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第一章:アナザーニューワールド

16 餌

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 俺は今、未だかつてない程震えている。何故ならば、今いるこの場所が異常すぎるからだ。
 この世界に来て俺が初めて見た森は、虫も動物も日本と同じ大きさであり、違和感はなかった。

 しかし、ここは違う。何が違うって全て違う。
 虫も小動物も不自然に大きいし、木や草も大きい。
 もしも白亜紀の時代の森に来たらこんな感じなのかと思うかもしれない。
 まるでジュラシックパークの世界のようだ。

 それだけに、俺は怖かった。
 ブライアンがいるだけかなりマシではあるが、それでも怖かった。


「なぁブライアン、この森ってなんか普通と違ったりしない?」

「お? 前にカブトムシを探しにきた事があるけど、特に他と変わったところはなかったと思うぜバーロー、まぁすげぇ格好いい昆虫が多いってところは違うかもしれねぇぜ、バーロー。」

「いやいや普通におかしいだろ! 見ろよ、あれ……多分リスだと思うけどなんだありゃ! 小動物じゃねぇ! 1mはあるぞ!」

「お? そういや少しでけぇ気がするぜバーロー」

「少しって……つかやべぇなここ。そこらへんに飛んでる虫すらまともに近づいたらアウトだわ。でかすぎるし、きもすぎる」


 バシッ! バシッ! バチン!


「確かにうざってぇなバーロー」


 平然と一撃で巨大な虫を払い落とすブライアン。


「いや、まじで尊敬するわ。この調子で頼むぜ。」


 その後も俺は、無敵生物ブライアンの傍から離れないように警戒して歩く。


「ところで、あの大樹まで行ったことあるんだっけ?」

「おおよ、あの木に登ってカブトムシ見つけたからなバーロー!」

「まじか!? ちなみにそのカブトムシの大きさってどのくらい?」

「お? 俺っちが乗れる大きさだぜバーロー。何年も前の話だけどな。」

 ブライアンが乗れる大きさ?
 それ、本当にカブトムシか?
 まぁこの森にいる虫を見れば大体予想はつくか。
 俺は、若干恐怖が紛れつつも、この魔境のような森の中にいる、アズの事がまた心配になり始める。

 急がなきゃ!

 気が付くと俺はブライアンの前を歩き始めていた。


「お? 相棒! そっちは危ねぇぜバーロー!」


 ブライアンにしては珍しく焦ったような、語気の強い警告を発した。俺はその声で立ち止まると、目の前に巨大な蜘蛛の巣がある事に気付く。だが、ブライアンのお蔭で引っかからずに済んだ。


「ん? うぉ! なんじゃこりゃ! 網か?」


 そして巨大な蜘蛛の巣の上では、餌がひっかかるのを今か今かと待ち構えている巨大蜘蛛がいるのであった。
 その巨大蜘蛛は、黄色と黒の斑色の足をしており、日本でもよくみかけるジョロウグモと呼ばれる蜘蛛に酷似している。

 しかし、大きさがまるで桁違いだ。

 日本での大きさが2センチから3センチに対し、この巨大蜘蛛は足の長さを入れると3メートル近くある。
 巨大蜘蛛は餌(俺)が蜘蛛の巣にひっかかり動けなくなったところを捕食しようと思い、息を潜めていたが失敗した。しかし巨大蜘蛛にとって、既に俺との距離は十分捕食可能な範囲であり、そのチャンスを見逃すことはない。

 巨大蜘蛛は高速で急降下し、俺に襲いかかってくる。

 
 ギュイィィン!


 気づいた時には、その巨大蜘蛛は俺の目の前まで接近していた!


 やばい、食われる!


 俺は、反射的に両手を頭の前でクロスしてガードしたが、巨大蜘蛛から吐かれる強い粘着性のある糸で絡めとられて、そのまま蜘蛛の巣に張り付けにされてしまう……はずだった。

 しかしそうはならない。
 なぜなら、既に巨大な蜘蛛の存在に気付いていたブライアンが一瞬で俺と蜘蛛の間に割り込むと、「どっせぇ!!」と大声をあげながら、巨大蜘蛛の顔面をぶん殴ったからだ。


 グチャッ!

 キュイイーー!!


 巨大蜘蛛は断末魔と共に、そのまま顔面が陥没し動かなくなる。
 九死に一生を得た俺はというと、巨大な蜘蛛が近づくという恐怖が未だ残っており、放心状態になっていた。

 普通の日本人であれば、手のひらサイズの蜘蛛だって怖いのに、3メートルの蜘蛛が凄い勢いで近づいてくるというのは、怖いなんてレベルではない。凶悪な姿を目の前にして、動じない人間などいるだろうか……。
 ただでさえ、虫に対する嫌悪感を持つ人が多いのが人間であり、それが巨大動物クラスであれば失神してもおかしくないレベル。

 しばらく俺は、その場で固まったように動かなくなり茫然とする。
 そして改めて認識するーーここでは自分は捕食される餌でしかないという事に。
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