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第二章

10 嵌められた王子様

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 シルクとゼンが二人で門番が立っている場所まで歩いていくと、他の騎士達は木々に隠れて待機していた。

 今回の目的は、ローズの解放であり基本的には戦闘がメインではない。
 あくまで最初は交渉が前提だ。

「ラギリ!! 私、自ら来てやったぞ! いるのはわかっている、出てこい!!」

 シルクは門番に近づくと、それらを無視して大声で叫ぶ。
 しかし門番達はシルク達に気付いてもニヤニヤと笑って見ているだけで、まともに取り合う雰囲気がない。
 それ故にシルクは門の中にいるであろう、ラギリに向かって叫んだのである。


「おいおい、俺達は無視ってかぁ?」
「この場所でラギリ様をいきなり呼びつけにするなんて、随分立場を弁えないおぼっちゃんだなぁ。」
「門を開けてほしいでちゅかぁ? 欲しければお金を持ってくるんでちゅよぉ。」


 門番達は舐めた態度でシルクを挑発する。
 しかし、シルクはその言葉で確信した。


(やはりラギリはここにいる。そして命令を無視して城に戻らないという事は、ローズも必ず……。)
 

「貴様らっ! 王子に向かってなんだその態度は!」


 そんな事を考えているシルクの傍ら、隣にいるゼンは頭に血管が浮かび上がる程激怒していた。


「はっ? 知らねぇなぁ。その坊ちゃんが王子だなんてなぁ。まぁ例え王子であっても別に俺らはビビりゃしねぇよ。ここは俺達の領域だ。お前の方こそ、そこんところ弁えておけや。」


 ゼンが門番に怒りながら詰め寄るも、門番達はビビることはなく強気な態度で応じ、門を開けるつもりはないらしい。
 どうしたものかとシルクが考えたその時、突然門が内側から開くと奥から一人の姿が現れる。
 そこにいたのはーーラギリ本人だった。


「これはこれは、遠路はるばるこんな所までお越しいただきありがとうございます。王子。」

「ラギリっ!! 貴様!!」


 現れたラギリを目にした瞬間、ゼンは怒りの声を上げる。
 今にも突撃しそうなゼンであったが、それを止めたのはシルクだった。


「待て、ゼン。話合いが先だ。」

「流石は王子。立場をよくわかってらっしゃる。安心してください、ローズ様は無事でございますよ……今のところはね。それよりこんな所で立ち話も何ですし、中にお入り下さい。」


 ラギリは落ち着いた様子でシルク達を門の中に引き入れようとした。
 その態度は門番達と違い、城でシルクと相対している時と変わらない。
 だが、シルクはそれを断る。


「いや、まずはローズの無事を確認させてほしい。門の中に入るのはそれからだ。」

「随分と慎重ですな。まぁ、それは当然と言えば当然でございますね。しかし、困りました。ローズ様は現在お疲れであり、ここまで歩かせるのは難しいのです。その為、ローズ様のところまで案内するつもりだったのですが。」

 
 ふてぶてしくも、明らかに嘘と分かる言葉をはくラギリ。
 当然、シルクがそれ信じることはない。


「そんな嘘が通じるはずがないとお前もわかっているだろう。安心しろ、交渉には応じる。しかし、それよりも先にローズに会わせてくれ。」


 シルクがそう言うと、突然豹変したかのように態度が変わった。


「めんどくせぇ……。あぁ、めんどくせぇなぁ……。正直に言うわ。お前さ、死んでくれよ。ローズ姫なんてどうでもいいんだわ。欲しいのはお前の命。だが安心しろ。姫は生きている……がお前が死んだ後はズーク様の慰み者となるがなぁ!! くははははっ!! 野郎共、こいつら二人を殺せ!」


 その言葉と態度を見て、シルクとゼンは剣を抜く。
 交渉は決裂……否! 最初から相手にそのつもりはなく、自分を殺すための罠だと気付いた。


「遂に本性を現わしたな、ラギリ! ゼン、仕方ない。このまま門に突入してローズを救うぞ。」

「ははっ! この命に懸けましてもシルク王子とローズ姫はお守りします。 ピュルゥゥゥゥ!!」


 ゼンは返事をすると同時に笛を吹いた。
 これは森に潜んでいる仲間達へ伝える、決戦の合図である。
 この音が響いた瞬間、全員で突撃する予定……であったが飛び出してくる仲間は一人もいなかった。


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