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第二章

8 魔法戦士ゼン

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【シルク視点】


「ズーク! 本当にこの樹海の中にアジトはあるんだろうな? 流石にあれだけ深い森だと、正確な道を進むのは難しいはずだ。よもやお前、ここまできて私を騙そうとしているのではないか?」

「滅相もございませぬ。アジトはあの樹海の中で間違いありませぬぞ。心配することは何もございません。私、自らがラギリを勧誘するためにそのアジトまで出向いております故、道は覚えておりまする。剣など向けなくとも、王子を騙すつもりはございませぬよ。」


 シルクは馬で駆け抜けながらも、その隣を併走するズークに剣を向けて言い放った。
 しかしズークは、一切それに微動だせずに淡々と答える。


「くっ……! まぁいい、いずれにせよ行けばわかる。違えばお前の首を刎ねるまでだ。ここにいる者は全てお前の手の者ではない。ここにきて謀反等起こす事はできないぞ。心しておけ。」

「ははぁ。その言葉、深く心に刻む所存でございます。」


 シルクの言葉に仰々しく返事をするズークであるが、その内心は違った。


(馬鹿め。お前は既にワシの術中にはまっておるわい。偉そうにできるのもあと僅か……。ぐふふ、ようやくだ。ようやくワシが王となり、あの美しいローズを妃に迎え、好き勝手できるぞい。ローズが泣き叫ぶ中、無茶苦茶にできる日がくるとはのう。ぐふふふふ……。年甲斐もなく下半身がうずくわい。)


 そしてそのままシルク達は樹海に入り込むと、そこからは速度を落としズークを先頭に進んで行く。
 道中、魔物との戦闘も予想していたのだが、不思議な事に魔物に襲われることはなかった。
 それを若干不自然に感じつつも、しばらくズークの案内で進んで行くと、やがて木々の隙間から遠くに小さな集落があるのを発見する。


「停まりください、王子。あそこに見えますのがラギリの隠しアジトでございます。馬は一度ここの木々に紐で縛り付けて、ここからは歩いて向かう方が良いと思われます。馬では足音が大きすぎます故。」


 ズークがそう言いながら馬から降りる。
 そしてシルクもまた、何も返事をせずに馬から降りた。

 シルクが見据えるは、集落の門の前に立つ6名の盗賊風の者。

 ここがラギリの隠しアジトであるなら、ラギリがズークに仕えている今、門番が立っている事等ありえない。
 あれは完全に何かを警戒している様子だ。


 ローズは間違いなくあの中にいる!!


(ローズ!! 今助けに行くからな! 無事でいてくれ!)


 シルクは思わず力強く握り締める拳に汗がジワっと広がるのを感じた。
 ここが正念場だと本能がそう告げている。
 そして、ここから先の自分の行動でローズの運命が変わるかもしれない。
 故に、普段ならあまり緊張しないシルクの顔が少々強張った。


「それでいかがしますかな? 私が先に行って門番と話を付けに行った方がよろしいか? 門番をしている者は、ラギリで手下でしょう。つまりは、私の元部下でございます。」

「……元? 今でも、お前の部下だろうが。白々しい事を言うんじゃない。確かにここから強行突破するのは愚策……だが、お前を先に行かせるのはもっと愚策だろう。お前の事だ、あそこにいる盗賊たちと共闘して私達を殺す腹なんだろ?」

「そ、そ、そ、そんな、恐れ多い。ここにいるのは、メリッサ国で選び抜かれた猛者8名。とてもラギリの手下では敵いませぬ。私めを疑う気持ちはわかりますが、冷静になってもらわないと困りますな。なんといっても、ローズ姫の命がかかっているのですから。」


 わざとらしく焦った様子をみせるズーク。


 シルクは未だに、これまでの全てがズークによるものだと確信している。
 しかし、証拠はない。
 いや、これまでの行動を無理矢理こじつければ、王国裁判を行ってズークを処断できるだろう。
 だがそんな事よりも、今一番大事なのはローズの命。
 それがあるからこそ、騙されているとわかりながらもズークを連れてきたのである。


「ふんっ。私は冷静だ。まぁいい、交渉は私がする。ラギリもそれを望んでいるだろうからな。」

「いけませぬ、王子!! ズーク大臣は私も疑っておりますが、王子自らが先頭に立つ等危険過ぎます! あなた様の代わりはいないのですよ!? もっとご自身を大事にしてくださいませ。交渉なら私が行います、もちろん、王子の意見を聞いた上で判断しますが。」


 ズークとシルクの会話に割って入ってきたのは、ロイヤルナイツ第一軍団長ゼン。
 ゼンはシルクが幼い頃から教育係そして戦闘の師匠として仕えてきた者で、王国最強の魔法戦士だ。
 そしてシルクにとってローズの次に信頼している者、それがゼンである。


「ゼンよ……。お前の忠告はありがたい。だが、これは私がやらなければならぬ事なのだ。それに私はお前が傍にいるならば、矢の雨の中だろうと裸で進めるだろう。その位お前の武力と忠義を信頼している。だから私は平気だ……やらせてくれ。」


 その言葉にゼンはこれ以上の説得を諦めた。
 ゼンは知っている。
 この目になったシルクは、誰が何を言おうとも決して折れることはない。
 だからこそ、ゼンはいっそうシルクを守る事に全力を尽くす事を心に誓った。


「……王子。わかりました。それではこのゼン、命を懸けて王子を守る事を誓います。ですので、もしも私が倒れた際には必ずやお逃げください。私の亡骸はそのままにし、一目散に逃げるのです。それだけは約束していただきたく思います。」


 ゼンの言葉を重く受け止めるシルク。
 自分の命は自分だけのものではない。
 ローズもそうだが、ここにいる兵士全ての命を預かっているのだ。
 シルクはその事を深く受け止めると、剣をアジトに向けて掲げる。


「わかった。いつもお前には負担をかけるな。では行くぞ!!」



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