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第一章:アナザーニューワールド

13 マドンナちゃん

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 そんなこんなで、何とか窮地を脱した俺。

 へへへ、早速鞍と手綱ゲットだぜ!

 と喜ぶのも束の間。なんとさっきの店員が外に出た俺を追いかけてきた。しかも、扉を出た瞬間、凄い勢いで投げキッスをしながら叫んでいる。


 きしょぉぉぉぉ!! もう無理!


「またきてねーーん。チュッチュ! 愛してるわよーー」

 
 どこまで追いかけてくるかと思い、背筋を凍らせていたが、予想に反して牝馬はそれ以上は追ってこなかった。
 だがしかし、いつまでも俺に向かって愛を叫び続けている。
 
 こんな愛の告白なんてあんまりだ!
 神様のバカ野郎! いや馬化野郎!

 異世界に転移して初めての愛の告白。
 それは、あまりにあんまりなものだった。
 ふと思ったのだが、まさかあれがヒロイン枠ではないだろうな……。
 まじで、それなら俺は死を選ぶぞ?


 俺がそう考えていると、丁度タイミングよくブライアンが虫ショップから出てきた。
 そして、なぜか固まっている。どういう事だ?


「まじかよ……村のアイドル、ジェンティルマドンナちゃんに投げキッスされた。俺っちに……ついに春が来た!」

「おーい、ブライアン。おーい、目的の物買えたから洞窟いくぞぉ、おーい!!」

 
 ブライアンの様子がおかしい。いくら呼んでも反応がないぞ。しかし、何度も呼びかけ続けることで、やっとブライアンは正気に戻った……と思ったら、急にキリッとした面構えになる。


「すまねぇ、相棒。俺は今から結婚することになった! だからもう相棒とはいられねぇ……。次会う時は、子供の顔みせてやんぜバーロー!」


 ブライアンはさっきの店の牝馬に向かって、叫びながら全力で駆け出し始めた!


「俺も愛してるぜ! ハニー!!」


 こっ、これは!? どういうことだ? ブライアンが暴走した!?


「きゃあぁぁ! 気持ち悪い! こないで!!」


 バァァン!

 ドンッ!


 しかしマドンナは、近づいてくるブライアンを見ると、叫び声を上げながら扉を勢いよく閉めてしまう。
 牝馬とはいえ、馬族の豪腕により勢いよく閉められた扉は、あと少しで扉に辿り着くブライアンの顔面を強打し、ブライアンはその場で倒れてしまった。


 幸せになブライアン……。
 そいつはお前にくれてやるよ。

 俺はそう思いつつも、勢いよく扉に弾かれて倒れたブライアンの傍に行く。


「大丈夫か、ブライアン! 心配してないけど。」


 すると、急にブライアンはむくっと上体を起こし、目をパチパチさせて意識を取り戻した。


「お? 相棒、どうした? なんかいい夢見た気がしたぜバーロー。ここはどこだ? お? そうだ! 洞窟に行くんだったなバーロー!」


 どうやらブライアンは、さっきの強打で一時的に記憶が飛んだらしい。
 めんどくさいことにならなくてよかったと思うと同時に、ふざけたカップルの誕生を見られず残念にも思う。
 だが、そんなブライアンであったが、俺の持ち物を見てテンションを上げる。


「お? それは手綱と鞍じゃねぇか、俺っちのか? 久しぶりだぜバーロー。よし、ここからは俺っちの背中に乗んな!」


 失恋を忘れたブライアンは元気そうである。
 そしてブライアンは、なぜかその場でブリッヂをし始めた。


 え、どういうこと?
 お腹に乗れと?
 逆じゃないの?


 よくわからないが、とりあえずブライアンの腹に腰を掛ける。


「おうおう、相棒。ちょっと気がはええぜ、これは久々の馬化だから準備体操してるだけだぜバーロー。」

「先に言えよ!!」


 俺がそうツッコムとブライアンはブリッヂをやめてジャンプした。


「あらよっと!!」


 すると、ブライアンの周りが輝き始める。
 俺は眩しくて目を閉じていたが、目を開けると…… 


ーーそこには、顔がブライアンのままの馬がいた。


「……………………。」

「おう! どうだ、すげぇだろ相棒! 格好いいだろバーロー!!」


 俺はあまりに衝撃的な光景で言葉を失う。
 そしてやっと出た言葉は……。


「うわぁ……すっげぇきもい。」


 だった。


 こんな気持ち悪い生物に乗りたくはないが、体は馬の形をしているので乗るのは可能だろう。
 冷静に考えた俺は、とりあえずさっき買った鞍をブライアンに装着させようとする

ーーが、……思わずその手が止まった。


 突如、謎の化け物(ブライアン)から気色悪い声が漏れ始めたからだ。


「お、お、ぎもぢい……。お、そんなところ、触っちゃ……」


 俺は耳を塞ぎたくなるような思いをしつつも、必死に装着させる。


「うるさい、黙れ! 俺だってやりたくてやってるんじゃ……頼むから気持ち悪い声を出さないでくれ。」


 俺はブライアンの気持ち悪い声に耐えながら、なんとか鞍を装着した。
 するとブライアンは、頬を紅潮させてうっとりしている。
 

 まじかよ。これ拷問だぞ? だが、後は手綱だけ。手綱なら触れる部分は少ないはずだ。


「ふぅ~、次は手綱だな。」


 地獄を乗り越えた俺は、後は手綱だけだとほっとしていたが、実は手綱が鬼門であった。
 普通の馬の顔用に作られた手綱は、ブライアンには合わなかったのである。


「あれ? これどうやってつけるんだ。装着することができないぞ!!」


 俺が手綱の装着に四苦八苦していると、突然アズが手助けをし始めた。


「貸すニャ! ここに付ければいいニャ。」


 アズは手綱を手に取ると、ブライアンの3つに割れたアゴの凹みに手綱を装着する。

 すると、あら不思議。ぴったり装着できていた。
 顔がすっきりと引き締まった感じがしたブライアンは、アズに感謝する。


「おう、わりいなチビ助、なんかフィットした感じがして力が沸いてきたぜ。どこにつけたんだバーロー?」

「………………。」


 俺たちはその質問に答えない。


 お互い、気にしたら負けだぜバーロー。


 そして俺は、早速ブライアンの背に乗って手綱を持つと、アズは俺のシャツの中に入り、顔だけ襟口から出す。


「よぉし! 色々おかしなことが多かったけど、やっと冒険だ!!」
「出発ニャ!!」
「行くぜバーロー!!」


 こうして俺は、気持ち悪い顔面の馬に乗って、洞窟のある森に向かうのであった。
 
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