは焦る。

 折角、ビビアンが上機嫌になったのに、その足取りを止めるという最悪な状況。

 これは、普段なら間違いなく鉄拳制裁案件だ。

 だがしかし、シャナクの不安は現実とはならない。

 何故なら、ビビアンは今、過去類を見ないほどに上機嫌であったからだ。

 それに一番欲しい情報をくれた相手の話だ、ビビアンとしても話を聞く価値がある。


 故に、ビビアンは立ち止まった。


「いいわよ、聞くわ。話しなさい。」


 ビビアンは振り返ると、そう口にする。
 
 それを聞いたマネアは、重々しく話し始めた。
 
 
「現在マーダ神殿は、魔王軍に襲われている状況です。今はまだ持ち堪えていますが、長くは持たないでしょう。」


「それは本当なの!? サクセスが危ないじゃない!」


 その話を聞いて焦るビビアン。

 さっきマネアから、サクセスがマーダ神殿に向かっていると聞いた。

 その話が本当なら、サクセスもそれに巻き込まれる可能性がある。


 そんな不安に襲われるビビアンに対して、マネアは更に最悪な事を口にした。


「事実です。そして今、新たに二人の魔王がそこに向かおうとしております。もしもその魔王達が到着したら、マーダ神殿は直ぐに陥落するでしょう。その為、時間がありません。どうかお力をお貸しください。」


 その願いは、切実な思いが込められている。

 そしてそれを聞いたビビアンは……


「当然よ! 行くわよ、今すぐに! こうしてはいられないわ!」


 サクセスが危ないと知り、居ても立っても居られなくなるビビアン。


 さっきまでの上機嫌と打って変わって、その表情は焦りの色、一色となる。


 しかしその時、ふとある事が気になった。
 
 それは、サクセスがこの事を知っているかどうかという事。

 もしも知っているならば、マーダ神殿には向かわないかもしれない。

 そうであれば、マネアには悪いが向かうべきはヒルダームだ。


「……ねぇ。ところで、サクセスはその事を知っているの?」


 ビビアンは率直にそう尋ねた。
 
 だが予想と異なり、マネアは初めて曖昧な答えをする。


「魔王が来ることまではわかりませんが、マーダ神殿がモンスターに襲われていることは知っている可能性があります。」

「可能性? どう言う事?」

「申し訳ございません。占いは全てがわかる訳ではないのです。ただ、これだけは言えます。サクセスさんは必ずマーダ神殿に向かいます。」


 それを聞いて、ビビアンは少し悩んだ。
 
 しかし、嘘を言っているようにも見えない。

 ならば信じるしかない。


「アタシ行くわ! マーダ神殿に!」


 ビビアンはそう決断すると、そこに今度はベンリー王が話に入ってきた。


「援軍感謝する! それでは、余がマーダ神殿に行くために最速の馬車を用意しよう。その代わり、ここにいるマネアとミーニャも連れて行ってほしい。」


 王は、二人の女性を指して言った。

 どうやら、もう一人のセクシーな女性はミーニャというらしい。

 ビビアンにとって、そんな事はどうでも良かったが、何故連れていかなければならないのか疑問だ。

 とはいえ、今更二人増えたところで問題はないから、断るつもりもない。

 それを条件に、足の速い馬車をもらえるならお釣りが来る。

 だがしかし、一応確認だけはしておく。

 二人がどの程度戦えるのかを。

 実際戦ってもらうつもりはないが、せめて何かあった時に逃げられるくらいでなければ困るからだ。


「一応聞くけど、二人は戦えるの?」


 その質問に、ベンリー王は自信満々に答える。


「もちろん。マネアは占い師でもあるが、高位の回復魔法が使える僧侶であり、ミーニャはこんな格好をしているが、スーパースターという上位職である。二人共戦力として申し分はないであろう。」


 それを聞いてビビアンは疑問の表情を浮かべた。

 僧侶は知っているが、スーパースターが何かわからない。

 とはいえ、一国の王がそれだけ自信をもって言うなら、一応信頼してもいいだろう。


「スーパースター? 何よそれ。まぁいいわ。来たいなら勝手についてきなさい。それよりアンタ、早くその馬車を用意しなさいよ。」


 王を相手に、アンタ呼ばわりのビビアン。

 ここにきて、焦りが最高潮になったビビアンは、いつもの調子に戻っていた。
 
 これには流石のベンリー王も苦笑いするしかない。

 しかしこの時はまだ気づかなかった。

 その苦笑いの表情が、青褪める事になるとは……。


「シャナク! 何ぼけっとしてんのよ! アンタも行くのよ!」

「は、はい! 仰せの前に!」
  

 ビビアンの焦りからくる怒りは、黙って聞いていただけのシャナクになぜか飛び火する。

 再び訪れるシャナクの不幸……。

 だがしかし、そんな事を感じている暇はシャナクにはない。
 

 早くしないと、殺される!


 すぐさま走ってビビアンの下に向かうシャナク。


 そんなシャナクの姿を見て、ベンリー王は驚いた。

 ベンリー王にとって、シャナクは自分の知る限り最強の賢者。

 そのシャナクが、あそこまで怯えている事に目を疑う。


 だが、ベンリー王はふと目線をビビアンに移すと……


 そこには、禍々しいオーラを放つ般若が立っていた。


 あれ? 
 ここにいたのって魔王だっけ?


 その疑問は、次の瞬間確信に変わる。


「馬車はどこよ! 早く用意しないとぶっ殺すわよ!」


 その殺気は、ベンリー王の肝を凍らせた。


 こ、怖すぎる……。


 恐怖に震えるベンリー王。


 そして……


 今度はシャナクが叫ぶ。


「ベンリー王よ! 頼む! 30秒で支度してくれ! まだ死ぬ訳にはいかぬのだ!」


 その必死な叫びに、ベンリー王はなんとか恐怖から立ち上がるも、余りに厳しい要求に弱音を洩らす。


「さ、流石に30秒では……。」


 その言葉を聞き取ったビビアンは怒り狂った。


「泣き言いってんじゃないわよ!」

「ひぃぃい! た、ただいますぐに!」


 顔を真っ青にさせたベンリー王は、そんな情けない声を上げると、真っ先に扉へ向かって駆け出した。


 誰よりも早く部屋を出るベンリー王。

 その姿は、とても一国を背負う王の姿ではなかった。


 こうしてベンリー王の努力?により、ビビアンは城を出て直ぐに高速馬車を手に入れる。

 そして、マネアとミーニャという新たな仲間と共に、マーダ神殿に向かうのであった。



 新パーティ
 マネア   僧侶      レベル38
 ミーニャ  スーパースター レベル29
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

エロゲーの悪役に転生した俺、なぜか正ヒロインに溺愛されてしまった件。そのヒロインがヤンデレストーカー化したんだが⁉

菊池 快晴
ファンタジー
入学式当日、学園の表札を見た瞬間、前世の記憶を取り戻した藤堂充《とうどうみつる》。 自分が好きだったゲームの中に転生していたことに気づくが、それも自身は超がつくほどの悪役だった。 さらに主人公とヒロインが初めて出会うイベントも無自覚に壊してしまう。 その後、破滅を回避しようと奮闘するが、その結果、ヒロインから溺愛されてしまうことに。 更にはモブ、先生、妹、校長先生!? ヤンデレ正ヒロインストーカー、不良ヤンキーギャル、限界女子オタク、個性あるキャラクターが登場。 これは悪役としてゲーム世界に転生した俺が、前世の知識と経験を生かして破滅の運命を回避し、幸せな青春を送る為に奮闘する物語である。

処理中です...