上 下
2 / 50

2 最愛との別れ

しおりを挟む
 遡ること八年前。

 まだアタシが7歳の頃の話。
 
 アタシは生まれた時から不思議な力を持っていた。

 いわゆる魔法ね。

 誰にも教わっていないのに、頭の中に呪文が浮かんでくると、自然と回復魔法も攻撃魔法も使えたの。

 この不思議な力に疑問を持ったアタシは両親に聞いたわ。
  

「どうしてアタシは魔法が使えるの?」


 でも両親は笑っているだけで、その理由を教えてはくれなかった。

 教えてくれないなら、多分それは普通の事だと思って納得していたのだけど……


 アタシが他の子供と違うのは魔法だけじゃなかったの。

 アタシは女の子なのに、大人より力が強かった。

 そのせいで、他の子供たちから恐れられてしまったわ。

 だからなのか、物心がつく頃からなぜか周囲の大人や子供たちにアタシは避けられていた。


 両親以外は、誰もアタシを見てくれない。


 子供のアタシには、それがとても悲しかった。


 そんなある日、アタシは勇気を出して、外で遊んでいる子供達に声をかけてみた。

 
「ね、ねぇ。アタシも入~れーて。」


「うわ! やべぇのがきた。」
「逃げろ逃げろ!」


 アタシは、勇気を出してやっと声をかけたのに、その子達は、まるでモンスターに遭遇したかのように立ち去っていってしまったわ。


 それはあまりにも辛い出来事だった。
 アタシは仲良くなりたいだけなのに……
 ここまで避けられているとも思わなかった。

 
 そう思うと、自然に涙が溢れてしまったの。


「え~ん……え~ん……。」


 悔しかった。
 寂しかった。
 悲しかった……。


 アタシは、声を出して泣いていたわ。


 そして、しばらくその場に一人で泣いていると、突然後ろから誰かに声をかけられたの。


「ねぇ……あの……僕で良かったら一緒に遊ばない?」


 アタシは驚いて振り向いたわ。


 すると、そこには同じ位の年で、なんだか気弱そうな少年が立っていたの。


「き、君は……んぐ……アタシが怖くないの?」

「え? なんで? こんなに可愛い子が怖いわけないじゃん。」


 ……アタシが怖くない?


「それにね、僕はね、お父さんに言われたんだ! 泣いている可愛い子を見つけたら絶対に声をかけろ、そのチャンスを見逃すなってね。」


 ……?


 その少年が何を言っているのか、アタシには理解できなかった。


 でも次の瞬間、その子は目をぎゅっと閉じて、震える手を私に差し出したの。


「だからお願いします! 僕に仲良くなるチャンスを下さい!」


 その少年は必死だった。
 そしてその子が今言った言葉をゆっくりと思い返す。


 アタシが怖くない?
 アタシが可愛い?
 友達になるチャンスが欲しい?


 ふとその子を見ると、断られると思っているのか、ソワソワ、モジモジしている。


 その姿がとても可愛らしかった。


 友達が欲しいのはアタシの方だわ。

 でも、あまりにその子の仕草が可愛くて、アタシは意地悪しちゃう。


「そうね。もしも大きくなった時、アタシをお嫁さんにしてくれるなら友達になるわ!」


 アタシが笑顔でそう言ってその子の手を握ると、その子は叫びながら喜んでくれたわ。


「よっしゃあ! 結婚するっぺするっぺ! こげなめんこい子と結婚できるなら、ありがたいっちゃ!」


 少年は、心の底から喜んでくれた。

 その子はアタシを普通の女の子として受け入れてくれたわ。

 それがアタシには、本当に嬉しかったの。

 これは決して忘れない、アタシの大切な思い出。



 そして、その少年……

 サクセスとの初めての出会い。


 そんな出会いから始まった二人。

 それ以来、二人はどこにいくにでもいつでも一緒。

 でも時が経つにつれて、サクセスの様子が変わっていったわ。


 どうやら不甲斐ない自分が情けないらしいの。


 いいのに、そんな事。
 いつもアタシの隣で笑っていてくれればそれでいいのに……。


 そして出会ってから八年の時が過ぎたあの日。

 サクセスはアタシに言った。


「俺さ、農家の三男でしょ。明日家を追い出されるんだ。だから俺は、冒険者になる! 強くなりたいんだ。俺が強くなったらまた一緒に冒険しよう!」


 その話を聞いて、アタシは思わず猛反対してしまったわ。


「ダメ! サクセスは弱いんだから、すぐに死んじゃう! 絶対ダメ! アタシが16歳になるまで待って! お願い。それまで家にいられないなら、うちにいればいいから。」


 アタシは、どうにか彼を引き止めようと必死だったわ。

 でも彼の決意は変わらなかった。

 それどころか、怒らせてしまったの。


「そうやって……そうやって俺は、いつまでビビアンに守られなければいけないんだ? 俺はそんな自分が嫌だから冒険者になるんだ!」


 普段なら怒る事も、言い返す事もないサクセス。

 こんなサクセスは出会ってから初めてだった。


 でもアタシは、それについカッとなってしまい、色々酷い事を言ってしまったの。


「それの何が悪いのよ!? アタシとずっと一緒にいてよ! サクセスの嘘つき!」


 アタシがそう言い返すと、サクセスは悲しそうな顔をしたまま


「ビビアン、俺はそれでも行くよ。強くなりたいんだ。強くなって立派な冒険者になったら、また会いに来るよ。」


 そう言い残して行ってしまったの。

 
 アタシはそれが悲しすぎて、その場から動けずに泣き続けてしまったわ。


 後悔した。

 後悔して後悔して後悔して……辛かった。


 翌日には、サクセスは旅に出てしまう。
 もしかしたら二度と会えないかもしれない。

 
 そんなの絶対やだ!


 明日の朝、サクセスに会いに行こう。
 自分から謝りに行くのよ!
 そしたら彼に今度こそ伝えるわ。


 大好きって……。


 きっとサクセスは考え直してくれるはず。


 そう思い、アタシは眠った。

 翌朝目が覚めると、なんと外は日が真上まで来ており、時間は昼を過ぎていた。


「嘘でしょ!! なんで? なんで寝坊したの!? アタシのバカ!」


 アタシは飛び起きて、急いでサクセスの家に向かったわ。


 お願いサクセス!
 まだ家にいて!


 アタシはそう願いながらも、通い慣れた道を全力で走って行く。


 するとサクセスの家が見えてきた。


「おじさん! おばさん! サクセスは……サクセスはいませんか?」


 アタシは、必死にサクセスの家の前で叫んだわ。


 するとサクセスの両親は、家から出てくると申し訳なさそうに言った。


「サクセスなら今朝村を出て行ったよ?」

「サクセスったら、ビビアンちゃんに何も言わなかったのかい?」


 サクセスの両親の言葉に、アタシは頭がクラクラしてきた。


 間に合わなかった!


 アタシはそれだけ聞くと、自分の家に急いで戻る。


 連れ戻さなきゃ!


 アタシの頭は、それだけで一杯だった。


 そして家に帰ると直ぐに旅の準備を始めたわ。


 しかしその時、お父さんが突然部屋に入ってきたの。


「ビビアン! 家を出ることを父さんは許さない!」


 突然、優しかった父が怒鳴る。


「なんでよ! 急がないと……急がないとサクセスが死んじゃう!」


 アタシは、父がなんと言おうが家を出るつもりだった。


「ビビアンは、彼が好きなんだろう。お父さんは知っているよ。だからこそ、まだダメだ。彼は、男になろうとしているんだ。」


 お父さんは諭すようにアタシに話しかけてきた。

 
 でもそんなの知らない。
 アタシはサクセスの命が何よりも大事だから。

 
 お父さんの言葉を聞きつつも、アタシは構わず旅の支度を続ける。

 そんなアタシにお父さんは更に話し続けた。


「ビビアン。聞きなさい。惚れた男ならその気持ちを大切にしなくてはだめだ。来月、ビビアンは16歳になる。その時になったら堂々と探しにいけばいい。」


 アタシはその言葉に、つい頭にきてしまった。


 サクセスの事を何も知らないくせに!


「それじゃ遅いかもしれないの! サクセスは弱いのよ? 死んだらもう会えないわ!」


 アタシは必死に反抗した。

 そんな悠長な事言ってる場合じゃない!


 しかしそれでもお父さんは引かなかった。


「大丈夫とは言わない。だけど、彼にだって男の誇りがあるんだ。男にとって、それを失えば死んでいるのと同じだ。」

「それが何よ? 命よりも大切だってお父さんは言いたいの?」

「そうだ。時に誇りは命よりも重い。最近のサクセス君を見て何も感じなかったか? 彼は今、男になろうとしている。本当に大切に思うなら、彼の気持ちを無下にしてはダメだ。」


 私は何も言い返せなかった。


 確かに最近のサクセスは、なぜか辛そうにしている事が多かった。

 当然アタシも気づいていたし、何度も聞いたわ。

 でも、いくら私が聞いても答えてくれなかったの。

 今思えば、アタシの存在が彼をずっと苦しめていたのかもしれない。


 サクセスはアタシに守られたいわけじゃない。
 サクセスもアタシを守りたかったんだ。


「少し早いが……今まで黙っていた事を話そう。」


 アタシがサクセスの思いについて考えていると、突然、お父さんはさっきまでよりも真剣な表情で語り始める。


「ビビアン。お前は実は勇者なんだ。ビビアンが生まれた時、賢者様が訪れてそれを私に伝えた。」


 アタシが勇者?
 賢者様?
 お父さんは何を言ってるの?


 アタシの疑問を他所に、お父さんは話を続ける。


「だから、16歳になったらアリエヘンの城に行かねばならない。本当はずっと黙っておこうと思ってたんだが、どの道このままじゃ彼を探しに出て行ってしまうだろう。今まで黙っていてすまなかった。」


 お父さんはそう言うと、アタシに頭を下げた。

 その真剣な姿を見て、アタシは父親が話した事が真実だとわかる。


 そして、今まで不思議に思っていた事の謎が解けた。


 今まで何度聞いても、両親は私の力について答えてくれなかった。

 多分それは、両親の優しさだったのかもしれない。
 
 だって勇者は……

 とても危険な人生を歩まなければならないから。


 アタシを愛していた両親は、多分アタシを勇者にしたくなかったんだわ。


 だから外に出るとあれほど怒っていたのね。


 それに今なら周りの大人達の反応もわかる。

 アタシと一緒にいるといつか危険が訪れるから、みんなはアタシを避けていたんだわ。


 知らなかったのは、アタシだけ……。


 でも今はそんなことはどうでもいい。
 勇者なんて関係ない。
 アタシはサクセスと一緒にいたいだけよ!

 だけどお父さんの言う通り、今までサクセスの気持ちを蔑ろにし過ぎていたかもしれない。


 だからアタシは我慢する!
 そしてサクセスを信じるわ!


「お父さん、頭を上げて。わかったわ、一ヵ月待つわ。それにそのくらいなら、きっとサクセスもアリエヘンにいるはずだわ。」


 こうしてアタシは、16歳になるのを待つ事にした。


 お願い……神様……。
 どうかサクセスを守ってください。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...