29 / 113
第二章
5 囚われたローズ姫
しおりを挟む
密林の中に不自然に存在する小さな集落。
一般的にその造りは農村に近かったのだが、森の中は日辺りが悪く畑等は存在しない。
ーーいや、そもそもその集落には人が住んでいる気配すらなかった。
そう、ここはかつて存在したラギリ盗賊団の隠れアジトである。
5年ほど前にラギリがズークにスカウトされ、盗賊団が丸ごとズークの私兵に加わった今、ここに住んでいる者はいない……はずなのだが、現在この集落には100名程の人が集まっている。
そして今、その集落で最も大きな建物の中では女性の怒声が響き渡っていた。
「今すぐ私を解放しなさい! あなたは何を考えているのですか!? ラギリ!」
「暴れないで下さい姫様。あなたは大事な人質なのです。怪我でもされたら、あなたの兄との交渉が難しくなるでしょう。それに私は国の兵士ではなくズーク様の私兵。姫様の命令に従う義務はございません。」
ローズは、縄に括りつけられながらも必死に手足を動かし、縄を振りほどこうと暴れている。
しかし縄は想像以上に頑丈であり、女性の力では振り解くことはできずにいた。
その状況を監視しているのはラギリ率いる元盗賊団の男達。
そこにはラギリを含めて5人の元盗賊がローズを囲んでいる。
つまり縄をどうにかできても、ローズが逃げる事は絶対にできないだろう。
少なくとも魔法使いは距離が無ければ、ほとんど無力と言っても過言ではない。
監視の目さえなければ魔法で縄を解き脱出することも可能だったが、流石にラギリもそこまで愚かではないため、5名もの監視を付けていたのである。
今は逃げる事が難しいと判断したローズは暴れるのをやめ、ラギリとの対話を試みることにした。
「あなたを……ズーク大臣を信用した私が馬鹿でしたわ。それであなた達の目的は何なのですか!?」
「目的……ねぇ。そんなものは私にはわかりませんね。私はただズーク様に命令された事を忠実にこなしているだけですから。交渉についても私は指示された事を伝えるだけですし。ただ……まぁ、これが成功すれば私は貴族となり、地位と名誉を手に入れることができるでしょう。そうなれば、私の事を馬鹿にしてきた元貴族共に表立って復讐もできるという訳です。笑いが止まりませんねぇ。クククク……。」
ラギリは、意外にもローズの質問に素直に答えた。
ローズにとってこの状況で対話に応じてくれるのは幸運であるが、多分自分を解放することはないと考える。
だが少なくともここで多くの情報を得ておけば、後に色々と役に立つと思い、ローズは質問を続けることにした。
「……あなたは何を言っているの? 貴族制度はもう無くなったわ。それはあなただって知っているでしょ?」
「……くくく。そんなものはまた作ればいい。とりあえず姫様とこれ以上話すつもりはないので、これにて失礼しますよ。くれぐれも暴れて怪我をしたりしないようにお願いしますね。ひ・め・さ・ま。」
ラギリは薄ら笑いを浮かべながらローズにそう告げると、その場から離れて行った。
突然ラギリから対話を打ち切られた事に焦るローズ。
もっと色々聞いておきたかったローズだが、こういった対話の駆け引き等は向いていなかったようだ。
「ちょっと!! 待ちなさいよ! まだ話は終わってないわ! ねぇ、お願い! 戻ってきてください、ラギリーー!!」
ローズの叫びも空しく、その扉は閉まる。
結局のところラギリから聞けた情報は少ない。
しかしながら、その目的は少なくとも自分を殺す事ではないとわかった。
だが逆に自分が捕まっている事で間違いなく兄が危険に晒されてしまう。
この時ばかりは今回の自分勝手な行動が如何に軽率であったかを反省するローズ。
故に、なんとか隙を見て脱出する方法を探る事とした。
一般的にその造りは農村に近かったのだが、森の中は日辺りが悪く畑等は存在しない。
ーーいや、そもそもその集落には人が住んでいる気配すらなかった。
そう、ここはかつて存在したラギリ盗賊団の隠れアジトである。
5年ほど前にラギリがズークにスカウトされ、盗賊団が丸ごとズークの私兵に加わった今、ここに住んでいる者はいない……はずなのだが、現在この集落には100名程の人が集まっている。
そして今、その集落で最も大きな建物の中では女性の怒声が響き渡っていた。
「今すぐ私を解放しなさい! あなたは何を考えているのですか!? ラギリ!」
「暴れないで下さい姫様。あなたは大事な人質なのです。怪我でもされたら、あなたの兄との交渉が難しくなるでしょう。それに私は国の兵士ではなくズーク様の私兵。姫様の命令に従う義務はございません。」
ローズは、縄に括りつけられながらも必死に手足を動かし、縄を振りほどこうと暴れている。
しかし縄は想像以上に頑丈であり、女性の力では振り解くことはできずにいた。
その状況を監視しているのはラギリ率いる元盗賊団の男達。
そこにはラギリを含めて5人の元盗賊がローズを囲んでいる。
つまり縄をどうにかできても、ローズが逃げる事は絶対にできないだろう。
少なくとも魔法使いは距離が無ければ、ほとんど無力と言っても過言ではない。
監視の目さえなければ魔法で縄を解き脱出することも可能だったが、流石にラギリもそこまで愚かではないため、5名もの監視を付けていたのである。
今は逃げる事が難しいと判断したローズは暴れるのをやめ、ラギリとの対話を試みることにした。
「あなたを……ズーク大臣を信用した私が馬鹿でしたわ。それであなた達の目的は何なのですか!?」
「目的……ねぇ。そんなものは私にはわかりませんね。私はただズーク様に命令された事を忠実にこなしているだけですから。交渉についても私は指示された事を伝えるだけですし。ただ……まぁ、これが成功すれば私は貴族となり、地位と名誉を手に入れることができるでしょう。そうなれば、私の事を馬鹿にしてきた元貴族共に表立って復讐もできるという訳です。笑いが止まりませんねぇ。クククク……。」
ラギリは、意外にもローズの質問に素直に答えた。
ローズにとってこの状況で対話に応じてくれるのは幸運であるが、多分自分を解放することはないと考える。
だが少なくともここで多くの情報を得ておけば、後に色々と役に立つと思い、ローズは質問を続けることにした。
「……あなたは何を言っているの? 貴族制度はもう無くなったわ。それはあなただって知っているでしょ?」
「……くくく。そんなものはまた作ればいい。とりあえず姫様とこれ以上話すつもりはないので、これにて失礼しますよ。くれぐれも暴れて怪我をしたりしないようにお願いしますね。ひ・め・さ・ま。」
ラギリは薄ら笑いを浮かべながらローズにそう告げると、その場から離れて行った。
突然ラギリから対話を打ち切られた事に焦るローズ。
もっと色々聞いておきたかったローズだが、こういった対話の駆け引き等は向いていなかったようだ。
「ちょっと!! 待ちなさいよ! まだ話は終わってないわ! ねぇ、お願い! 戻ってきてください、ラギリーー!!」
ローズの叫びも空しく、その扉は閉まる。
結局のところラギリから聞けた情報は少ない。
しかしながら、その目的は少なくとも自分を殺す事ではないとわかった。
だが逆に自分が捕まっている事で間違いなく兄が危険に晒されてしまう。
この時ばかりは今回の自分勝手な行動が如何に軽率であったかを反省するローズ。
故に、なんとか隙を見て脱出する方法を探る事とした。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる