上 下
56 / 59
第一章:アナザーニューワールド

57 誓い

しおりを挟む
 マリリン達が暮らしていた村の北側には、山頂が禿げた山があった。

 山から川が流れ、川は恵を育む。
 ここは、自然豊かな森に囲まれており、人が住むのに適している土地であった。

 当時この場所には、誰も住んでいなかった。
 だが人族の争いに疲れ、安住の地を目指した者達は、竜族の力を借りてこの地に移住し、ここを安息の地として根を張り暮らすのだった。
 
 禿げ山の麓には、多数のお墓が建てられている。
 村で亡くなった者達を祀る場所であり、お墓には花や果物が供えられてあった。
 その中で一際立派なお墓の前に、今、二人の美しい女性が目を閉じ祈りを捧げている。


「おじいさま、おばあさま、どうか安らかにお眠り下さい。」

「じいじ、ばぁば、おやすみなさい。」


 マリリンとヒヨリンは涙が枯れるまで泣きはらした後、長老の亡骸を手厚く葬ると、遺言とおりに育ての親であるヒミコが眠る墓に埋めた。
 二人のお祈りが終わると、俺もまたお墓の前に行き、手を合わせて祈りをささげる。


 助けることができなくてすいませんでした。
 でも約束した通り、二人は俺の命に代えても守っていきます。
 だから、安心して眠って下さい。


 お祈りが終わり振り返ると、マリリンが横に来た。


「ありがとね、シン。それと、あの時はきつくあたってごめんなさい。」

「いいんだよ、誰だってあんな辛い思いをしたら、誰かにあたりたくもなるさ。それに、俺は何もできなかった……責められて当然だよ。」


 俺は助けることができなかった自分を、未だに攻め続けていた。--しかし。


「そんな事ない!!」


 それをマリリンが強く否定する。
 

「そう、そんな事はない。シンがいたおかげでじいじとばぁばに会えた。それに二人を同じ場所で眠らせてあげることができた。もし、シンがいなかったら私達はずっと村が無くなった事も、家族が死んだ事も知ることができなかった。だから感謝。」


 ヒヨリンもまた、俺に対して感謝の気持ちを伝えた。
 ここに来るまではまともに俺と会話ができないでいたのだが、今回の事もあり、ヒヨリンは大分心を許してくれたようだった。


「そうよ! シンのお蔭よ。ありがとう! この借りは必ず返すわ!」


 マリリンは元気そうに言うも、瞳に映る悲しみは消えていない。
 多分、ヒヨリンの前だから気丈に振舞っているんだろうな。


「二人ともありがとう、俺は強くなる! そして二人を絶対守るし、もう誰も泣かせたりはしない! この手から一つも零す事なく、全て救って見せる!」

「シンは強いね……そうね。だったら私も強くなる! 守られるだけなんて絶対イヤ! このお墓に眠るおじいさまとおばあさまに誓って私は強くなる! そして自分も周りもみんな幸せにするわ!」

「私はみんなを癒します。誰も傷つかないように守る。マリリンの幸せは私が守る! じぃじ、ばぁばに約束する!」

「じゃあ私はヒヨリンの幸せを守るわ!」


 マリリンとヒヨリンは、二人のお墓を前にに決意を口にすると、笑顔で向き合った。
 血は繋がっていなくてもお互いの幸せを願う、本当に仲のいい姉妹。
 不思議な事に、そこにはそんな二人を笑顔で眺めている老人と老婆がいるように感じるのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...