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エピローグ

14 精神崩壊

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 カリーは無理矢理シルクの方に顔を向けさせられると、視点の合わない目で誰かに話しかける。


「おい、ローズ。こんなところまで兄貴が迎えにきちまったぞ。だから早く帰れって言っただろ。」


 その様子を見たシルクは、茫然としてしまった。


(まさか……まさかここまで追いつめられていたのか……。それだけ、こいつはローズの事を……。)


 シルクはカリーが今どういう状態であるか直ぐに気づく。
 国の医学研修をしていた時、こういった症状は見た事があった。


 これは……精神崩壊だ。


「カリー!! おい、しっかりしろ! 目を覚ませ! ローズはもういないんだ! 戻ってこい、カリー!」


 かなりヤバイ状況だと察したシルクは、必死にカリーの両肩を揺らしながら叫ぶ。
 しかし、それでもカリーの表情に変化はない。
 というよりも、今のカリーにはそもそも表情と呼べるものはなかった。


「おいおい、ローズ。兄貴までお前が死んだって言ってるぜ。全く何をやらかしたらそうなるんだよ。」


 カリーはシルクの必死な叫びにまるで何も感じておらず、ただ、いるはずもないローズに話しかけるだけだった。


「なんってことだよ……。クソっ! お前がそんなんじゃ……ローズが悲しむだろう! 今お前が見ているローズはローズじゃない! 目を覚ませよ!!」


 シルクは叫びながらカリーを殴りつけると、その勢いでカリーが川に落ちた。

 川は大きな水飛沫(みずしぶき)を上げ、水の波紋を広げていくと、やがてそこに浮かんでくるカリー。

 そう浮かんできたのである、それはカリーの意思ではなく、ただの自然現象。
 この川は見た目よりも大分深く、一度下に沈んだカリーは浮力に従ってその身を浮かばせた。


 このままだと本当に死んでしまう。


「まずい! 何やってんだよ、私は!!」


 カリーを正気に戻そうとしたシルクであったが、まさかそのまま川に落ちるとは思わなかった。
 思いきり殴り過ぎてしまった事に後悔する。

 そしてシルクは正装を身につけたまま川に飛び込むと、カリーを抱きかかえて岸辺まで泳いで行った。
 

「大丈夫か、カリー!! すまない! 息は……あるな。」


 カリーの息を確認したシルクは安堵したが、やはりそれでもカリーの様子はさっきと変わらない。

 これでは伝えたい事も伝える事ができないし、何より、このままでは二人とも風邪を引いてしまうだろう。
 とりあえず今は諦めて、カリーをこのまま家まで送ろうとしたその時……


ーー突然、シルクの胸が赤く光り輝いた。

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