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10 一触即発ガール

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 ビビアン達は冒険者ギルドに入ると、まずは受付の女性に魔石の換金を依頼した。

 すると案の定、受付嬢から「時間が相当かかります。」と言われた事から、シャナクはすかさず、


「時間が掛かるようならば、結構。それは持ち帰って時間のある時に換金する。」


と伝える。


 しかし、受付嬢は目の前の魔石を前に、流石に自分では判断できないと思ったのか、焦った様子で


「す、少しだけお待ち下さい! 直ぐにギルドマスターに伝えて来ます!」


 とだけ言い残して、急いでギルドマスターを呼びに行ってしまった。


 この一連の行動に、ビビアンは珍しく「うんうん」
と首を縦に振って納得している。


 シャナクはその様子を見て、ホッと一息つくと、
直ぐに受付嬢が戻って来た。


「お待たせしました! ギルドマスターがお会いしたいそうですので、此方へ来て下さい。」


 受付嬢はそれだけ言うと、ビビアン達をギルドマスターのいる応接室に案内する。

 ビビアン達が応接室に入ると、部屋の中にいた小太りの中年男性は、片膝をついて挨拶をした。


「これはこれは、勇者様。お会いできて光栄でございます。私は、当ギルドの責任者のサンチュと申します。ささ、立ち話もなんです。此方のソファにお掛けください。」


 サンチュは、ビビアン達に豪華なソファに座るように勧めるも、ビビアンは直ぐには座らなかった。


 それを見ただけで、シャナクは察する。

 そんなゆっくりとしている暇はない……と。

 だが、話さねば始まらないため、ここは殴られる覚悟で進言した。


「ビビアン様、聞くことも多いですから、まずは座わりましょう。」


 シャナクがそう言った瞬間、


「そんな時間ないわよ!」


とキレてしまうかもと、シャナクは心配したが、予想に反して、ビビアンは怖い顔をしながらも座り始める。


 ほっ……


 とりあえず安堵するシャナク。


 だがそれも束の間、直ぐに最悪の事態が起こった。


「それでは、早速あの魔石の事について詳しくお伺いしてもよろしいですか?」


 ギルドマスターは、ビビアンが座るなり質問をしてしまったのだ。

 当然サンチュは、ビビアンの事をわかっていない。

 正確にいうと、今のビビアンの心境にだが。

故に

 ーーそれは当然の事のように起こる。


 ビビアンから漏れ出る闇の波動。

 光の勇者であるはずなのに、出ているのは魔王オーラそのものだ。


 焦るシャナク!


「ま、ままま、お待ちください勇者様! 貴様! 勇者様より先に質問するとは何事か! 死にたいのか!」


 ビビアンがキレる前に、シャナクはサンチュを怒鳴りつけた。


 先手必勝である。


 サンチュも、その言葉に自分の過ちに気付き、謝罪する。


「これは大変申し訳ございませんでした。ささ、まずはゆっくりとお茶でもお飲みください。」


 馬鹿か! 違う!
 そうじゃない!
 やめてくれ!


 シャナクはせっかくビビアンのオーラが収まり始めたのに、サンチュの言動に再び頭を抱える。


 別に、サンチュは間違ってはいない。
 間違ってはいないのだ。

 だが、ここでは違う。
 ビビアンは急いでいる。
 こんなところでゆっくり話などできるはずもないのだ。


「お茶は結構です。率直に言いましょう。我々には時間がありません。速やかに質問に答えて頂きたい。」


 シャナクは厳しめの口調で伝える。

 本来こんな対応は絶対しないシャナクであったが、今だけは仕方なかった。

 とはいえ、勇者でもない一見して従者と思われる者から、こんな風に言われてはサンチュも黙ってはいない。


 彼には彼の尊厳があったのだ。


「お言葉ですが、なぜさっきから勇者でもないあなたが話をしているのですか? 私は勇者様にお話しをしているので、従者は少し黙っていただけませんか?」


 サンチュから発せられる失礼な物言い。

 すると突然、部屋に机を叩く音が響き渡った。


「さっきから黙って聞いてれば下らない事ばかり! 時間がないって言ってるでしょ! あんたそんなに死にたいの? 別にアンタから話を聞かなくてもいいわ。 いいわよね? コイツうるさいから殺すわ。」


 遂に魔王(勇者)が動き出した。

 こうなると、シャナクも簡単には止められない。


 ビビアンは机を叩き割って立ち上がると、迷いなく剣を鞘から抜き出した。


 だからいったのに!!
 もう私は知らんぞ!

 というわけにはいかないか……。
 勇者がギルドマスターを殺したとなっては、色々まずい。

 禿げそうになりながら、悩むシャナクであったが、
ふと、視線をサンチュに移した。

 すると、ビビアンの殺気をまともに浴びているサンチュは既に土下座の体勢に入っている。

 さすがはギルドマスター。

 きっと彼は、この能力でその地位まで上り詰めたのだろう。

 シャナクは、サンチュの超高速土下座に少し感心した。


「たいっへんご無礼いたしました! ささ、なんなりと、このサンチュめにご質問下さい。直ぐにお答えします」
 

 それは凄い変わり身の早さだった。

 その高速土下座を見て、ビビアンは剣を収める。


「ふん! じゃあまずは、サクセスって名前の冒険者を知っているか答えなさい。」

「はは! すいません、存じ上げません。」


 ヤバイ!
 そこは速度じゃなくて、質だ!


 シャナクはサンチュの過ちに気づき、即座にサポートに入る。


「ちゃんと考えて答えなさい! 大至急、他の者に調査させるのだ。」


 シャナクが対応策を速やかに伝える。

 するとサンチュは、今度はシャナクにいちゃもんを付ける事なく、その指示に従った。


「はは! 君! すぐにサクセスという冒険者について確認して参れ! 速やかにだ!」

 
 シャナクのサポートもあり、ビビアンの怒りゲージは上がらないで済む。


 シャナクにとって、正に紙一重の戦いだった。


「まぁいいわ。で、次に聞くけど、この町にいる占い師について何か知ってる?」


 ビビアンは、淡々と質問を続ける。

 そして、どうやらこれには心当たりがあるらしい。


「はい、それでしたらマネアの事ですな。彼女なら、半年程前に勇者様を探しに出ると言って、マーダ神殿のある大陸に渡っております。」

「私を? なぜ? それならこの大陸にいればいいのに。」

「詳しい理由までは存じ上げませんが、以前お話した時に、勇者様と会うには必要な時期と場所があるとか言っておりましたので、その関係ではないかと。」

「ふ~ん、まぁいいわ。いずれにせよ、この町にいないならここにいる意味は無いわね。シャナク! サクセスの情報が無かったら、直ぐに出発するわよ。」


 思いのほか会話は順調に進んでいた。



※ シャナクAは ようすを みている


「ま、待ってください! 勇者様がお持ちした魔石は、とても貴重な魔石であるが故、換金にしばらく時間が掛かります。もう二、三日滞在をしてはいただけませんか?」

「なぁにぃ?」

「ヒィィイイ!!」
 

 まさかの、ここにきてサンチュは地雷を踏んだ。

 再度、ビビアンの顔が般若に変わる。

 当然サンチュは、悲鳴をあげながらも、すかさず特技【DOGEZA】を放った。

 そしてシャナクは、なぜかサンチュが自分と同じ辛さを味わっているのを見て、不思議と愉快な気持ちになっていた。


※ シャナクAは ぶきみに ほほえんでいる。


「ちょっと! アンタなに笑ってるのよ! 何がおかしいのよ!」


※ ビビアンは こちらが みがまえるまえに 
 おそいかかってきた!


 油断したぁぁぁ!!


※ シャナクAは おどろき すくみあがっている!


  ビビアンの こうげき(張り手)
  シャナクAに 50ポイントのダメージ!!

  ビビアンは シャナクAを たおした。


 そして、壁にめり込んでいるシャナクを見て、サンチュは震えあがった。

 
「あわわわわわ……。」

「で? 二、三日がなんだって?」


 ビビアンは再度、サンチュに問う。


「いえ、なんでもありません。今すぐに船の準備を致しますので、一日……いえ、数時間だけ待っていただければと。」


 流石のサンチュも、貴重な魔石と自分の命を天秤にかけた結果、自分の身を守る事を優先した。


「そう、じゃあ船の準備とさっきの確認を急ぎなさい。私はここで待ってるわ。」

「はい、それでは直ぐに行ってきます!」


※ サンチュ は にげだした。


「ちょっとシャナク! いつまで壁になってるのかしら? さっさとご飯と飲み物を持ってきなさい!」

 その言葉を聞いたシャナクは、死んだふりをやめる。

 このままでは追い打ちが来ると察すると、壁から頭を抜き、回復魔法【エクスヒーリング】を自分にかけると……


※ シャナクは そのままとおりすぎて どこかへ いってしまった!
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