上 下
397 / 397
第四部 サムスピジャポン編

144 またな

しおりを挟む
「ふぁぁぁ~。ふぅ、あれ? 昨日俺何してたんだっけ?」


 翌朝、俺は布団から起きたがると、大きなあくびをしながら昨日の事を思い出そうとする。


……が


「えっと葬式が終わって、飯食って風呂入って……あれ? その後の事が思い出せないな。」


 よく思い出せない。


 すると、ゲロゲロも起きたようでが、眠そうに目を細めながら大きく前足を伸ばす。


「ゲロ(おはよう)」

「おはようゲロゲロ。相変わらずモフモフしてて可愛いなぁ。」


 俺はそんなゲロゲロを抱きかかえて、モフモフを顔にこすりつけて堪能する。


「ま、ゲロゲロも一緒って事は特になんもなかったんだろうな。疲れてすぐ寝ちまったんだろう。」

「ゲロ?(どうしたの?)」

「いや、なんでもない。とりあえず朝飯でも食いにいくか。」


 そう言って俺とゲロゲロは、事前にセイメイから言われていた通り、謁見の間に向かった。

 この大陸から旅立つ前に、最後に朝食でおもてなしをしたいそうである。

 ちなみに、その最後のおもてなしには度肝を抜かれた。

 朝食にも関わらず、あまりに凄い量だったというのもあるが、驚いたのはそこではない。

 この旅で俺がうまいと言っていた物全てが出てきたからだ。

 当然夕食にもそういう傾向があったが、これはレベルが違う。

 言葉通り……全てだ。

 どうやって手に入れたかはわからないが、クエール料理まであり、朝食にも関わらず俺は死ぬほど食ってしまった。


 ※  ※  ※


 謁見の間で朝食を終えた後、俺達は近くの港へと馬車で向かう事になった。

 そしてそれにはロゼはもちろんの事、セイメイもついてくるようである。

 てっきりセイメイとは朝食の後にお別れだと思っていたのだが、どうやら港でお見送りするつもりらしい。

 港まで馬車で3時間。

 朝食が長引いたせいもあって、着くのはお昼頃である。

 大分時間に余裕もあるし、腹が苦しいので、俺はベッド付きの馬車の中で横になる事にした。



 しばらくして潮の匂いを感じた俺は、起き上がって窓の外を見る。


「お、海だ! 海が見えるぞ! って、あれは覇王丸!?」


 場所の外に映る広大な海と港。
 
 そして停船所には見覚えのある巨大な船、そう、【覇王丸】が目に映った。


「まさか帰りもアレに乗れるのか!?」

「そのようでござるな、師匠。」


 俺の質問に一緒の馬車に乗ったイモコが答える。

 覇王丸はここに来る間のった超豪華客船だ。

 またあれに乗って帰れるとは思っていなかったのでテンションがあがる。

 これもまたセイメイによる粋なはからいだろう。


 そしてようやく港に着いて場所を降りると、先に到着していたセイメイが俺が降りるのを待っていた。


「サクセス様。本当にありがとうございました。どうか無事に帰還される事を祈っております。」


 船に乗り込む前に、セイメイが俺に別れの挨拶をする。


「あぁ、俺も随分世話になったよ。セイメイがいたのが当たり前だったから、今後は色々苦労しそうだ。」


 セイメイは戦闘面はともかくとして、他の事では何から何まで完璧にこなしてくれた。
 
 快適に旅ができたのも、何も考えずに進めたのもセイメイのお蔭。

 そのセイメイがいなくなるというのは、ちょっと不安が残る。


 それに女だと知ったのに何もできなか……

 え? 女? あれ? なんか大事な事を忘れているきがするぞ!?


 ふと何かを思い出しかけた俺だが、続くセイメイの言葉で現実に戻る。


「その言葉、私にとって何よりの言葉でございます。いつでもこの大陸にお越しくださいませ。その時は……」


 セイメイはそこまで言って言葉を区切ると、耳打ちする。


「愛人として。一緒にいさせてもらいます。」


 その言葉を聞き、咄嗟に後方へ下がる俺。
 
 何がやばいって、またシロマから殺気を感じたからだ。

 愛人……そうか、よく思い出せないけどこれだけはわかる!

 セイメイは女だ! 間違いない!


 そんな確信を胸に、俺の前に立ちふさがるように立ったシロマは、セイメイに手を差し伸べる。


「セイメイさん。い、ろ、い、ろ、お世話になりました。また此方には遊びに来たいと思っておりますので、その際はよろしくお願いします。」


「こちらこそ、お世話になりました。はい、是非お待ちしております。ですが、サクセス様だけは私がご案内しますので、ご了承下さいませ。」


 シロマの手を握り返したセイメイもまた、冷ややかな笑顔を見せながら言葉を返す。

 二人とも言葉は普通だが、二人の目線かバチバチとぶつかっているのを感じ、その場から俺は逃げだした。



※ 一方、カリーは……


「カリー。私泣かないよ。だってまたすぐに会えるって信じてるから。」

「あぁ、必ず戻る。それまで元気でいろよ、ロゼ」


 そういいながらも、ロゼの瞳には涙が溜まっていた。

 そんなロゼをカリーは優しく抱きしめると、名残惜しいのか、そのまま二人しばらく静かに抱き合っていた。

 だが、ずっとそうしている訳にもいかず、ロゼの方から離れる。


「体に気を付けてね、カリー。それと浮気はしちゃだめだよ!」

「なっ! サクセスじゃないんだから、ってそうじゃないな。わかった。誓うよ、ロゼ。そして必ず戻ってくる。」

「うん。大好きだよ! カリー!」


 ロゼのその言葉を最後に、カリーも船に乗り込んでいった。

 その後ろ姿をロゼはずっと見つめ続ける……。


 そしてしばらくして覇王丸から汽笛が鳴り響いた。

 遂に出航だ。


 再び、元の大陸に向け……


 ※  ※  ※



「大野将軍!!」

「おぉ! みつを、蜂蜜男(はちみつを)ではないでござるか!」


 船の甲板の上でイモコが海を眺めていると、懐かしい男が近づいてきた。


「将軍、長きに渡る戦い、本当にお疲れ様でございました。今回、私がこの船の船長として将軍たちを大陸に送り届けますので、何かあれば言ってください。」


 みつをは礼儀正しく頭を下げる。


「そうでござるか、よろしく頼むでござる。しかしもう某は将軍ではござらん。イモコと呼ぶでござるよ。みつおと某は戦友でござろう。」

「そんな……滅相もありません。恐れ多すぎてそのような事は……」


 すると、その場にまた二人の男が近づいてきた。


「みつを! 違った船長。抜け駆けはずるいぞ。」

「そうだそうだ。」


 新たに来た二人を当然イモコは知っている。

 この大陸の為に、イモコと一緒に戦ってきた仲間達だ。

 赤い髪の男は紅蓮と言うなの副官。
 そして青い髪で若干頭頂部が薄くなっているのは蒼弦という武士。


「紅蓮、そして蒼弦も。元気でござったか?」

「はい! 将軍も元気そうでなによりです。」

「やはり将軍は大将軍でしたな。まさかウロボロスを本当に倒してしまうとは……それでこれから戻って将軍は何をなさるおつもりで?」


 蒼弦の言葉にイモコは首を振る。


「勘違いでござる。倒したのは師匠であるサクセス殿でござるよ。そしてこれより某は師匠の下で義理を果たしつつ、更なる高みを目指すつもりでござる。」

「流石は将軍……いえ、イモコ殿でございます。」


 感服した様子でみつおがそう答えると、隣にいた紅蓮が目をキラキラと輝かせた。


「イモコ殿! 私と蒼弦も一緒に御供させてもらってはいけないでしょうか?」

「お、いいねぇ紅蓮。また一緒に将軍……じゃなかったイモコ殿の下で暴れようか。」


 二人は期待する目をイモコに向けるが……


「それは無理でござる。まず第一に某ですら、師匠と一緒に戦うには戦力的に不十分。お前達ではついてこれないでござる。そして何より平和になった今、そなたらには待っている家族の下で幸せに暮らして欲しいでござる。これからは国の為でなく、家族の為にその命を懸けるでござるよ。」


 その言葉に、目の前の三人は涙する。


「将軍……わかりました。ではそれまでどうかご一緒させてください。」

「御意……でござる。」


 涙を流す三人の肩を、イモコは一人づつ叩いていると、そこにサクセスの声が聞こえてきた。

 
「おーい! イモコ! 釣りしようぜ! カリーがまた勝負とか言ってきてさ!」


「ふふ。まぁそういう訳で、某は行くでござる。なに、心配はござらん。大陸まではずっと一緒にいるでござるから、夜にでもまた集まって酒でも交わそうでござる。」


「はい!!」


 今回の航海メンバーはイモコが一番長く一緒にいたメンバーで揃えられている。

 これもまた、セイメイからのささやかなサプライズであり、当然それに感づいたイモコは、大陸の方に向けて頭を下げて感謝した。


「セイメイ……達者でな。国を頼むでござるよ。」


 こうして、サムスピジャポンでの戦いは幕を閉じた。

 出会い、別れ、色んな事があったが、どれも全てがかけがえのない事だった。

 そして遂に、元の大陸にて待っている仲間達と共に、新たなる冒険が始まるのであった。



「某達を置いて行かないでくださいよぉ~」


 という重兵衛達の悲痛な声を残して……

 

 第四部 サムスピジャポン編 完
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

オクタマ
2022.01.22 オクタマ

いつのまにかカリー外伝が始まっていたのですね!
まだ3話までしか読んでいませんが、カリーが優等生からガラッと豹変するスピード感、ゾクっとしました♪
爪を隠す人間って…魅力的に感じるんですよねぇ。
文章だけでそれを感じさせるなんて、相変わらずの文才ですね。
これからも応援してます、頑張ってください!

解除
スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

キミちゃん
2021.08.28 キミちゃん

ありがとうございます!
これからも、是非お読みいただけるよう頑張ります。

解除
花鳥風月(元オーちゃん)

ゲ、ゲロゲロー!!

解除

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。