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2 最愛との別れ
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遡ること八年前。
まだアタシが7歳の頃の話。
アタシは生まれた時から不思議な力を持っていた。
いわゆる魔法ね。
誰にも教わっていないのに、頭の中に呪文が浮かんでくると、自然と回復魔法も攻撃魔法も使えたの。
この不思議な力に疑問を持ったアタシは両親に聞いたわ。
「どうしてアタシは魔法が使えるの?」
でも両親は笑っているだけで、その理由を教えてはくれなかった。
教えてくれないなら、多分それは普通の事だと思って納得していたのだけど……
アタシが他の子供と違うのは魔法だけじゃなかったの。
アタシは女の子なのに、大人より力が強かった。
そのせいで、他の子供たちから恐れられてしまったわ。
だからなのか、物心がつく頃からなぜか周囲の大人や子供たちにアタシは避けられていた。
両親以外は、誰もアタシを見てくれない。
子供のアタシには、それがとても悲しかった。
そんなある日、アタシは勇気を出して、外で遊んでいる子供達に声をかけてみた。
「ね、ねぇ。アタシも入~れーて。」
「うわ! やべぇのがきた。」
「逃げろ逃げろ!」
アタシは、勇気を出してやっと声をかけたのに、その子達は、まるでモンスターに遭遇したかのように立ち去っていってしまったわ。
それはあまりにも辛い出来事だった。
アタシは仲良くなりたいだけなのに……
ここまで避けられているとも思わなかった。
そう思うと、自然に涙が溢れてしまったの。
「え~ん……え~ん……。」
悔しかった。
寂しかった。
悲しかった……。
アタシは、声を出して泣いていたわ。
そして、しばらくその場に一人で泣いていると、突然後ろから誰かに声をかけられたの。
「ねぇ……あの……僕で良かったら一緒に遊ばない?」
アタシは驚いて振り向いたわ。
すると、そこには同じ位の年で、なんだか気弱そうな少年が立っていたの。
「き、君は……んぐ……アタシが怖くないの?」
「え? なんで? こんなに可愛い子が怖いわけないじゃん。」
……アタシが怖くない?
「それにね、僕はね、お父さんに言われたんだ! 泣いている可愛い子を見つけたら絶対に声をかけろ、そのチャンスを見逃すなってね。」
……?
その少年が何を言っているのか、アタシには理解できなかった。
でも次の瞬間、その子は目をぎゅっと閉じて、震える手を私に差し出したの。
「だからお願いします! 僕に仲良くなるチャンスを下さい!」
その少年は必死だった。
そしてその子が今言った言葉をゆっくりと思い返す。
アタシが怖くない?
アタシが可愛い?
友達になるチャンスが欲しい?
ふとその子を見ると、断られると思っているのか、ソワソワ、モジモジしている。
その姿がとても可愛らしかった。
友達が欲しいのはアタシの方だわ。
でも、あまりにその子の仕草が可愛くて、アタシは意地悪しちゃう。
「そうね。もしも大きくなった時、アタシをお嫁さんにしてくれるなら友達になるわ!」
アタシが笑顔でそう言ってその子の手を握ると、その子は叫びながら喜んでくれたわ。
「よっしゃあ! 結婚するっぺするっぺ! こげなめんこい子と結婚できるなら、ありがたいっちゃ!」
少年は、心の底から喜んでくれた。
その子はアタシを普通の女の子として受け入れてくれたわ。
それがアタシには、本当に嬉しかったの。
これは決して忘れない、アタシの大切な思い出。
そして、その少年……
サクセスとの初めての出会い。
そんな出会いから始まった二人。
それ以来、二人はどこにいくにでもいつでも一緒。
でも時が経つにつれて、サクセスの様子が変わっていったわ。
どうやら不甲斐ない自分が情けないらしいの。
いいのに、そんな事。
いつもアタシの隣で笑っていてくれればそれでいいのに……。
そして出会ってから八年の時が過ぎたあの日。
サクセスはアタシに言った。
「俺さ、農家の三男でしょ。明日家を追い出されるんだ。だから俺は、冒険者になる! 強くなりたいんだ。俺が強くなったらまた一緒に冒険しよう!」
その話を聞いて、アタシは思わず猛反対してしまったわ。
「ダメ! サクセスは弱いんだから、すぐに死んじゃう! 絶対ダメ! アタシが16歳になるまで待って! お願い。それまで家にいられないなら、うちにいればいいから。」
アタシは、どうにか彼を引き止めようと必死だったわ。
でも彼の決意は変わらなかった。
それどころか、怒らせてしまったの。
「そうやって……そうやって俺は、いつまでビビアンに守られなければいけないんだ? 俺はそんな自分が嫌だから冒険者になるんだ!」
普段なら怒る事も、言い返す事もないサクセス。
こんなサクセスは出会ってから初めてだった。
でもアタシは、それについカッとなってしまい、色々酷い事を言ってしまったの。
「それの何が悪いのよ!? アタシとずっと一緒にいてよ! サクセスの嘘つき!」
アタシがそう言い返すと、サクセスは悲しそうな顔をしたまま
「ビビアン、俺はそれでも行くよ。強くなりたいんだ。強くなって立派な冒険者になったら、また会いに来るよ。」
そう言い残して行ってしまったの。
アタシはそれが悲しすぎて、その場から動けずに泣き続けてしまったわ。
後悔した。
後悔して後悔して後悔して……辛かった。
翌日には、サクセスは旅に出てしまう。
もしかしたら二度と会えないかもしれない。
そんなの絶対やだ!
明日の朝、サクセスに会いに行こう。
自分から謝りに行くのよ!
そしたら彼に今度こそ伝えるわ。
大好きって……。
きっとサクセスは考え直してくれるはず。
そう思い、アタシは眠った。
翌朝目が覚めると、なんと外は日が真上まで来ており、時間は昼を過ぎていた。
「嘘でしょ!! なんで? なんで寝坊したの!? アタシのバカ!」
アタシは飛び起きて、急いでサクセスの家に向かったわ。
お願いサクセス!
まだ家にいて!
アタシはそう願いながらも、通い慣れた道を全力で走って行く。
するとサクセスの家が見えてきた。
「おじさん! おばさん! サクセスは……サクセスはいませんか?」
アタシは、必死にサクセスの家の前で叫んだわ。
するとサクセスの両親は、家から出てくると申し訳なさそうに言った。
「サクセスなら今朝村を出て行ったよ?」
「サクセスったら、ビビアンちゃんに何も言わなかったのかい?」
サクセスの両親の言葉に、アタシは頭がクラクラしてきた。
間に合わなかった!
アタシはそれだけ聞くと、自分の家に急いで戻る。
連れ戻さなきゃ!
アタシの頭は、それだけで一杯だった。
そして家に帰ると直ぐに旅の準備を始めたわ。
しかしその時、お父さんが突然部屋に入ってきたの。
「ビビアン! 家を出ることを父さんは許さない!」
突然、優しかった父が怒鳴る。
「なんでよ! 急がないと……急がないとサクセスが死んじゃう!」
アタシは、父がなんと言おうが家を出るつもりだった。
「ビビアンは、彼が好きなんだろう。お父さんは知っているよ。だからこそ、まだダメだ。彼は、男になろうとしているんだ。」
お父さんは諭すようにアタシに話しかけてきた。
でもそんなの知らない。
アタシはサクセスの命が何よりも大事だから。
お父さんの言葉を聞きつつも、アタシは構わず旅の支度を続ける。
そんなアタシにお父さんは更に話し続けた。
「ビビアン。聞きなさい。惚れた男ならその気持ちを大切にしなくてはだめだ。来月、ビビアンは16歳になる。その時になったら堂々と探しにいけばいい。」
アタシはその言葉に、つい頭にきてしまった。
サクセスの事を何も知らないくせに!
「それじゃ遅いかもしれないの! サクセスは弱いのよ? 死んだらもう会えないわ!」
アタシは必死に反抗した。
そんな悠長な事言ってる場合じゃない!
しかしそれでもお父さんは引かなかった。
「大丈夫とは言わない。だけど、彼にだって男の誇りがあるんだ。男にとって、それを失えば死んでいるのと同じだ。」
「それが何よ? 命よりも大切だってお父さんは言いたいの?」
「そうだ。時に誇りは命よりも重い。最近のサクセス君を見て何も感じなかったか? 彼は今、男になろうとしている。本当に大切に思うなら、彼の気持ちを無下にしてはダメだ。」
私は何も言い返せなかった。
確かに最近のサクセスは、なぜか辛そうにしている事が多かった。
当然アタシも気づいていたし、何度も聞いたわ。
でも、いくら私が聞いても答えてくれなかったの。
今思えば、アタシの存在が彼をずっと苦しめていたのかもしれない。
サクセスはアタシに守られたいわけじゃない。
サクセスもアタシを守りたかったんだ。
「少し早いが……今まで黙っていた事を話そう。」
アタシがサクセスの思いについて考えていると、突然、お父さんはさっきまでよりも真剣な表情で語り始める。
「ビビアン。お前は実は勇者なんだ。ビビアンが生まれた時、賢者様が訪れてそれを私に伝えた。」
アタシが勇者?
賢者様?
お父さんは何を言ってるの?
アタシの疑問を他所に、お父さんは話を続ける。
「だから、16歳になったらアリエヘンの城に行かねばならない。本当はずっと黙っておこうと思ってたんだが、どの道このままじゃ彼を探しに出て行ってしまうだろう。今まで黙っていてすまなかった。」
お父さんはそう言うと、アタシに頭を下げた。
その真剣な姿を見て、アタシは父親が話した事が真実だとわかる。
そして、今まで不思議に思っていた事の謎が解けた。
今まで何度聞いても、両親は私の力について答えてくれなかった。
多分それは、両親の優しさだったのかもしれない。
だって勇者は……
とても危険な人生を歩まなければならないから。
アタシを愛していた両親は、多分アタシを勇者にしたくなかったんだわ。
だから外に出るとあれほど怒っていたのね。
それに今なら周りの大人達の反応もわかる。
アタシと一緒にいるといつか危険が訪れるから、みんなはアタシを避けていたんだわ。
知らなかったのは、アタシだけ……。
でも今はそんなことはどうでもいい。
勇者なんて関係ない。
アタシはサクセスと一緒にいたいだけよ!
だけどお父さんの言う通り、今までサクセスの気持ちを蔑ろにし過ぎていたかもしれない。
だからアタシは我慢する!
そしてサクセスを信じるわ!
「お父さん、頭を上げて。わかったわ、一ヵ月待つわ。それにそのくらいなら、きっとサクセスもアリエヘンにいるはずだわ。」
こうしてアタシは、16歳になるのを待つ事にした。
お願い……神様……。
どうかサクセスを守ってください。
まだアタシが7歳の頃の話。
アタシは生まれた時から不思議な力を持っていた。
いわゆる魔法ね。
誰にも教わっていないのに、頭の中に呪文が浮かんでくると、自然と回復魔法も攻撃魔法も使えたの。
この不思議な力に疑問を持ったアタシは両親に聞いたわ。
「どうしてアタシは魔法が使えるの?」
でも両親は笑っているだけで、その理由を教えてはくれなかった。
教えてくれないなら、多分それは普通の事だと思って納得していたのだけど……
アタシが他の子供と違うのは魔法だけじゃなかったの。
アタシは女の子なのに、大人より力が強かった。
そのせいで、他の子供たちから恐れられてしまったわ。
だからなのか、物心がつく頃からなぜか周囲の大人や子供たちにアタシは避けられていた。
両親以外は、誰もアタシを見てくれない。
子供のアタシには、それがとても悲しかった。
そんなある日、アタシは勇気を出して、外で遊んでいる子供達に声をかけてみた。
「ね、ねぇ。アタシも入~れーて。」
「うわ! やべぇのがきた。」
「逃げろ逃げろ!」
アタシは、勇気を出してやっと声をかけたのに、その子達は、まるでモンスターに遭遇したかのように立ち去っていってしまったわ。
それはあまりにも辛い出来事だった。
アタシは仲良くなりたいだけなのに……
ここまで避けられているとも思わなかった。
そう思うと、自然に涙が溢れてしまったの。
「え~ん……え~ん……。」
悔しかった。
寂しかった。
悲しかった……。
アタシは、声を出して泣いていたわ。
そして、しばらくその場に一人で泣いていると、突然後ろから誰かに声をかけられたの。
「ねぇ……あの……僕で良かったら一緒に遊ばない?」
アタシは驚いて振り向いたわ。
すると、そこには同じ位の年で、なんだか気弱そうな少年が立っていたの。
「き、君は……んぐ……アタシが怖くないの?」
「え? なんで? こんなに可愛い子が怖いわけないじゃん。」
……アタシが怖くない?
「それにね、僕はね、お父さんに言われたんだ! 泣いている可愛い子を見つけたら絶対に声をかけろ、そのチャンスを見逃すなってね。」
……?
その少年が何を言っているのか、アタシには理解できなかった。
でも次の瞬間、その子は目をぎゅっと閉じて、震える手を私に差し出したの。
「だからお願いします! 僕に仲良くなるチャンスを下さい!」
その少年は必死だった。
そしてその子が今言った言葉をゆっくりと思い返す。
アタシが怖くない?
アタシが可愛い?
友達になるチャンスが欲しい?
ふとその子を見ると、断られると思っているのか、ソワソワ、モジモジしている。
その姿がとても可愛らしかった。
友達が欲しいのはアタシの方だわ。
でも、あまりにその子の仕草が可愛くて、アタシは意地悪しちゃう。
「そうね。もしも大きくなった時、アタシをお嫁さんにしてくれるなら友達になるわ!」
アタシが笑顔でそう言ってその子の手を握ると、その子は叫びながら喜んでくれたわ。
「よっしゃあ! 結婚するっぺするっぺ! こげなめんこい子と結婚できるなら、ありがたいっちゃ!」
少年は、心の底から喜んでくれた。
その子はアタシを普通の女の子として受け入れてくれたわ。
それがアタシには、本当に嬉しかったの。
これは決して忘れない、アタシの大切な思い出。
そして、その少年……
サクセスとの初めての出会い。
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それ以来、二人はどこにいくにでもいつでも一緒。
でも時が経つにつれて、サクセスの様子が変わっていったわ。
どうやら不甲斐ない自分が情けないらしいの。
いいのに、そんな事。
いつもアタシの隣で笑っていてくれればそれでいいのに……。
そして出会ってから八年の時が過ぎたあの日。
サクセスはアタシに言った。
「俺さ、農家の三男でしょ。明日家を追い出されるんだ。だから俺は、冒険者になる! 強くなりたいんだ。俺が強くなったらまた一緒に冒険しよう!」
その話を聞いて、アタシは思わず猛反対してしまったわ。
「ダメ! サクセスは弱いんだから、すぐに死んじゃう! 絶対ダメ! アタシが16歳になるまで待って! お願い。それまで家にいられないなら、うちにいればいいから。」
アタシは、どうにか彼を引き止めようと必死だったわ。
でも彼の決意は変わらなかった。
それどころか、怒らせてしまったの。
「そうやって……そうやって俺は、いつまでビビアンに守られなければいけないんだ? 俺はそんな自分が嫌だから冒険者になるんだ!」
普段なら怒る事も、言い返す事もないサクセス。
こんなサクセスは出会ってから初めてだった。
でもアタシは、それについカッとなってしまい、色々酷い事を言ってしまったの。
「それの何が悪いのよ!? アタシとずっと一緒にいてよ! サクセスの嘘つき!」
アタシがそう言い返すと、サクセスは悲しそうな顔をしたまま
「ビビアン、俺はそれでも行くよ。強くなりたいんだ。強くなって立派な冒険者になったら、また会いに来るよ。」
そう言い残して行ってしまったの。
アタシはそれが悲しすぎて、その場から動けずに泣き続けてしまったわ。
後悔した。
後悔して後悔して後悔して……辛かった。
翌日には、サクセスは旅に出てしまう。
もしかしたら二度と会えないかもしれない。
そんなの絶対やだ!
明日の朝、サクセスに会いに行こう。
自分から謝りに行くのよ!
そしたら彼に今度こそ伝えるわ。
大好きって……。
きっとサクセスは考え直してくれるはず。
そう思い、アタシは眠った。
翌朝目が覚めると、なんと外は日が真上まで来ており、時間は昼を過ぎていた。
「嘘でしょ!! なんで? なんで寝坊したの!? アタシのバカ!」
アタシは飛び起きて、急いでサクセスの家に向かったわ。
お願いサクセス!
まだ家にいて!
アタシはそう願いながらも、通い慣れた道を全力で走って行く。
するとサクセスの家が見えてきた。
「おじさん! おばさん! サクセスは……サクセスはいませんか?」
アタシは、必死にサクセスの家の前で叫んだわ。
するとサクセスの両親は、家から出てくると申し訳なさそうに言った。
「サクセスなら今朝村を出て行ったよ?」
「サクセスったら、ビビアンちゃんに何も言わなかったのかい?」
サクセスの両親の言葉に、アタシは頭がクラクラしてきた。
間に合わなかった!
アタシはそれだけ聞くと、自分の家に急いで戻る。
連れ戻さなきゃ!
アタシの頭は、それだけで一杯だった。
そして家に帰ると直ぐに旅の準備を始めたわ。
しかしその時、お父さんが突然部屋に入ってきたの。
「ビビアン! 家を出ることを父さんは許さない!」
突然、優しかった父が怒鳴る。
「なんでよ! 急がないと……急がないとサクセスが死んじゃう!」
アタシは、父がなんと言おうが家を出るつもりだった。
「ビビアンは、彼が好きなんだろう。お父さんは知っているよ。だからこそ、まだダメだ。彼は、男になろうとしているんだ。」
お父さんは諭すようにアタシに話しかけてきた。
でもそんなの知らない。
アタシはサクセスの命が何よりも大事だから。
お父さんの言葉を聞きつつも、アタシは構わず旅の支度を続ける。
そんなアタシにお父さんは更に話し続けた。
「ビビアン。聞きなさい。惚れた男ならその気持ちを大切にしなくてはだめだ。来月、ビビアンは16歳になる。その時になったら堂々と探しにいけばいい。」
アタシはその言葉に、つい頭にきてしまった。
サクセスの事を何も知らないくせに!
「それじゃ遅いかもしれないの! サクセスは弱いのよ? 死んだらもう会えないわ!」
アタシは必死に反抗した。
そんな悠長な事言ってる場合じゃない!
しかしそれでもお父さんは引かなかった。
「大丈夫とは言わない。だけど、彼にだって男の誇りがあるんだ。男にとって、それを失えば死んでいるのと同じだ。」
「それが何よ? 命よりも大切だってお父さんは言いたいの?」
「そうだ。時に誇りは命よりも重い。最近のサクセス君を見て何も感じなかったか? 彼は今、男になろうとしている。本当に大切に思うなら、彼の気持ちを無下にしてはダメだ。」
私は何も言い返せなかった。
確かに最近のサクセスは、なぜか辛そうにしている事が多かった。
当然アタシも気づいていたし、何度も聞いたわ。
でも、いくら私が聞いても答えてくれなかったの。
今思えば、アタシの存在が彼をずっと苦しめていたのかもしれない。
サクセスはアタシに守られたいわけじゃない。
サクセスもアタシを守りたかったんだ。
「少し早いが……今まで黙っていた事を話そう。」
アタシがサクセスの思いについて考えていると、突然、お父さんはさっきまでよりも真剣な表情で語り始める。
「ビビアン。お前は実は勇者なんだ。ビビアンが生まれた時、賢者様が訪れてそれを私に伝えた。」
アタシが勇者?
賢者様?
お父さんは何を言ってるの?
アタシの疑問を他所に、お父さんは話を続ける。
「だから、16歳になったらアリエヘンの城に行かねばならない。本当はずっと黙っておこうと思ってたんだが、どの道このままじゃ彼を探しに出て行ってしまうだろう。今まで黙っていてすまなかった。」
お父さんはそう言うと、アタシに頭を下げた。
その真剣な姿を見て、アタシは父親が話した事が真実だとわかる。
そして、今まで不思議に思っていた事の謎が解けた。
今まで何度聞いても、両親は私の力について答えてくれなかった。
多分それは、両親の優しさだったのかもしれない。
だって勇者は……
とても危険な人生を歩まなければならないから。
アタシを愛していた両親は、多分アタシを勇者にしたくなかったんだわ。
だから外に出るとあれほど怒っていたのね。
それに今なら周りの大人達の反応もわかる。
アタシと一緒にいるといつか危険が訪れるから、みんなはアタシを避けていたんだわ。
知らなかったのは、アタシだけ……。
でも今はそんなことはどうでもいい。
勇者なんて関係ない。
アタシはサクセスと一緒にいたいだけよ!
だけどお父さんの言う通り、今までサクセスの気持ちを蔑ろにし過ぎていたかもしれない。
だからアタシは我慢する!
そしてサクセスを信じるわ!
「お父さん、頭を上げて。わかったわ、一ヵ月待つわ。それにそのくらいなら、きっとサクセスもアリエヘンにいるはずだわ。」
こうしてアタシは、16歳になるのを待つ事にした。
お願い……神様……。
どうかサクセスを守ってください。
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