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第四部 サムスピジャポン編

45 イモコ VS 献身 & 震源

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 小次郎を抜かして、残り3人。

 先ほどとは違い、今度は次の戦闘まで間はなさそうである。

 なぜならば……既にイモコの傍に二人の男が立っていたからだ。


「次の相手は私ですよ、震源。あなたは下がって見ててください。」

「否! 次は俺だ! さっきから俺のマグマがたぎって仕方ねぇ! 塩をよこせ、献身!」


 そう言っていがみ合う二人。

 そこにスサノオが割って入る。


「震源、お前は献身の後だ。おとなしく待っているがよい。」

「あぁ? 俺は今やりたいんだ! やらせろや!」


 震源はスサノオ相手でも噛みついていた。
 
 それを横で見ていた献身は、ヤレヤレといった風に首を振っている。

 そこに今度は小次郎が現れると、凄まじい殺気を放った。


「おい、てめぇ。気持ちはわかるが、おやっさんにその態度は気に食わねぇな。てめぇ……斬るぞ?」


 小次郎から放たれる殺気は、離れた場所にいるイモコにすら届く。

 そして離れているにも関わらず、その殺気を感じたイモコの体は震えていた。


(これは……本気で殺すつもりでござる。)


 既に小次郎の刀は抜かれている。

 今、正に、次の瞬間にはその刀が振り抜かれてもおかしくはない。


ーーだが、それを傍観するスサノオではなかった。


「やめろ、二人とも。震源、お前が守れないならお前を天界に返す。それでいいなら、ここで小次郎に斬られろ。」


 その言葉を聞くと、震源はその場にしゃがむと胡坐をかく。


「わぁった、わぁったよ! 俺が悪かった。だが、もしもあいつが献身に負けたら、お前が俺の相手をしろよ。小次郎。」

「ふん、いくらでもやってやらぁ。お前ごとき何度でも刀の錆にしてやんよ。」


 そう言って、今度は小次郎が剣を納める。

 一連の騒動が終わると、献身がゆっくり歩いてイモコに近づいてきた。


「私の名前は献身。此度の試練、誠に見事であった。だが私も負ける訳にはいかない。良き勝負をしよう。」


 そういって献身は手を差し伸べる。

 当然、イモコはその手をとって握った。


「某の名は、大野 芋狐。だが今はイモコと名乗っているでござる。御高名高き献身殿と刀を交えられる事を光栄に思うでござる……が、某も負ける気はないでござるよ。」


 その言葉に献身はフッと笑う。


「いいでしょう。お互い本気でぶつかるとしましょう。」


 その言葉を残し、献身が開始線につくとスサノオが合図をした。


「97戦目、開始ぃぃ!」


 献身の手には短い槍が握られている。
 
 その先端を見て、驚きの表情を表すイモコ。


(あれは……人参でござるか!?)


 なんと献身の持つ槍の先端についていたのは橙色の……人参だった。

 それを見たイモコは、少しだけ頭にくる。


「なめるなでござる!」


 イモコは刀を抜刀すると同時に居合斬りを放った……が、献身にその刃は届かない。


「何っ!? なぜでござるか!?」


 イモコが間合いを間違えるはずがない。
 間違いなく今の一撃は献身を斬っていた。
 しかし実際にはあたっておらず、献身は無傷である。


 それどころか、献身は動いてさえいなかった。


「なめて等いませんよ。むしろなめているのは貴方の方です……人参を舐めるな!」


 動揺するイモコに槍を突き刺す献身。

 だが、イモコはこれを何とか回避する。

 しかしよく見ると、イモコの右腕がえぐられていた。
 

「ぐっ……。そう言う事でござるか。」


 そこでイモコは気づく。

 なぜ初撃の時に、間合いがずれていたのかを。

 イモコは献身の槍を見た時に、その人参に目がいってしまった。

 その人参は高速で回り続けており、それを無意識に見つめたイモコは、遠近感覚をずらされていたのである。

 更に献身の攻撃をイモコは簡単に躱したつもりだったが、回転する人参は若干凸凹していて、ミリ単位で避けるイモコの感覚を狂わせ、そして掠ってしまった。


 そして掠っただけでこの威力。


 まともに当たれば、イモコの体は木っ端みじんだ。


「どうやら私の実力がわかったようですね。貴方は野菜の力を舐めている。野菜は素晴らしいのです! この戦いを……。」


 戦闘中にもかかわらず、献身はどこから取り出したのかわからないナスを手に持ち、恍惚の表情を浮かべて頬ずりする。

 色々と語りたかったのかもしれないが……その隙をイモコが逃すはずはない。


「ぐはっ!!」


 その話の際中に、イモコの刀が献身の胸を貫く。

 そう、イモコは話を聞いている振りをしながら力をため、高速で突きを放ったのだ。

 献身は胸に開いた穴に手を触れると、そのまま何も言わず……悲しそうな表情を残して消えていった。


「勝者! イモコ!」


 そのスサノオの宣言と同時に、震源が立ち上がる。


「やるな、イモコ。まさか献身を倒しちまうとはなぁ。だが、俺はそう簡単にはいかねぇぜ。」


 震源はイモコに向けて言い放つと、その場で四股を踏んだ。


 突如大きく揺れる道場。


 震源の名前は伊達ではない。

 突然起きた大地震に、イモコも体勢を崩しそうになる。

 そしてそのまま震源が開始線につくと、スサノオの合図で戦闘が始まった。


 震源は無手であるが、一体どのような戦い方をするのだろうか?

 流石にイモコも相手の情報がないまま戦うのは極めて不利だ。


 同じ刀での斬り合いならば、ある程度対策もとれるが、無手という未知の武術相手だと迂闊に動くのも危険である。

 それにさっきの地震も厄介極まりない。

 どうするべきかイモコが様子を見ていると、震源はイモコに向かって塩を振りまいた。


「おぉ! 滾る! 滾るぜぇぇ!」


 叫ぶ震源。

 どういう原理かわからないが、震源の体が一回り大きくなったように見える。


――そしてそれと同時に震源は突進してきた。


「どす……こーーーい!!」


 下半身を落としての突進は極めて力強く、そして速い。

 しかしイモコはこれを迎え撃つことはせず、体を捻らせて回避した!


……だが


「はぁっはぁっはぁっ!!」


 そのまま突撃するかに見えた震源は、イモコに近づくと一瞬で百発の張り手を放つ。


「ぐっ!!」


 不意を突かれたイモコは、これを直撃するとそのまま後方に吹き飛ばされた。


 道場の壁に衝突するイモコ。そのダメージは大きい。


 しかし、震源の攻撃は止まらない。


 その場で再び下半身を落として力を溜めると、なんとミサイルのように頭突きをしながら飛んできた。


 なんとか立ち上がったイモコであるが、体勢が整う前に震源が迫りくる。


 絶体絶命のイモコ。


 だがそこで、これまでの戦いで体得した技を反射的に放った。


  迫りくる震源。
 
  迎え撃つイモコ。


 そして、震源のスーパー頭突きが直撃する直前、イモコはそのまま自ら後方に倒れ込むと、震源がイモコの上を通過してしまう。

 そこに、倒れながら足を突きだす事で、上を通過した震源の局部にヒットすると、そのまま押し出した。


「ぎゃぁぁぁ!」


「秘技金的巴蹴りでござる!」


 スーパー頭突きの勢いと金的蹴りで押し込まれた震源は、局部の激痛と共に、そのまま道場の壁を突き破って飛んで行く。


「場外! 勝者イモコ!」


 すると、スサノオによる勝利の宣言が聞こえた。

 正直場外ルールというのが存在するかは疑問だったが、適用された事にイモコはほっと胸をなでおろす。

 
 震源がどうなったかはわからないが、勝利は勝利だ。

 これで残すところ後2戦。


 だが、イモコは知らない。


 この後控えている二人こそ、今回の百人斬りの最大の難所であることに……。

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