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第一章
4 貧民街に住む姉弟
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「ふぁぁ~あ……今日は全く釣れねぇなぁ、クロ。」
「ナァァ~。」
河川敷の岩に座りながらカリーは大きな欠伸をする。
そのカリーの膝の上にはクロと呼ばれた真っ黒な色をした猫が丸くなりながらも、カリーの声に反応して鳴いていた。
カリーは現在15歳。幼い頃に両親を魔物との戦争で亡くし、以来、3つ年上の姉バンバーラと共に孤児院に引き取られる。そしてバンバーラが16歳になると一緒に孤児院を出て、小さな家を借りて二人で住んでいた。
姉のバンバーラは、12歳の時に魔法使いの才能が開花し、その頃から小さいながらも冒険者登録をしてお金を稼ぎ、女手一つでカリーを養う。
この世界にある冒険者ギルドには年齢制限がない。
なぜならば、今は魔物の数が多すぎて猫の手も借りたい状態だからだ。
故に、年齢よりもその強さが重要視されている。
そして16歳になる頃には、国でもトップレベルの魔法使いとなっており、貧民街であれば家を借りて住むくらい問題ない位の稼ぎを手にしていた。
実際には平民街でも余裕で暮らす事はできるが、使う支出は最低限にし、余ったお金は全て自分達を育ててくれた孤児院に寄付している。
才色兼備で人望も厚く、美しい姉。
逆にカリーはまだ幼さ故もあり、度々貴族からの仕打ち等に腹を立てては、暴力で対抗する悪ガキと評価されていた。貴族に逆らえば、子供と言えど処断されてもおかしくは無かったのだが、替えのきかない人材であるバンバーラ、そして王に許しを嘆願する王女のお蔭で、大きな罪とはされずに現在に至る。
だが、そんな状況にカリーは苛立ちを覚えた。
自分は正しい事をしているはずなのに、この国では間違いとされ、更には関係のない姉や何故か慕ってくる姫にまで迷惑をかけている。
それが納得いかない。
それでも、やはり目の前で悲惨な事を目にすれば、体が勝手に動いてしまう。このままではいけないとは思いつつも、何をどうすればいいのかわからず、今日もまたモヤモヤしながら日課の釣りをしているのであった。
「お、おぉ!? かかった!!」
一瞬の反応を見逃すことなく、竿を上手に操るカリー。
カリーの身体能力は元々非常に高く、かつ、あらゆるセンスがずば抜けている。
故にカリーもまた、12歳の頃から冒険者に登録をして魔物と戦っており、その戦闘能力は既に戦士としてこの国のトップクラスだった。
そして朝一の魔物狩りと昼過ぎの釣りはカリーの日課である。
「ぐぐ……。こいつは大物だな。クロ、今晩の飯は期待していいぞ!」
「ニャぁ。ナァァァ~。」
「ちょ!? おい、クロ!? どこいくんだよ! ったく!」
カリーが必死に竿を引いていると、クロはそのままどこかへ行ってしまう。
実はこの時、後ろには忍び足で近づいて来たローズが来ており、それに気づいたクロはローズに近づくと右足に頭をこすり付けていた。
「し~。」
ローズはクロに人差し指をたてながらも、そぉっとカリーに近づいて行く。
「オッシャーーー!! こいつは過去一番のマスだぞ!!」
「すっごぉぉぉーーい! おっきぃぃーー!」
カリーが魚を釣り上げて喜ぶと、驚かせようと近づいたローズもまた、その大きな魚を目にして歓声を上げてしまった。
「うぉあ!! なんでお前がいんだよ!! おっととと……。」
突然ローズがいる事に気付いて驚いたカリーは、思わず捕まえた魚を川に落としそうになった。
「えっへへーー。きちゃった。」
「きちゃったじゃねぇよ、馬鹿。危うく、晩飯落とすとこだったじゃねぇかよ。ったく! 来るなら普通に声掛けろや、つか、また王宮抜け出してきたのかよ。」
「ぶぅ~。馬鹿っていったぁぁ。酷いカリー。あたし……あたし……。」
「ちょ……ちょちょ……。ごめんごめん、今のはなしだ。つい、勢いで言っちまっただけで……んと、その、あれだ。ほらこの魚、後で分けてやるから泣かないでくれ。」
突然、泣きそうになったローズを見て、慌てるカリー。
だが……。
「やったーー! ご馳走様、カリー。」
「あぁぁ!! てめぇぇ騙しやがったなぁ?」
「うえぇぇーん。カリー怖いよぉぉ。」
「もう騙されないからな。」
「てへ。バレたかぁ~。ねぇねぇ、今日その魚、あたしが料理してあげようか?」
「今日って……。いやいや、流石にお前は帰らないとダメだろ。つか、俺のところきてもいいのかよ? 今度見つかったら流石にヤバイんじゃないか?」
「いいのいいの。あんな馬鹿ばっかりの城になんて帰ってやらないんだから! お父様も少しは心配すればいいのよ!! ていうか、カリー。いい加減アタシの事お前って言うのやめてよ。ちゃんとローズって呼んで!」
「ば、ばか! そんな……の言えねぇよ!」
「えぇ~? なんでぇ~? なんで顔赤いの? ねぇなんでぇぇ?」
真っ赤にした顔を背けるカリーであったが、ローズが回り込んでその顔を覗きながら悪戯な笑みで問い詰める。
すると目が合ったカリーは、更に顔を真っ赤にした。
うぶなカリーは、ローズの顔が可愛すぎて真面に顔を見れない。
そしてピンチに陥ったカリーは話題を変えた。
「ナァァ~。」
河川敷の岩に座りながらカリーは大きな欠伸をする。
そのカリーの膝の上にはクロと呼ばれた真っ黒な色をした猫が丸くなりながらも、カリーの声に反応して鳴いていた。
カリーは現在15歳。幼い頃に両親を魔物との戦争で亡くし、以来、3つ年上の姉バンバーラと共に孤児院に引き取られる。そしてバンバーラが16歳になると一緒に孤児院を出て、小さな家を借りて二人で住んでいた。
姉のバンバーラは、12歳の時に魔法使いの才能が開花し、その頃から小さいながらも冒険者登録をしてお金を稼ぎ、女手一つでカリーを養う。
この世界にある冒険者ギルドには年齢制限がない。
なぜならば、今は魔物の数が多すぎて猫の手も借りたい状態だからだ。
故に、年齢よりもその強さが重要視されている。
そして16歳になる頃には、国でもトップレベルの魔法使いとなっており、貧民街であれば家を借りて住むくらい問題ない位の稼ぎを手にしていた。
実際には平民街でも余裕で暮らす事はできるが、使う支出は最低限にし、余ったお金は全て自分達を育ててくれた孤児院に寄付している。
才色兼備で人望も厚く、美しい姉。
逆にカリーはまだ幼さ故もあり、度々貴族からの仕打ち等に腹を立てては、暴力で対抗する悪ガキと評価されていた。貴族に逆らえば、子供と言えど処断されてもおかしくは無かったのだが、替えのきかない人材であるバンバーラ、そして王に許しを嘆願する王女のお蔭で、大きな罪とはされずに現在に至る。
だが、そんな状況にカリーは苛立ちを覚えた。
自分は正しい事をしているはずなのに、この国では間違いとされ、更には関係のない姉や何故か慕ってくる姫にまで迷惑をかけている。
それが納得いかない。
それでも、やはり目の前で悲惨な事を目にすれば、体が勝手に動いてしまう。このままではいけないとは思いつつも、何をどうすればいいのかわからず、今日もまたモヤモヤしながら日課の釣りをしているのであった。
「お、おぉ!? かかった!!」
一瞬の反応を見逃すことなく、竿を上手に操るカリー。
カリーの身体能力は元々非常に高く、かつ、あらゆるセンスがずば抜けている。
故にカリーもまた、12歳の頃から冒険者に登録をして魔物と戦っており、その戦闘能力は既に戦士としてこの国のトップクラスだった。
そして朝一の魔物狩りと昼過ぎの釣りはカリーの日課である。
「ぐぐ……。こいつは大物だな。クロ、今晩の飯は期待していいぞ!」
「ニャぁ。ナァァァ~。」
「ちょ!? おい、クロ!? どこいくんだよ! ったく!」
カリーが必死に竿を引いていると、クロはそのままどこかへ行ってしまう。
実はこの時、後ろには忍び足で近づいて来たローズが来ており、それに気づいたクロはローズに近づくと右足に頭をこすり付けていた。
「し~。」
ローズはクロに人差し指をたてながらも、そぉっとカリーに近づいて行く。
「オッシャーーー!! こいつは過去一番のマスだぞ!!」
「すっごぉぉぉーーい! おっきぃぃーー!」
カリーが魚を釣り上げて喜ぶと、驚かせようと近づいたローズもまた、その大きな魚を目にして歓声を上げてしまった。
「うぉあ!! なんでお前がいんだよ!! おっととと……。」
突然ローズがいる事に気付いて驚いたカリーは、思わず捕まえた魚を川に落としそうになった。
「えっへへーー。きちゃった。」
「きちゃったじゃねぇよ、馬鹿。危うく、晩飯落とすとこだったじゃねぇかよ。ったく! 来るなら普通に声掛けろや、つか、また王宮抜け出してきたのかよ。」
「ぶぅ~。馬鹿っていったぁぁ。酷いカリー。あたし……あたし……。」
「ちょ……ちょちょ……。ごめんごめん、今のはなしだ。つい、勢いで言っちまっただけで……んと、その、あれだ。ほらこの魚、後で分けてやるから泣かないでくれ。」
突然、泣きそうになったローズを見て、慌てるカリー。
だが……。
「やったーー! ご馳走様、カリー。」
「あぁぁ!! てめぇぇ騙しやがったなぁ?」
「うえぇぇーん。カリー怖いよぉぉ。」
「もう騙されないからな。」
「てへ。バレたかぁ~。ねぇねぇ、今日その魚、あたしが料理してあげようか?」
「今日って……。いやいや、流石にお前は帰らないとダメだろ。つか、俺のところきてもいいのかよ? 今度見つかったら流石にヤバイんじゃないか?」
「いいのいいの。あんな馬鹿ばっかりの城になんて帰ってやらないんだから! お父様も少しは心配すればいいのよ!! ていうか、カリー。いい加減アタシの事お前って言うのやめてよ。ちゃんとローズって呼んで!」
「ば、ばか! そんな……の言えねぇよ!」
「えぇ~? なんでぇ~? なんで顔赤いの? ねぇなんでぇぇ?」
真っ赤にした顔を背けるカリーであったが、ローズが回り込んでその顔を覗きながら悪戯な笑みで問い詰める。
すると目が合ったカリーは、更に顔を真っ赤にした。
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