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第二章

16 説得

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「もう平気か、王子? 周りの盗賊は全部倒したぞ。この付近の建物に隠れている奴らもな。」


 フェイルは、バンバーラがシルクを回復し会話をしている数十秒の間に敵を全員斬りふせた。
 その戦闘力は凄まじく、国内最強と言われているゼンですら勇者の動きを目で追う事すらできない。
 そして何事もなかったかのように戻ってくるフェイルを見て、ゼンは茫然と立ち尽くすしかなかった。

 しかしその後すぐに我に返ると、シルクの負傷を思い出して王子の下へ駆け付ける。


「王子!! 大丈夫でございますか!?」

「あぁ、もう平気だ。この者に治してもらった。それとゼン、この者達は……」

「わかっております。勇者様のパーティーでしょう。あの圧倒的強さを目にすれば誰にでもわかります。それにしても、勇者様がこのような場所に来られるとは、何たる幸運。」


 人類最強の応援に喜色の色を表す喜ぶゼン。
 しかし、ゼンとは違いシルクの顔は緊張していた。
 先ほどバンバーラには同行を許してくれたが、勇者がそこまで甘いとは思えなかったからである。
 どう伝えれば同行を許してもらえるか、必死で頭を回転させるシルク。


「王子がなぜここにいるかはわかっている。だが、後は任せろ。ここには魔王軍幹部がいる。つまり、ここは俺達の戦場だ。俺は未熟故、王子を守りながら敵と戦う事はできない。」


(やはりか……。ここで反論してもきっと勇者は自分達を連れて行かないだろうな。どうする? どうすればいい?)


 シルクの予想通り、フェイルは遠回しに城に戻るように告げてきた。
 これに対してどのように答えればいいか悩んでいると、バンバーラが先に口を開く。


「待ってフェイル。確かに魔王軍と戦うのは私達の戦いだわ。でも姫を助ける事は彼らにもできるはずよ。」

「何を言っているんだ、バーラ? それは危険過ぎるだろ。」

「だってそんなの今更でしょ? そもそも私達が来なければ、二人は死んでいたかもしれないわ。なら捨てた命と思って行動してもいいはずよ。」

「馬鹿な事を言うな! 助かった命を無駄にすることはない。第一、王子達がいれば俺達のパーティにも危険が及ぶかもしれないぞ。俺は王子の命よりもお前たちの命の方が大事だ。ここには魔王軍がいるんだ、現実をよく考えてくれ。」

「ねぇ、フェイル。魔王軍がこんな形で襲ってきた理由は考えた? 魔王軍はあなたを恐れているのよ。さっきもそうだけど、敵は逃げるのに必死だったわ。だからきっと、追ってもまた逃げられるかもしれない。そして今回の魔王軍のターゲットはきっとシルク王子。それなら、シルク王子が近くにいた方が敵は逃げない可能性が高いわ。逆に離れれば裏を突かれてシルク王子が襲われる。だから一緒にいた方がいいと考えるわ。これは魔王軍を討伐するのに必要な事よ、フェイル。わかって、お願い。」


 落ち着いた様子でゆっくりと説得を続けるバンバーラ。
 フェイルはその言葉を冷静に受け止め熟考する。


 確かに敵の逃げ足は速い。
 それに目的が王子ならば、姫は無事な可能性が高い。
 ということは、自分達がもしもダークマドウを見失えば、離れた王子が殺されるだろう。
 確かにバンバーラが言っていることには頷ける。


 そこまで考えたフェイルは、シルクを同行させることを認めた。


「わかったよ、バーラ。全く君には敵わないな。その代わり王子はバーラが守れ。俺は戦闘になればずっと王子の傍にはいられないからな。」

「当然そのつもりよ。ね? 王子様。」


 シルク王子に目配せしながら尋ねるバンバーラ。
 それにシルクは、感謝の気持ちを込めて頭をバンバーラに下げた。


「はい、よろしくお願いします。」

「わ、私も微力ながら全力で王子をお守りしますぞ!!」


 シルクの返事を聞き、慌ててゼンも答える。
 そして、やれやれと言った様子で軽い溜息をつきながらもフェイルは忠告した。
 

「シルク王子。俺達は姫を必ず助けるつもりだ、その為にここにきたからな。だが最悪な事に、この場所に魔王軍幹部がいる以上そっちを討伐する事も重要だ。それを忘れないでくれ。」

「わかっています……ローズは私が助けます!」


 こうして絶対絶命のピンチを逃れたシルクは、勇者フェイル達を仲間にし、再びローズ救出に向かうのであった。
 
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