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第一章
8 反抗期な弟
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「……ん、んん? あれ……ここは……俺のベッド?」
カリーは目が覚めると、いつの間にか自分が家のベッドに寝ている事に気付く。
最後の記憶はフェイルに勝負を挑んでボコボコにされたところ……。
そして自分の体を見ると、怪我が一つもない。
そこで全てを理解した。
「……そうか。あいつが運んでくれたのか……。くそ!!」
カリーは今まで自分よりも強い人間に出会った事がなかった。
冒険者ギルドにいる戦士十人を相手にしても勝てる自信はある。
しかし今回、フェイルには全く歯が立たないどころか、相手に武器すら使わせることができなかった。
完敗どころか、戦いにもなっていない状況。
カリーはあの時を思い出して悔しくてたまらなくなると同時に、自分が強いと思っていた事に恥ずかしさすら覚えた。そしてその行き場のない怒りは、その拳を布団に叩きつけても消えやしない。
だが、思い出す。
フェイルが最後に言っていた言葉を……
【大切な者を守れなくてもいいのか?】
「いいわけないだろ!! クソ! 何が最強の戦士だ! 何が弱い奴を守るだ! 俺が弱ければ意味ないだろが!」
言葉に現わせない感情の代わりに、怒りの感情を吐き出しながら枕を扉に投げつけるカリー。
「ちょっと!! カリー?? どうしたの? 起きたの!?」
その音を聞いたバンバーラは慌てて部屋に入ってくる。
そして、その後ろにはあいつ
……フェイルがいた。
その様子を見たフェイルは、バンバーラの前に出るとカリーに近づく。
「なんだ? 八つ当たりか? お前……だせぇな。お前は本当に弱すぎる。」
「うるせぇ!! 弱くて悪いかよ!!」
「あぁ、悪くはないね。ただ、弱いなら弱い風に振舞えよ? それにな、俺が弱いって言ってるのは、お前の力じゃない。お前の心だ。そんな心じゃ、力があったとしてもお前は大切なものを何一つ守れやしない。」
鋭い眼光を向けて言葉を放つフェイル。
しかし、まだ精神的にも幼かったカリーはそれに反抗した。
「はっ! お前に俺の何がわかるっつうんだよ! どうせお前みたいな強い奴は、弱い者の気持ちなんかわからないだろ! 偉そうな事言ってんじゃねぇよ。」
「……そうだな。俺はお前と違って弱いままではいられない。だから、その気持ちは決してわかり合えないだろうな。だがこれだけは言わせてもらうぜ? 失う辛さはお前の何倍もわかっている。」
フェイルはそう言いながらカリーの目を正面から見つめると、カリーもまた、睨み返すようにフェイルを見る。
一触即発になりそうな雰囲気を感じ取ったバンバーラは、すかさず二人の間に割って入った。
「もうやめなさいカリー!! 失礼よ! 大体ね、カリーが……」
「姉さんは黙っててくれ! お前らもう出てけよ!!」
その言葉にフェイルとバンバーラは顔を見合わせると、そのまま何も言わずに部屋を出ていった。
そして一人になったカリーは、今の自分がフェイルが言ったように凄くダサいと思い、自己嫌悪に陥る。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
いつでも自分に自信があったし、それに伴う実力だってあると信じていた。
しかし違った。
それは、自分が知る小さな世界でだけの話で、現実の世界はもっと果てしなく広い。
初めて負けた……それも完膚なきまで……。
そのショックはカリーにとって、想像以上に大きかった。
カリーは目が覚めると、いつの間にか自分が家のベッドに寝ている事に気付く。
最後の記憶はフェイルに勝負を挑んでボコボコにされたところ……。
そして自分の体を見ると、怪我が一つもない。
そこで全てを理解した。
「……そうか。あいつが運んでくれたのか……。くそ!!」
カリーは今まで自分よりも強い人間に出会った事がなかった。
冒険者ギルドにいる戦士十人を相手にしても勝てる自信はある。
しかし今回、フェイルには全く歯が立たないどころか、相手に武器すら使わせることができなかった。
完敗どころか、戦いにもなっていない状況。
カリーはあの時を思い出して悔しくてたまらなくなると同時に、自分が強いと思っていた事に恥ずかしさすら覚えた。そしてその行き場のない怒りは、その拳を布団に叩きつけても消えやしない。
だが、思い出す。
フェイルが最後に言っていた言葉を……
【大切な者を守れなくてもいいのか?】
「いいわけないだろ!! クソ! 何が最強の戦士だ! 何が弱い奴を守るだ! 俺が弱ければ意味ないだろが!」
言葉に現わせない感情の代わりに、怒りの感情を吐き出しながら枕を扉に投げつけるカリー。
「ちょっと!! カリー?? どうしたの? 起きたの!?」
その音を聞いたバンバーラは慌てて部屋に入ってくる。
そして、その後ろにはあいつ
……フェイルがいた。
その様子を見たフェイルは、バンバーラの前に出るとカリーに近づく。
「なんだ? 八つ当たりか? お前……だせぇな。お前は本当に弱すぎる。」
「うるせぇ!! 弱くて悪いかよ!!」
「あぁ、悪くはないね。ただ、弱いなら弱い風に振舞えよ? それにな、俺が弱いって言ってるのは、お前の力じゃない。お前の心だ。そんな心じゃ、力があったとしてもお前は大切なものを何一つ守れやしない。」
鋭い眼光を向けて言葉を放つフェイル。
しかし、まだ精神的にも幼かったカリーはそれに反抗した。
「はっ! お前に俺の何がわかるっつうんだよ! どうせお前みたいな強い奴は、弱い者の気持ちなんかわからないだろ! 偉そうな事言ってんじゃねぇよ。」
「……そうだな。俺はお前と違って弱いままではいられない。だから、その気持ちは決してわかり合えないだろうな。だがこれだけは言わせてもらうぜ? 失う辛さはお前の何倍もわかっている。」
フェイルはそう言いながらカリーの目を正面から見つめると、カリーもまた、睨み返すようにフェイルを見る。
一触即発になりそうな雰囲気を感じ取ったバンバーラは、すかさず二人の間に割って入った。
「もうやめなさいカリー!! 失礼よ! 大体ね、カリーが……」
「姉さんは黙っててくれ! お前らもう出てけよ!!」
その言葉にフェイルとバンバーラは顔を見合わせると、そのまま何も言わずに部屋を出ていった。
そして一人になったカリーは、今の自分がフェイルが言ったように凄くダサいと思い、自己嫌悪に陥る。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
いつでも自分に自信があったし、それに伴う実力だってあると信じていた。
しかし違った。
それは、自分が知る小さな世界でだけの話で、現実の世界はもっと果てしなく広い。
初めて負けた……それも完膚なきまで……。
そのショックはカリーにとって、想像以上に大きかった。
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